もう東京ですらなく、そこはロンドンだった。
トレンチコートを着るのにちょうどいい季節。
東京の街を歩いていると、いたるところにトレンチコートを着た人を(それはリクルートスーツの上に「しかたなく」着ている人もふくめて)みかけることができる。
トレンチコートは、都会の人が着るものであると思う。田舎にトレンチコートというのは似合わない。
なんせ、防寒具としてはちょっと頼りなくて、妙に格好つけたかたちだし、長いすそは車に乗ったりするときにじゃまになる。
それが、表参道や代官山なんかでダブルのトレンチコートを着てさっそうと歩く女性なんかを見ると、それこそ見とれてしまうほどに格好いいのだ。
ボタンをとめずにウエストベルトをつかってキュッとしめあげて、インナーには白いブラウスがボタンを上からふたつほどはずされている。
歩みにあわせてパタパタと揺れるすそからバーバリー・チェックがのぞいたりすると、もう東京ですらなく、そこはロンドンである。
男性は工夫なんかせず、さっと羽織るだけが格好いい。
もしくは、首もとまでボタンをしっかりとめて、襟の部分をすこしだけたおす。
もちろん手はコートについた深いポケットにつっこんで、大股で歩きたい。
理想は手ぶらだ。だいぶん格好つけてるけど、心おきなく格好つけられるのも、都会の特権である。
いつもルーズな格好をしていても、トレンチコートのようなすっぽりと自分をつつんでくれるアウターをはおれば、それだけで少しフォーマルな格好をしているような気になってくる。
どこかの量販店でリクルート・スーツとセットで売っているようなトレンチコートを「しかたなく」着ている新社会人にならんで、今日は少しフォーマルな格好をしようと思う。
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