見出し画像

科学的に考える、あなたの犬のリラックスを助ける音

犬のリラックスを手伝うために、「音」を使うことを考えことはあるでしょうか?

特に、家で犬にひとりでいてもらうとき、クレートの中で休んでいてほしいとき、外の音が気になってしまっているとき。

それから、動物病院やトリミング・サロン、ペットホテル、デイケアでも。「音」をうまく利用してほしい。

静かなところで、急に音がしたら、驚くでしょう?

それが、慣れない場所だったら?

周りに頼れる人がいなかったら?

誰もいなかったら?

どんな気持ちでしょうか?

怖くなったり、不安になったりしますよね。

聞き慣れない音がしていると、気になりますよね?

快適でいられる場所でも、聞き慣れない音がしていれば、落ち着きを妨げられて、イライラしますよね。

そういうときって、体と頭の状態、どうなりますか?

筋肉が緊張して、心拍数が上がって、怖い音や嫌な音に、より注意が向いて、ますます不安になったり、苦痛を感じたりしますよね?

リラックスとは、ほど遠い状態じゃありません?

ですから、音には音を作戦です!

犬のリラックスを手伝うために、音をうまく使いましょうよ。

あ。音を流す気になってくださいましたか!ありがとうございます。いいですね!

では、どんな音が、あなたの犬や、あなたが預かる犬たちのリラックスに役に立つか、科学的なリサーチと、音のしくみ、行動変化の科学に基づいて、一緒に考えていきましょう。

犬のリラックスのために作られた音楽

犬のために制作された音楽として、有名なのは「Through a Dog's Ear」です。

ピアノの穏やかな音楽。

シェルターでは、70%以上の犬が、動物病院では、85%以上の犬が、この音楽によって、より落ち着きを見せたとされています。

私は、4年前に虹の橋を渡った愛犬の留守番のときに、「Through a Dog's Ear」のCDを使っていました。

でかけるときに、iPodのスイッチを入れて、「Through a Dog's Ear」をスピーカーから流していました。

その音楽が流れはじめると、彼女は、クレートに入って行っていました。留守番中の様子は、Webカメラで見ていましたが、彼女は、ひたすら寝て過ごしていました。

ちなみに、彼女が、「Through a Dog's Ear」が流れる部屋で、リラックスしていたことは確かですが、それが、音楽の特性、あるいは、それだけによるものなのかはわかりません。

なぜなら、学習が影響している可能性があるからです。

Through a Dog's Ear」が流れはじめると、家族は出て行き、しばらくの間は戻ってこないけれども、不快や苦痛を感じる出来事が起きなかったという、経験が繰り返されたことで、「Through a Dog's Ear」の音と、大きな環境の変化が起きないことや、嫌なことが起こらないことが、結びつき(条件づけられ)、なおかつ、その状況が、彼女にとっては、好ましく、落ち着けるものであったために、「Through a Dog's Ear」の音が、のリラックス(筋肉の弛緩)のきっかけ(キュー、SD(弁別刺激))や助け(Setting Event)になった可能性があります。

クラシック

ゆったりした気持ちになる音楽のジャンルと言って思い浮かぶのは、クラシックです。

2002年に公表された、50頭のシェルターにいる犬を対象にした研究では、人の会話、クラシック音楽、ヘビーメタル、ポップミュージックと、音楽なしの4つの状況での、犬たちの行動を観察しています。

音楽は、1日4時間流し、次の音楽へは、1日休みを挟んでから、切り替えていました。休んでいる時間が、もっとも長く、立ち上がっている時間が、もっとも短かったのは、クラシックで、吠えている時間が、明らかにもっとも長かったのが、ヘビーメタルだったそうです。

2012年には、コロラド州立大学で、レスキューされた犬と、自宅以外の場所に預けられている犬、合計117頭を対象に研究が行われています。

犬たちが過ごす犬舎で、ベートーベンやモーツァイルトなどのクラシック音楽と、ヘビーメタル、犬のリラックスのために設計されたスローテンポの音楽を流した場合と、音楽なしの場合の、合計4つの状況において、犬の行動を観察しています。

その結果、犬たちが寝ている時間は、クラシック音楽が流れているときが、それ以外の3つの状況(ヘビーメタル、犬用音楽、音楽なし)に比べて、明らかに長かったとしています。また、吠えるなどの犬が声を出す行動については、音楽のない状態よりも、クラシックが流れているときの方が、少なかったそう。

どちらの研究も、クラシック音楽が、犬たちの落ち着いた行動に、もっとも関連していたと報告しています。

オーディオ・ブック

最近のおもしろい研究が、これ。

音楽などの音の刺激が、幅広い動物種の、動物の福祉の向上に、役立つことは示されているけれど、オーディオ・ブックについてのリサーチがないので、やってみたというもの。

調査は、シェルターで暮らす31頭の犬に対して、行われました。

オーディオ・ブックとクラシック音楽、ポップ・ミュージック、心理音響的に犬のために設計された音楽、音なしの、5つの状況で行動を観察しています。

その結果、5つの状況の中で、オーディオ・ブックが、犬たちが休んでいる時間がもっとも長く、また、立ったり、座ったり、周囲を警戒する行動がもっとも少なかったそう。

研究者は、オーディオ・ブックが、シェルターにいる犬たちの福祉を向上させ、新しい家族を得られる可能性を高めるツールになるのではないかとしています。

穏やかで、ゆっくりとして人の声を聞いていると、犬たちがリラックスしやすいのであれば、私たちが普段、自分の犬や、仕事でケアする犬たちに、関わるときや、彼らの近くにいるときは、穏やかで、ゆっくりとした話し方を心がけたいものです。

ホワイト・ノイズ

ホワイトノイズは全ての周波数で同じ強度となるノイズである。
- Wikipedia

説明だけだと、まったくなんだかわかりませんが、放送していないときに映し出されるテレビの砂嵐や、海の波の音、滝の音など。

よく聞くノイズの例で擬音語で表現するなら、(中略)「シャー」と聞こえる音がホワイトノイズである。
- Wikipedia

まだ、よくわからないという方は、こちらをどうぞ。

ホワイト・ノイズを流すと、サウンド・マスキングにより、音が打ち消され、聞こえにくくなります。

外を通る人や犬、バイクに対して、犬が吠える場合、窓にスモーク・フィルムを貼って、そうした刺激を見えなくするという、賢い選択。それの音バージョンが、ホワイト・ノイズを使った、サウンド・マスキング。
- 「Using Sound Masking To Protect Your Dog From Loud, Scary Sounds」
Eileen Anderson

ホワイト・ノイズを使って、雷や人の話し声、工事の音など、外から聞こえてくる音を、かき消してしまえ!という作戦です。

恐怖や不安を誘発する刺激が、存在しなければ(知覚されなければ)、恐怖を感じたり、不安になったりしません。

スマホかタブレット、それにつなげられるワイヤレス・スピーカーと、ホワイト・ノイズ・ジェネレーター・アプリがあれば、すぐできるよと、Eileen。

「White noise」で、アプリ検索をすると、いくつも出てきます。

私も、ホワイト・ノイズを使っています。

愛犬あろは、家の外でする、様々な音に対して緊張して、反応するので、彼が外の音を気にしているときや、工事など、彼が苦手な音が外することがわかっているときは、ホワイト・ノイズを流します。

私の場合は、このYouTube動画を、Chrome Castを使って、テレビで流しています。

子供のころに聞いた音楽

子供の頃に聞いた音楽を心地よく感じるのは、実は、私たち人だけではないかもしれません。

犬ではなく、マウスを対象にしたものですが、とても興味深い研究があります。

マウスが不安に感じる広い場所として、大きな箱を用意され、その箱の中の対角する2つの角に、マウスが隠れられる場所「シェルター」が用意されています。

マウスは、不安であれば、シェルターに逃げ込みます。2つのシェルターに、それぞれ異なる環境を用意して、マウスがどちらに入るのか観察することで、どちらの環境が、より安心できるのかを知ることができます。

2つあるシェルターの片方には、音楽が流され、もう片方には流されていない場合、音楽を聴かせなかったマウスや、生後60日以上経過してから音楽を聴かせたマウスのグループでは、音のないシェルターを選ぶことが多かったのに対して、子供のころ(生後15〜24日)に、音楽が聴かせたマウスのグループでは、音楽が流れているシェルターを選ぶことが多かったそう。

2つのシェルターに、それぞれ、そのマウスが子供の頃に聴いていた音楽と、聴いていなかた音楽(クラシックとジャズ)を流した場合は、子供のころに聴いた音楽が流れている方のシェルターを選んだそうです。

つまり、子供のころに聴いた音楽は、不安をより軽減し、安心を与える可能性があるということ。

もちろん、音楽を聴いた時期以外の、環境的条件が、マウス安心に影響を与えている可能性を排除してはいけません。

例えば、母マウスや兄弟マウスと一緒にいるときに、音楽を聴いていれば、その音楽が、そのときの安心をもたらしていた出来事や状況、存在(刺激)と結び付いていたことで、その音楽が好ましいものや、安心をさせるものになった可能性があります。

まとめ

自分の犬が、外の音を気にしやすい場合や、外の音を気にしているときには、ホワイト・ノイズを試してみましょう。

海の波の音や、滝の音、雨音(雷の音が入っていないもの)などが、人も聴いていて疲れません。

YouTubeで検索するときには、英語で検索するのがお薦め。長時間のものも、たくさんあります。

「white noise ocean wave」とか、「white noise waterfall」とか「white noise rain」とか、で、検索してみてください。

シェルター、動物病院やトリミングサロン、ペットホテル、デイケアなどの犬舎では、より多くの犬たちで、効果が見られている、クラシック音楽か、ホワイト・ノイズを流すといいかもしれません。

ホワイト・ノイズを流す小型の機械も、販売されています。

動物ではなく、人を対象としたものですが、ホワイト・ノイズと睡眠に関するリサーチがあります。

例えば、新生児を対象としてものでは、ホワイト・ノイズを、まず72〜75dBで30秒流し、その後67dBで4分間聴かせたところ、新生児がお腹を空かせていなければ、80%以上が、ホワイト・ノイズを止める前(5分以内)に入眠したという結果が出ています。

また、夜眠ることを嫌がったり、夜中に起きたりしてしまう1才児4人に、寝る時間を決め、その時間から75dBで、ホワイト・ノイズを流しはじめるようにしたところ、そのうち3人が、よく、長く眠ることができたというものもあります。ただ、ホワイトノイズが寝ている間に止まると、目を覚ましたそうです。

これらのリサーチは、ホワイト・ノイズが、深い眠りを手伝うだけではなく、決まったパターンで使うことで、眠ることのキュー(合図)にできる可能性も示唆しています。

例えば、夜決まった時間に、電気を暗くしたり、テレビのボリュームを下げたりして、犬が眠りやすい環境を整えて、犬が寝る場所の近くで、ホワイト・ノイズを流すことで、眠ることを促すことができるかもしれません。

シェルター、動物病院やトリミングサロン、ペットホテル、デイケアなどでは、犬が不安になったり、犬が苦痛を感じる出来事が起きてしまう可能性があるので、流している音楽と、不安や苦痛が、結びつけられてしまい、不安や恐怖を誘発するもの(刺激)になってしまう可能性があります。

そうした関連づけが起きないようにするためには、特定の曲やジャンルだけを流すのではなく、クラシック以外に、スムースジャズやボサノバなどを、一定時間ごと変えて、流すようにするといいと思います。

音楽と状況との関連づけの学習をうまく利用するならば、犬を預かる前に、「Through a Dog's Ear」を、飼い主さんに、事前にプレゼントしたり、貸して、自宅で犬がリラックスしている時間に、日常的に流してもらうようにして、「Through a Dog's Ear」とリラックス(筋肉の弛緩)を結びつけておいてもらい、犬舎など犬が休むエリアでは、同じ「Through a Dog's Ear」を流すことで、犬たちのリラックスを手伝うということもできます。

音楽に対するポジティブな感情反応を維持するために「Through a Dog's Ear」を流すエリアでは、できるかぎり、犬にとって嫌なことが起こらないようにすることをお薦めします。

Through a Dog's Ear」でなくても、特定のものであれば、クラシック音楽やオーディオ・ブックでも、同じことができます。

家族のそばで、いつもくつろいでいる犬で、家にひとりでいるときに、外の音よりも、飼い主が不在であることに、不安を感じているようならば、オーディオ・ブックを試してみてもいいかもしれません。

オーディオ・ブックでも、クラシックでも、それ以外の音楽や音を利用する場合でも、留守番をしてもらうときに使う前に、日々、犬がくつろいでいるときに、流す時間を作って、その音とリラックス(筋肉の弛緩)を結びつけておくことを忘れないようにしましょう。

好きな音楽のジャンルがあって、あなたの目の前にいるのが子犬なら、あなたはラッキー。同じ音楽を好きになれる可能性があります。

ただし、あなたの好きな音楽のジャンルが、ヘビーメタルの場合は、犬に聴かせるのはやめた方がいいかもしれません。複数の研究で、吠えや、ストレス・シグナル(身震い)が増えたと報告されているので。

ヘッドホンで、ヘビメタ。スピーカーからは、クラシックやスムースジャズを。愛犬のために。

レスキューされた犬で、人から離れた山の中で、母犬や兄弟としばらく過ごしていた場合は、人と好ましいことの関連づけができて、人が彼らにとって好ましいものになるまでは、オーディオ・ブックではなく、人の声を含まず、学習歴のないクラシックや、小さい頃に聴いていた自然の音を使うのが、親切でしょう。

自然の音は、YouTubeで検索すると、様々なものが出てきます。ホワイト・ノイズとの組み合わせもいいと思います。「white noise nature sound」で、検索すると色々と出てきます。犬が、雷に苦痛を感じる場合があるので、雷の音入りのものは、避けましょう。

どんな音を使うにしても、音を流すときの、ボリュームには、どうかご注意を。

私たちと犬たちでは、聴覚の能力が異なります。自分にとって心地いい大きさではなく、犬たちにとって心地いいボリュームを探しましょう。

おまけ

この記事で紹介したような研究の結論は、統計と比較に基づいたもの。「傾向がある」「○○というケースが多く見られた」ということであって、研究対象とした動物や人、すべてが、同じ結果を示したということではありません。

学習歴も、好みも、犬それぞれ。

どんなことも、その犬が選べる環境と選択肢、どうするかを決められる時間を用意したうえで、その犬がどちらを選択するかを観察するか、ひとつひとつ、行動の変化があるかどうかを観察しながら試さなければ、その犬にとって快適なものかどうか、好ましいものかどうかはわかりません。

相手の好みを決めつけないこと。大事です。

References

Through a Dog's Ear: Using Sound to Improve the Health and Behavior of Your Canine Companion (2008)
Joshua Leeds, Susan Wagner

The influence of auditory stimulation on the behaviour of dogs housed in a rescue shelter (2002)
Wells, D.L.; Graham, L.; Hepper, P.G.

Behavioral effects of auditory stimulation on kenneled dogs(2012)
Lori R. Kogan, Regina Schoenfeld-Tacher, Allen A. Simon

The effects of audiobooks on the behaviour of dogs at a rehoming kennels (2016)
Clarissa Brayley, V. Tamara Montrose

Using Sound Masking To Protect Your Dog From Loud, Scary Sounds (2013)
Eileen Anderson

Critical period for acoustic preference in mice (2012)
Eun-Jin Yang, Eric W. Lin, and Takao K. Hensch

White noise and sleep induction. (1990)
J A Spencer, D J Moran, A Lee, and D Talbert

Continuous White Noise to Reduce Resistance Going to Sleep and Night Wakings in Toddlers (2005)
Forquer, LeAnne M.; Johnson, C. Merle