小説を読む喜び 絲山秋子さんの小説

絲山秋子さんの「小松とうさちゃん」を読んだ。彼女の本を読むのは、「勤労感謝の日」、「沖で待つ」を読んで三作目だ。

ラジオを聞いている状態と同じくらいの心地良さ。
この文章力のすごさ、長年本を読んできたからこそ、身にしみわたって味わえる気がする。その文章自体に、途中で読みやめる理由などない。読みやめるときは、眠くなってきた時や他に用事がある時など、自分都合にならざるを得ない。

「小松とうさちゃん」には、2人のおじさんの生活が描写されていた。
ある日電車で、隣に座ってきたおじさんの日常を覗いているかのような気持ちになった。絲山秋子さんの描く人物は、社会の一部そのものに感じる。

しかも、その登場人物の書き方には、人間への慈しみがあるように思える。

これは私の人生論だけれど、誰かを100%悪として決めつけることなんて、私にはできないと思う。自分の人生で出会った中で、どんなに嫌いな人間でも、接しているうちに愛すべき瞬間を見つけちゃうことがある。

ある中年おやじの上司がいた。高圧的な態度で指示してくるその上司が嫌いだった。彼は、小説の良さを理解することなく死んでいくような種類の人間だと思う。
ある日、仕事でお客さんから少し面倒なメールをもらい、その返信について上司に相談にいった。彼は、口を尖らせながら一緒に悩んだすえ、「いいよ、俺から返しておくから!」といった。その日から、仕事場での彼の人間的なやり取りを観察しながら、私は、彼の価値観や人生観を想像していた。全部が全部悪いやつじゃないと思った。(次も彼と一緒に働きたいかと聞かれたら、それは「NO」だけど…)

そういう優しさや人間への想像力が、絲山秋子さんの小説にはあると思った。


考察的に語ってしまったが、読み終わった後、最初の感想は、「面白かった」。純粋に物語が面白い、そんな作品。

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