動く歩道を歩く人

僕は動く歩道が好きだ。特に恵比寿駅からガーデンプレイスに続いていく長い歩道がいい。晴れた日の昼下がりに、並んだビールの広告を横目に見ながら歩道の上に突っ立ってのろのろと運ばれていくのは、他では味わえない趣がある。

僕が恵比寿にいるときはたいてい時間に急かされていない日なので突っ立っていることが多いけれど、都会の平日だ。半分以上の人が足早に僕の右側を過ぎ去っていく。

そういえば動く歩道が初めて設置されたのは大阪万博を前にした阪急梅田駅だったそうだけど、稼働直後は故障が続出したらしい。

それは設備を輸入したスウェーデンのほうでは「動く歩道を高速で歩くこと」が想定されていなかったためにゴム製のステップがすぐにダメになってしまったから、という話を聞いたことがある。

どんどんと僕を追い越していく人を見て、「もったいないよなぁ」とまでは言わないけれど、ちゃんと前に進んでいくならそれにわざわざ抵抗することもない。

もしあなたに時間の余裕があるときはぜひ歩かずに動く歩道を満喫して欲しい。もちろん、早歩きのダッシュモードで恵比寿を横切るのもまた楽しいものだけど。

それにしても、そこに立っているだけで地面のほうが勝手に自分を前に進めてくれたらなんて楽だろう。人生となるとそうもいかないので難しい。そのうえ、立ち止まっていても後ろを向いていても1年経てば歳をとっていくんだから、少なくとも歳をとるのは僕のせいではない。

生きることは動く歩道にずっと乗せられてのろのろと進んでいくみたいなもんだなぁとふと思った。できれば突っ立ったまま、ビールのことでも考えて風に吹かれていたい。

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