脂肪肝について。

 昔は酒を飲まなければ、肝臓は悪くならないと信じられていた。実はB型肝炎とC型肝炎に起因する肝障害も多かったが、現在両者ともほぼ克服ができている。近年、肥満による脂肪肝が注目を集める理由は、頻度が高い上に、全体に予防医学の考え方が普及し、健康診断が広く行き届くようになった影響が大きい。
 飲酒と肥満が重なると、肝障害が生じやすくなるのは当然だが、アルコールは飲まない、また飲酒をしても肝障害をきたさないと言うのは、アルコールとして20g未満/日(日本酒で1合以下/日)とする。
 30年前までは肥満など注目されなかったが、1990年代の後半から生活習慣病とともに予防医学の観点から健康障害の大きな要因として取り上げられるようになった。
 肥満は身長に比較して体重が重い状態で、体格指数(BMI)が18.5以上25未満は普通体重、18.5未満は低体重で、25以上を肥満と分類する。肥満は40代、50代の男性の4割に認める。
 肥満だからと言って常に脂肪肝がある訳ではないが、30~55歳の男性で3割以上に脂肪肝を認める。脂肪肝は肝臓に中性脂肪がたまった状態で、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると、余分なエネルギーはグリコーゲン、中性脂肪として体内に蓄積する。肝細胞の30%以上に中性脂肪が溜まるのが脂肪肝で、その他に腸間膜(内臓脂肪)や皮下脂肪組織にも蓄積する。
 通常でも肝細胞の中には2~3%の中性脂肪が存在する。腹部超音波検査で5%を超えると脂肪の存在が認識できるようになり、初期の段階では脂肪肝による症状はなく、血液検査でも異常所見を認めるのは半数以下である。脂肪肝の立場から見ると、ほとんどは過食と多量飲酒によるが、その他に糖尿病、ステロイド剤をはじめ種々の薬剤、栄養障害などでも発症する。
 肥満の中でBMIが25以上で、11種類の健康障害のうち1つ以上を認めるか、内臓脂肪型肥満は肥満症と診断される。内臓脂肪蓄積症はウェスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)によって判定するが、正確には腹部CTスキャンで臍部を輪切りにした画像での内臓脂肪面積が100cm2以上を認める。この場合は減量が必要となる。
 人はすべて食らって飲むのが大好きである。そのなれの果てが中東と南米では3割の人口、世界人口の約4分の1に非アルコール性脂肪性肝疾患を認める結果で、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)と非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)の2種類に分類する。
 わが国では成人健康診断の腹部超音波検査で、男性で4割、女性で2割に脂肪肝を認める。進行性の病態とされるNASHはNAFLDの1~2割を占め、肝炎を含み、原因不明の肝硬変の重要な原因とされ、肝癌に至る場合がある。
 NAFLDは危険性が低く、普通は肝硬変には進行しない。他の原因による脂肪肝の可能性を排除した上で、一般の診療ではそこまで深く追究することは少ないが、正確には肝生検によって両者の確定診断を行う。
 世界的な国民病である。

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