『~君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる~WHO YOU ARE 』を読んでみた


偉大な文化があっても、偉大なチームをつくれるわけじゃありません。プロダクトがダメなら、文化が優れていても企業は失敗してしまいます。それでも文化を気にすべきなのは、人間の記憶に残るのは会社の業績でもなく、時にはプロダクトでもなく、会社の気風や気質だからです。

そこからみんなの目的意識が生まれます。資金ショートや株価急落、度重なるレイオフなど死の淵から生き延びた著者が、18年かけてたどりついたビジネスで最重要の本質的なテーマを取り上げたのが本書となります。

■著書
~君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる~WHO YOU ARE
ベン・ホロウィッツ著

アップル文化はアマゾンでは絶対通用しない

本書で最初に紹介されているのは、文化の違いについてです。アップルとアマゾンといえば、GAFAの一角をそれぞれ担う大企業ですが、それぞれの会社にマネできない独自の文化があります。

アップルでなによりも優先されるのは、世界一美しいデザインを生み出すこと、と本書では語られています。50憶ドルもかけておしゃれな新本社ビルを建設したのは、デザインに対する彼らのこだわりといえます。

それとは対照的に、アマゾンでは他社の利幅が大きなところに自分たちの商売のタネがあるとし、倹約を徹底する風潮があります。どちらの会社がどうこうというわけではなく、2社いずれも成功しているのです。

文化は一度作れば終わりというわけではない

文化とは社訓や社是のようなものではなく、一度作れば終わりではありません。軍隊がいうような、『基準以下の行いを放置しておくと、それが新しい基準になる』というのは、企業でも同じことが言えます。

文化に沿わない行いを見聞きしても対処しなければ、それが新しい文化になります。ビジネス環境が変化し、戦略も変わっていく中で、企業文化も環境に合わせて変わり続ける必要があります。

本書では歴史上の人物が自分自身とその文化を変えるために、どんな努力が必要だったかに着目し、『文化』について解説しています。

その中でも以下4人をお手本とし、自分が望む文化の形成方法について、ピックアップされています。

①奴隷革命の成功者:トゥーサン・ルーベルチュール
②侍=武士道
③チンギス・ハン
④殺人罪で19年の懲役刑を受けた人物:シャカ・サンゴール

今回のレポートでは、それぞれの人物の中でも特に印象に残ったものをピックアップします。

ルーベルチュールのテクニック:ショッキングなルールをつくる

ルーベルチュールは、既婚者は妾をとることを禁止しました。その理由は、妻との約束も守れない人は、組織のルールも守れないという理由からです。ルーベルチュールの生きた時代と環境では、妾はあって当然という考え方でした。そのため、表題でいうショッキングなルールに該当します。

ショッキングなルールとは、効果的に作用するルールを指します。長期にわたって組織に根付く文化の土台となるようなルールとは、例えば以下のようなものです。

・記憶に残るもの
・なぜ?と問いたくなるもの
・文化に直接影響するもの
・ほぼ毎日使うもの

例えば、Facebookの創始者であるマーク・ザッカーバーグは、スピードを最優先に考えたショッキングなルールを作ります。それは『素早く動き、破壊せよ』というものです。これは、多少システム上のコードが不安定でも、前に進むべきだと示しています。その結果、たとえ何かを破壊しても許されるという、とにかく現在進行中のシステムの開発をスピード優先とする、という意図があります。

侍にとっての武士道

古代から中世の日本の武士階級である侍には、『武士道』と呼ばれる厳しい規範がありました。1186年から1868年まで、ほぼ700年に渡って武士が日本を治めることができたのは、この規範のおかげだといえます。

これほど長い間武士の文化が続いてきたのは、ありとあらゆる状況や、人生で必ず直面する倫理的な葛藤に対処するためのフレームワークがここに込められているからです。

侍のとって武士道とは、哲学のようにもとらえられるが、これは実践の積み重ねによって形成されています。侍にとっては文化=行動規範だったといえます。

武士道の教え:死の大切さ

武士道といえば、武道初心集の冒頭の一説に集約されているとも考えられます。それは、こんな一節です。『武士たらんもの、日々夜々死を常に心にあつるを以て、本意の第一とは仕るにて候』(武士というものはいついかなる時でも死を意識していなければならない)

武士初心集では、死という概念が何を意味しないかがこれでもかと描かれています。武士道における死は、ただ漫然と待つことではありません。死を意識せずに生きていると、親や主君への務めも果たせなくなります。そのため、自分の責任を果たした上で、時間にゆとりがあるときはいつも、死についてじっくり考えるべきだという事です。

自分の会社が破産する姿を思い浮かべれば、目指すべき文化を構築しやすくなります。

働きやすい環境だったろうか?
取引先にとって仕事はやりやすかっただろうか?
相手にとって、あなたとの出会いは得になっただろうか?
プロダクトの品質に、あなたは誇りを持っていただろうか?

企業として、目標やミッション、業績といった指標ばかりに目を向けがちだが、それだけでなく『会社の終わり』を考えたときに、どんな終着点を迎えるべきか、常に考えておく必要があるということです。


サンゴールのテクニック:組織文化を変えるために自分を変える必要がある

サンゴールは刑務所に19年服役し、その中で刑務所内のリーダーポジションを得ます。もちろん、環境は劣悪で周囲も何かしら罪を犯した人物ばかりですから、常識は通用せず、ルールを守らせることも難しいといえます。

その中で、サンゴールは周囲をまとめ上げ、リーダーシップを発揮するわけです。文化をつくるという意味では、最もこの環境が厳しいといえるかもしれません。

サンゴールが文化を形成したため、刑務所の中の住人は、正義感や掟という考えが定着していました。その中で、アメリカ中でニュースになった事件の受刑者が、同じ刑務所に入ることになったのです。そうすると『可哀想な女の仇を俺らがとってやる』という声が上がりました。

サンゴールはその時『俺たちに対して同じ想いを持ってる家族がいる』と考え、刑務所にいる仲間に、自分たちに対しても同じ気持ちの人、家族がいることを問います。

リーダーは、しばらくはもやっとした状態で進んでいても、どちらかにはっきり決めなければならない瞬間が来るということです。

チンギス・ハンのテクニック:多様性

チンギス・ハンは歴史上もっとも優れた軍事指導者でした。彼が支配した領土はおよそ3300万平方キロ。それをわずか10万の兵士で征服したのです。現在、多様性のある文化を築くのに苦労している企業は多いでしょう。

しかし、チンギス・ハンは100年も前に中国とペルシャとヨーロッパの人々を支配下に収め、イスラム今日、仏教、キリスト教信者を統治し、カニバリズムの風習のある民族さえ治めていました。

では実際にはどうやって統治していたかというと、征服した貴族階級のリーダーたちを厚遇して下っ端の兵士たちを奴隷にするようなことはせず、貴族を処刑して兵士たちを自分の軍に組み入れていました。そうすることで、兵士を劇的に増やすのと同時に公平なリーダーとしての自身の立場を確立し、この人についていきたいと思わせることができました。

文化をデザインするためには

スタートアップでも老舗企業でも、文化をデザインすることは非常に大切です、文化もまた、文化を創り出す組織と同じように、新たな挑戦に向けて進化しなければなりません。

また文化とは理想を追いかけることです。すぐに理想に到達することは決してないため、完璧を求めることではなく、昨日よりも良くする。そういったマインドが必要となります。

そして他社の文化から気づきを得ることは良いことですが、他社のやり方をそのままそっくり真似ることは避けるべきだと、本書では紹介されています。血と汗と魂から生まれた文化でなければ、文化に命が宿り、生き続けることはできません。

リーダーはいつもありのままでいなければならない

自分がどうあるべきかについて、他人にはさまざまな理想があります。そうした他人が描く自分の理想像を、自分自身の信念や個性に合わない形で取り入れようとすれば、自分の魅力が無くなります。

また、リーダーシップの大原則は、すべての人には好かれないということです。ある種、みんなに好かれようと必死になっている人は、視点が分散し、どこかで綻びが生じる可能性が高いでしょう。

割り切ることも必要で、ありのままの自分が出せるチームや、組織づくりが必要となるのです。

文化と戦略、どちらが強いのか

本書で、経営の神様と呼ばれるピーター・ドラッガーの名言が紹介されています。『文化は戦略をペロリとたいらげる』

現実には文化と戦略は競い合うものではありません。どちらか一方がうまくいっても、最大パフォーマンスは出せず、どちらも共存している必要があるということです。

■チンギス・ハン
文化:平等主義
戦略:自立した騎兵戦略

■ジェフ・ベゾス
文化:倹約
戦略:低コスト構造

■アップル
文化:世界一美しいデザインの追求
戦略:徹底した製品開発

■マーク・ザッカーバーグ
文化:世界一早いイノベーション
戦略:質よりもスピードの追求

自分のチームや組織においても、今の強みのどこを切り取って文化とするか、そしてそのための戦略はなるか?を考える必要があるということです。

文化のチェックリスト

・文化のデザイン
企業文化はあなたの性格と戦略に確実に合ったものでなければならない

・文化の刷り込み
職場での他の日よりも、入社初日や参画初日はどの日よりも重要とする

・ショッキングなルール
なぜこんなルールがあるんですか?と聞かれるような以外なルールは文化の要素を強化する

・外部のリーダーシップを取り込む
自分たちに必要な文化が、既存の文化とかけ離れている場合は、外の助けを借りる必要がある。

・見せしめ
あなたの行動は言葉よりはるかに意味がある。誰かを打ち首にする必要はないが、劇的なことをしなければならない。

・倫理規範を明確にする
他の目的と矛盾した場合、人々は間違った方向に進む。

・文化規範にインパクトのある定義を与える
普通とは違った意外な定義で規範を目立たせることが重要。

・言行一致
自分の行動と言葉を一致させる。自分が実践しない文化規範は選んではいけない。

・何が一番大切かを行動で示す
文化を形成したいのであれば、何が一番大切かを自身の行動で示す必要がある。

まとめ

本書を選定した理由は、直近、どこかのタイミングで、肯定ではなく否定のマネジメントをする必要がある点や、利己的なリーダーシップの必要性についてフィードバックを頂いたためです。

今ままでの心理的安全性や全肯定全承認マネジメントの綻びを探し、どのタイミングで利己的かつ否定のマネジメントをするべきか、そこを見極めたいということから選定いたしました。

直近、チームマネジメント、結果ともに良好に推移していますが、だからと言って慢心しているわけではありません。しかし、長橋さんからおおよそ今のマネジメントと反対なご意見をいただくことが多いため、少しどうすれば良いか困惑している自分もいます。

完全トップダウン式なチームビルディング、完全な利己的なマネジメントのように極論を求められているわけではないことは分かるので、『どのタイミングや、どういった時に、否定や利己的になるべきか』という点を本書で探しました。

本書の気づきとしては、『文化の形成』『一貫性』という2軸です。おそらく、どこかのタイミングで何かしら否定をすることは来ると考えています。それが、その時までの御社Webを形成した文化に反するものか、正しいのか、そこの一貫性が非常に大事だと考えました。

『これは指摘されても仕方がない』『上司の言う通りだ』そうメンバーに思ってもらえないと、それまで構築してきたチーム、関係性、文化が崩壊する恐れがあるからです。

おそらく、ここで重要なのは、そこにビビッて何も言えない、肯定するしかない状態に陥るのではないか?という視点だと思いますので、大事なのは関係性ではなく、『御社Webの文化』である点を、現時点からメンバーに積極的に共有していきます。 

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