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データサイエンティストのキャリアパス

こんにちは。エムスリー株式会社にて、データ分析グループの担当役員を務めている島田です。今回は、データサイエンティストのキャリアパスについて書きます。なぜデータサイエンティストのキャリアパスがわかりにくいかを出発点に、求められるスキルセットから、どのようなキャリアパスが開けているのかをまとめます。


簡単に自己紹介をします。私は、約20年前に大学院の修士課程で数理情報学を専攻していました。新卒入社した証券会社でクオンツやトレーダーとして勤務した後、2015年にエムスリーにジョインし、10年弱データサイエンティスト業務に従事してきました。m3.comを含むプラットフォームや製薬企業様向けに、レコメンドエンジン開発等の機械学習プロジェクトや定量的な組織の意思決定をするプロジェクトに携わってきました。

本記事でのデータサイエンティストは、事業インパクトの最大化を目指す比較的狭義のデータサイエンティストを指しています。データアナリストや機械学習エンジニア等の職種はスコープ外である点はご承知ください。

データサイエンティストのキャリアパスが
わかりにくくなる3つの理由

私は、多くの方からデータサイエンティストのキャリアパスに関する質問をいただきます。データサイエンティストに対する興味関心が高まっている一方で、データサイエンティストという職種がわかりにくいことが要因としてあるように思います。そのわかりにくさとはどこから来るのでしょうか。

第一に、データサイエンティストという職種が登場してからあまり時間が経っていないことが挙げられます。約10年前に、「データサイエンティストが21世紀で最もセクシーな職業である」(データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない」DHBR2013年2月号)が発表されました。これを機に、データサイエンティストという職種が一般的になりました。つまり、多くのデータサイエンティストの経験は10年未満であるため、中長期的なキャリアパスを考える上で、ロールモデルを見つけにくくなっています。

次に、技術発展がすごいスピードで進んでいることです。最近でも大規模言語モデル(LLM)といったビジネス課題解決に有用な新しい技術が続々と登場しています。何か特定のものを学んでおけばよいというものではないこともわかりにくさを助長しているように感じます。

データサイエンティストが複数のプロフェッショナリティを要求される点もわかりにくさの要因の一つです。データサイエンティストにはビジネス力とデータサイエンス力とデータエンジニアリング力の3つのスキルが求められる、とデータサイエンティスト協会は言っています。2023年度版「データサイエンティスト スキルチェックリストver.5」を見ると、その3つのスキルは全650項目に細分化されています。スキルの網羅性という観点では素晴らしいものの、所属する企業や役割によって必要なスキルが異なるため、見えにくい印象を与えているように思います。

データサイエンティストに求められる
5つのスキルカテゴリ

エムスリーでは、データサイエンティスト協会のスキルチェックリストを参考に、データサイエンティストに求められるスキルカテゴリを定義しました。①ビジネス力、②分析力、③プロジェクト推進力、④イノベーション創造力、⑤組織貢献力の計5つです。以下で、これらの詳細を見ていきます。

①ビジネス力×②分析力

ビジネス力と分析力を駆使して、分析プロジェクトを推進します。

ビジネス力と分析力は対になるスキルカテゴリです。分析プロジェクトは、3つのプロセス「見つける」「解く」「使わせる」から成ります。(参考:データドリブン経営の未来)「見つける」フェーズで、正しいビジネス環境理解から分析設計に落とし込み、データ分析で解くべき課題を見つけます。「解く」フェーズで、必要なデータ取得と様々な統計手法を利用して、分析を実施します。最後の「使わせる」フェーズで、分析結果の適切な解釈と示唆出しから施策実行を進めて、事業インパクトを出します。

大きな分析組織では各プロセスで役割分担を行い、データサイエンティストは「解く」に特化しているケースもあります。エムスリーでは、最終的な事業インパクトを出すまでがデータサイエンティストの責任と定義して、全プロセスをデータサイエンティストが担っています。

③プロジェクト推進力×④イノベーション創造力

コンサルティングとプロダクト開発の両輪が、データサイエンティストの役割です。

プロジェクト推進力とイノベーション創造力も対になるスキルカテゴリです。プロジェクト推進力は、短期的な課題解決を目的としたコンサルティング実施に必要なスキルです。分析組織の立ち上げや新たなクライアントとプロジェクトを実施する際に、より重要となります。

クライアントのニーズや事業インパクトにつながるソリューションがわかってきたら、イノベーション創造力を活用してプロダクト化を推進します。プロダクト化によって、より効率的かつ成功確度の高いプロダクト提供が可能になります。新規にプロダクトを開発するだけでなく、既存プロダクトをブラッシュアップすることも大事です。

クライアントニーズと既存プロダクトをマッチングさせられるように双方の理解を深めることも全データサイエンティストが身に着けるべきスキルです。

⑤組織貢献力

グループ内はもちろんのこと、組織横断での生産性向上や付加価値が向上も期待されています。

最後のスキルカテゴリは、組織貢献力です。育成やマネジメントは、データサイエンティストに限らず、多くの職種においても重要なスキルと言えるでしょう。その中で、周囲がデータサイエンティストに期待する役割が、DX人材の育成です。データドリブンな意思決定が当たり前の中で、全プロジェクトにデータサイエンティストが関与していくことは現実的ではありません。非分析者であっても及第点となる分析設計を身に着け、分析技術を活用することでどのようなソリューションが提供できるかを身に着けることは必要です。データサイエンティストが、特定の組織向けの分析セミナー実施や分析カタログ整備を行い、DX人材の育成とDXカルチャーの醸成を推進します。

データサイエンティストの
3つのキャリアパス

これらのスキルは、データサイエンティストのキャリアパスにどのように影響するのでしょうか。

データサイエンティストは、複数の職種と関連しています。

ビジネス力と分析力を横軸に、プロジェクト推進力とイノベーション創造力を縦軸にとって、関連職種をマッピングしました。いかにデータサイエンティストが複数のプロフェッショナリティを求められるかがわかります。これらのスキルを磨いていきながら、事業インパクトを創出できるようになっていくことが期待されます。

シニアメンバーになってもこれらのスキルを同じように伸ばしていくべきなのでしょうか。その他にどのような方向性があるのでしょうか。データサイエンティストには、大きく分けて3つの方向性があると考えています。

①データサイエンティストのマネージャー

1つ目のキャリアパスは、データサイエンティストのマネージャーです。上記図のデータサイエンティストのキャリアパスにおける主に上半分指します。

複数のデータサイエンティストをリードして、チームとして事業インパクトを最大化していきます。クライアントのニーズを掘り起こして正確に把握するだけでなく、自分たちが持つデータと分析技術を組み合わせた分析プロダクトをマッチングさせて、個別最適な課題解決をしていきます。

②データサイエンティストのスペシャリスト

2つ目のキャリアパスは、データサイエンティストのスペシャリストです。上記図のデータサイエンティストのキャリアパスにおける主に下半分を指します。

1つの分析結果が組織全体の方向性を大きく変えたり、1つの分析プロダクトが組織全体の生産性を大きく変えたりできることが、データサイエンティストの醍醐味です。これらを実現するためには、不確実性が高い中でも、中長期的にインパクトが出て、汎用性が高いプロダクトをデータサイエンティスト発信で開発していく必要があります。これらのプロダクト開発は、経験豊富なデータサイエンティストがリードすることのみで成し遂げられるものです。

③データサイエンティスト以外の職種

3つ目のキャリアパスは、データサイエンティスト以外の職種です。

上記図にある通り、データサイエンティストは複数の職種と非常に近く、オーバーラップする部分もあります。データサイエンティストの業務を進める中で、より中長期的なプロダクト開発を中心に携わっていきたいとか、よりビジネススキルを磨いていきたいといった志向性に気づくことがあります。スキルのハードルが低いこともあって、プロダクトマネージャーといったその他の職種へ転換することは比較的容易です。受け入れる側も、必要なスキルカテゴリを一定レベルで持っているだけでなく、分析スキルといった別の専門性を持っていることは、ポジティブに評価することが多いです。

エムスリーにおいて、過去に社内異動や退職された方が一定いらっしゃいます。そのほとんどの方がデータサイエンティストではない職種に転換されました。データサイエンティスト業務で複数のスキルを磨いていく中で、ご自身の志向性に気づき、新たな挑戦をされたのだと思います。

さらに言うと、エムスリーはヘルスケアドメインの会社ですが、ヘルスケアの会社に転職される方はあまりいません。データサイエンティストとして身に着けるスキルは汎用的であるため、業界を問わず活躍できる素地ができていたものと思料いたします。

まとめ

データサイエンティストのキャリアパスがわかりにくい3つの理由を出発点に、5つの求められるスキルセットから、3つのキャリアパスについて論じました。

データ分析組織によってデータサイエンティストの役割が異なるため違和感を覚えた方もいらっしゃるとは思いますが、共感いただけた部分も多かったのではないでしょうか。データサイエンティストの環境は変化が大きいため、今後その役割が変わっていく可能性は高いです。ですが、データサイエンティストのスキルカテゴリやキャリアパスは、大きく変化することはないと考えています。

さいごに

エムスリーのデータ分析グループでは、あらゆるデータとあらゆる分析技術を活用して、医療に最適な意思決定を適用するをミッションに、様々な医療課題に取り組んでいます。

エムスリーのサービスは大きく拡大しており、データサイエンティストに期待される役割もますます拡大しています。以下にエムスリーのサービス事例を記載していますので、ご覧ください。

社内のデザイナーの方々に協力いただき、データサイエンティストの採用サイトを2023年9月に大きく変更しました。エムスリーのデータサイエンティストが何を目的に何をモチベーションとしてプロジェクトに取り組んでいるのかがよくわかるようになりました。下記リンクから是非ご覧ください。これらは⑤組織貢献力のO.組織横断スキルを活用した結果ですね。