押してダメなら引いてみろ。


"自転車"という乗り物がある。

大人から子どもまで、免許なしでスイスイ乗り回せる便利な軽車両。
現代日本において、自転車に乗ったことがないという人間を探す方が困難かも知れない。

だからきっと、あなたにも経験があるはずだ。

坂道や狭い道路を通行するため、あるいは誰かと談笑するため。
自転車を降り、ハンドルを握って、歩くという経験が。


さて、ここで質問です。

この時、あなたは

『自転車を押す』 と言いますか?

それとも

『自転車を引く』 と言いますか?


先日、とある新人賞に応募するための原稿を執筆していた時のこと。
そこで私は、こんな文章を記した。

 と言っても、さすがに学校を出てすぐに二人乗りするわけにもいかないので。
 俺と彼女は、ひとまず歩いて校舎を出た。
「ごめんね、自転車引いてもらっちゃって」
「いや。むしろ悪いな、他の委員会の仕事に付き合わせて」
「ううん、私が勝手について来てるだけだから」


そして、主人公とヒロインが買い物を済ませた後の描写を、こう綴った。

「──結局、奢ってもらう形になっちゃったな」
 花の苗と、たい焼き入りのビニール袋を積んだ自転車を押しながら、俺は思わず苦笑いをする。


おわかりいただけただろうか。

見直しをして気付いたことだが、私は無意識の内に同じ作品内で

『自転車を引く』『自転車を押す』

という、二つの表現を使っていたのだ。
確かにどちらも使うし、耳にする言い回しである。

ちょっと待って。 えっ。
これ、どっちが正しいんだ……??


その真相を探るべく、我々はアマゾンの奥地へと足を踏み入れた。(ネットで調べた)

結論から言うと、日本語的にはどちらが正解ということはないらしい。

とあるアンケート調査によると、全国的には『押す』を使う人の方が多いようだが、『引く』と答える人も一定数いる。

『引く』は一種の方言なのでは? という説もあるようで、例に挙げられていたのが長野県や山梨県。私自身は東京生まれ東京育ちだが、高校卒業まで一緒に暮らしていた祖母は長野県出身の人だった。なるほど、それで『引く』という表現に馴染みがあったのかと納得した。

(長野の方言といえば、うちでは洗濯物を取り込むことを『よせる』と言っていたのだが、これも一般的ではないらしい。やはり方言だったのだろうか……。それはさておき)

どうやら私は、

荷物を積んでいない自転車 = 引く

荷物を積んだ自転車 = 押す

という、重さに起因した使い分けを無意識の内にしていたようである。


で。ここからが本題なわけだが。

今回の件で「面白いなぁ」と思ったのは

『押す』と『引く』は表裏一体である

ということ。

「何を当たり前のことをわざわざ太字にしてんだ」と思うかもしれないが、これがなかなか奥が深い。

一見すると正反対の意味を持つ『押す』と『引く』だが、どちらも同じ『自転車を前に進ませる』という動作において用いられている。

目的は同じ。使用者の"意識"によって、『押す』と思うか『引く』と思うかが分かれているだけなのだ。

『押す』『引く』といえば、世の中にはこんな格言がある。

押してダメなら引いてみろ。


意中の相手を振り向かせるため、積極的なアピールで効果が認められないのであればいっそ距離を置いてみよ、という恋愛テクニックを指す言葉である。

確かにこれも、『相手にアプローチをする』という目的は同じ。自転車同様、二人の関係性を前に進めるために『押す』のか『引く』のか……そう、全ては自分の"意識"の問題なのだ。


なるほどなぁ。目的とする動作は一つ。それを『押している』と思うか『引いている』と思うかは自分次第
つまり、どちらが正しいとか間違っているとかではない、と。
あるよね、そういうの。「結局は自分の捉え方次第じゃん?」みたいな。「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」みたいなね。そうかそうか、そういうやつね。ふむふむ。

んで。

結局私は、 『押す』と『引く』、 どっちで書けばいいんだ……???


画像1


OK、 『押す』にしよう。 (閉廷)



申し遅れました。

はじめまして。かわつた と申します。

前述の通り、作家になることを目指して二年前から執筆活動をしています。

新人賞への応募の他に、「小説家になろう」や「カクヨム」、「ノベルアップ+」といったウェブサイトでも作品を掲載中です。

代表作へのリンクを置いておきますので、ご興味を持たれた方はぜひ一度覗いてみてください。
一切の『引き』がない、『押せ押せ』な恋愛ファンタジーです。

(小説家になろう)
超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。


noteではこんな風に執筆中に気付いたことや日常生活の中で感じたことなどをとりとめなく綴っていく予定です。

作家志望の方、読書が好きな方、ラーメンや甘いものが好きな方、仲良くしていただけると嬉しいです。宜しくお願いします。

それでは。

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