博士進学と研究室選び

なぜだか今日が水曜日な気がしてならないumbellです、こんばんは。

明日の水曜日(ややこしいなw)、
PhD(日本でいう博士課程)への進学を希望する学生さんがやってきます。
ちょうどいいので、博士進学のシステムの違い、どうやって研究室を決めたのか、なぜ博士進学を決めたのか...について書いておこうと思います。
長いです。

PhD interview

チューリッヒ大学では、PhD interviewという面接的なものが行われます。
欧米諸国はだいたい同じらしい...(知らんけど)。

チューリッヒ大の私が所属する研究科での流れとしては、

1. 研究室ごとにPhD学生募集の公募を出す
2. 学生は公募をみて、「この研究がしたい、この研究室に行きたい!」ってところに応募する
3. 大学院が設定する日時に面接を行う
4. 決定

という感じ。
「応募者のスキルと、これからしてもらう予定の研究内容があまりにも乖離している」場合なんかは書類段階でお断りすることもあるそうです。

で、この面接(PhD interview)というのが私が経験したものと全然違う。

私の場合、「試験日」に、口頭試問(修士論文の内容と、博士課程での研究内容の予定をプレゼンする)をする。
狭めの教室に、学科の教授、准教授、助教が勢ぞろいし、その前で発表。

発表時間20分、質疑応答10分の30分が持ち時間。
全員の先生から最低1回ずつ質問が飛んで、質疑応答40分超、計1時間越えという歴代最長記録を叩き出したことは余談です。
(受験者1人だったから後ろつかえてなかったんだよね。結構辛かったよね笑)

そのあと、先生方で合否を決めるわけだけれど、そこに研究室に在籍している学生やポスドク、技術員は全く関与しない。

私は内部進学者なので、先生方や研究室メンバーの為人は熟知しているし、研究室のメンバーも私のことは、長所短所ひっくるめて把握している(と思う)から、口頭試問の準備をするだけで良かった。
外部から受けに来る場合は、事前に研究室訪問をしたりして、進学希望者の為人や、教授との相性を見る必要がある。
それでも1時間程度なので、全員とは話せないことの方が多い。

チューリッヒの場合は、進学希望者のプレゼンは可能な限り学生もポスドクも技術員も全員で聞く
さらに、進学希望者はなるべく全員と話をする。
その時ラボにいないメンバーはスカイプをしてでも話をする
ラボメンバーは「この人と長期間一緒に大事な研究テーマをやり遂げられるか」について全員が判断する。

これだと、
「やばい、教授と馬が合わなさすぎてツライ...」
「この先輩意味わからんブラックすぎる病む...」
みたいなことが起こりにくい気がする。(知らんけど)

研究室選びの大切さ

ウチの学科では学部3年の後期(10月)から研究室に配属されます。
学部3年前期は研究室選びのシーズンな訳です。

私が研究室選びを目前に控えた学部3年生に口を酸っぱくして言うのは
研究室選びは人生を決めると言っても過言では無いから、なるべくたくさん見学に行って、しっかり考えて決めないといけないよ」
ということ(TAに行った時に聞かれるから)。

実際、入った後で

・パワハラ、アカハラ、セクハラとうハラスメントのオンパレードで学校に来れなくなりました
・先輩から罵倒され続けて病んでしまいました
・コアタイムが8:00~18:00っていう鬼畜ブラックラボでした
・のんびり過ごして卒業できればいいやと思ってたのに、バリバリ研究するラボを選んでしまい、決してブラックでは無いけれど周りの人と話が合わなくてツライ
・バリバリ研究したかったのに、先輩が全くやる気なくて先生は放任すぎて実験指導さえしてもらえない

などなど、様々な問題を抱える先輩、同期、後輩たちを見てきました。

外れをひいてしまったとしても、とんでもなく相性の悪いラボに配属されたとしても、学部卒ならサクッと就活決めればいい。
とはいえ生物系なので、どうしてもラボには行かなければいけない
就活のストレスとラボでのストレスのダブルパンチはかなりきつい

修士に進学するなら3年半もの時間を通わなければならない。
下手すると家での活動時間よりもラボでの活動時間の方が長くなる。
当然だけれど、修論は卒論よりもハイレベルなものが求められ、就活もしなければならない。
理系修士卒、研究開発職の採用では研究内容をまともに話せない学生は就活で不利になる(らしい)。
せっかく研究がしたくて修士に入ったのに(モラトリアムかも知れへんけど)、修士進学以降にラボに来られなくなってしまう学生が増えるのは見ていてもツライ。

幸い、私は自分に合った研究室を選ぶことができたので、特にストレスを抱えることなく、楽しく研究に向き合ってこられたんです。
それは、学部1年の時にとある退官間近の教授から受けた教えに従ったからでした。

その教授の講義は午後の最初の1コマで、ちょうどその曜日の昼休みにサークルのミーティングがあったので、いつもギリギリに入室していたんです。
農学部全員必修の講義なので、ギリギリに入ると最前列しか空いてない
それで顔を覚えられていたらしい。

さらにたまさか帰る方向が同じで、降りる駅も一駅隣だったことから、ちょっとした雑談を講義前後とか帰宅時の電車内でするようになりました。

ある日の講義終わりのことでした。
私同様ギリギリ入室最前列系の友達と2人で、次の空きコマの時間をどうするか話していたら、

「君らは将来どんなことがしたいんや?」

と聞かれました。

一応大学院には行こうと思っています。いろんなことに興味がありすぎて一つに絞れないので、就職先の具体的なイメージは持っていません。ただ、理系に進学して大学院に行くからには、きちんと研究をして自分なりの成果を出せたらいいなと思います」
なんてことを答えた気がします。
(うん、今思い返しても「研究したい」以外の軸がブレブレだ笑)

そうしたら
「ほな研究室はちゃんと選ばなあかんで」
と言われたわけです。

大学入学したて。研究室配属の方法、選び方なんて全然知らない。
なんとなく成績がいい人から希望の研究室に入れるんちゃうか?くらいの認識でしたし、授業料免除や奨学金で有利になるだろうということで、それなりに上位の成績は取ってました。それくらい。

よっぽどぽかんとした顔をしたんでしょうね、当時の私は。
なぜなのかを丁寧に説明してくださいました。実例も含めて。
曰く、

・研究室を選び間違えると、どれだけ優秀な学生も潰れてしまう
・優秀でない学生でも、修士卒でいいなら、研究室を正しく選べば、それなりの成果を出して卒業ができる。
・それなりの成果を出すと、修士卒業時の奨学金返還免除申請の際に有利になる。
・博士進学をほんのちょっとでも考えるならば、より一層研究力の高い研究室を選ばなければいけない。
・博士に進学するなら学振や他の奨学金に応募するだろうけど、これも研究力の高いラボにいれば有利になる

などなど。あぁ、流石に全部は覚えてへん...

今思うと、たかだか大学1年生に、研究室内部のドロドロしたことの実例も含めて話すってすごい教授だったな、と思うんですが、そのおかげで、

これは真剣に選ばなあかん!!!!

と思えたんだから、先生すごい。本当にありがとうございました。

教授直伝、研究室の選びかた

さて、肝心の研究室の選びかたです。

ちなみに、この研究室の選び方は、
・バリバリ研究がしたい
・修士卒までに自分が筆頭の論文を出したい
人向けの方法
なので、
・卒業ができればいい
・修論が出せて無事に就職ができればいい
人は、これから書くこと(1番以外)と逆の研究室を選ぶといいらしいです笑

1. なるべく全ての研究室を訪問する
研究室内部の雰囲気は研究室に行かないとわからない。
特に先生と学生の関係性、学生同士の雰囲気、学生のモチベーションは行ってみて、他と比較しないとわからないことが多い。
いくら自分がやる気に満ち溢れていても、周りのモチベーションが低すぎると、何も知らない学部生が自分1人で成果をあげることは至難の技である。
興味に関わらず、配属できる可能性がある研究室は全て見て回るべし。
研究室訪問では、D、M1の学生となるべく話した方がいい
ラボの雰囲気はM2とDの学生が決めている場合が多い。
ただ、M2は半年ほどで卒業するので、実際に実験を教わったりしてしっかり関わるのはM1とDの学生である。ここと合わないとツライ。
学生と会わせてくれないところは絶対にやめる。
教授と学生の関係にかなりの亀裂が入っているか、見せたくない何かがあるだけです。

2. なるべく全ての研究室のホームページをみる
これは詳細な研究内容を知るため。
ホームページがないところは、教授に事務処理能力がない可能性がある。
学生が作っている場合も多いから、それは研究室訪問で聞いたらいい。

3. 大学のホームページに研究成果を見られるところがあるから、そこに教授や准教授、助教の名前を入力して、過去5年間に何本の論文を発表して何回の学会発表をしたのかを調べる
研究のアクティビティーを知るためです。
学生の名前が筆頭になっての発表があるかも見ておくといい。

4. PubMedやGoogle Scholarで先生の名前で検索をして、過去にどのくらいの論文をどのくらいのペースで出しているのかを調べる
3と同様に研究のアクティビティーを知るため。
学内のは、水増しができる。
簡単な研究会の発表や日本語だけの論文集も大層に見せられる。
PubMedやGoogle Scholarなどは国際誌に掲載されたものだけが出てくるので、世界でのその教授の位置付けがわかる。
ここでも学生の名前が筆頭になっている論文があるかも見ておく。

5. "教授名 科研費"でググって、現在どれだけの研究費がいつまであるのかを調べる
研究費がないと実験ができない。
実験をしなければならない研究テーマなら、定期的に研究費を取れている研究室を選ばないといけない。

6. あらかた絞り込んだところで、アポなしで再度訪問をする
アポなしで訪問してみて学生がいないところは、教授陣が研究をバリバリしているから成果はあるものの、学生にはそんなにやる気がなく、訪問日だけ人数を取り繕っているラボである可能性が高い。
また、「アポイントも取らずにくるのは失礼じゃないのかね!」とか怒り出す教授や学生がいるところはやめるう。大抵ハラスメントが隠れています
アポなしで行くと、ほとんどの学生が実験もしくは解析をしているようなところ、かつ手が離せないなりに邪険にはされないところが良い。

「この6項目でもって選ぶと、大抵大丈夫なんやー」と先生は仰っていました。

私が選んだ時

かなり強烈な内容だったので、結構詳細に覚えていたわけです。
で実際に実行したわけです。

私の場合、本当にいろんなことに興味がありすぎて、全ての研究室の扱うテーマが魅力的に感じてしまったので、テーマで選ぶのはやめた

ほぼ全ての研究室を訪問しました。訪問時には、
1. 研究テーマ
2. コアタイムがあるか、どんなタイムスケジュールで生活しているか
3. 研究室の当番とか運営は誰がどうやって決めているのか
4. 研究室単位でのイベント(ゼミ旅行とか)はあるのか
5. 学会に行ったり共同研究しているか
を聞きました。

これだけでも研究してない研究室ははっきり分かるもので、いくつかの研究室が候補から外れました。

次にググりまくりました。論文、科研費、学会...。すると、
「うちには3億もの潤沢な研究資金があるから、思う存分研究ができるよ」
と豪語していた教授の研究資金が実は残り数百万円なことが判明しました。
いや、確かにかつては3億あったんだけどね、最終年度だったんだよね。
これ詐欺じゃね?
こんな嘘をついてまで学生に見栄を張りたい、学生を取りたい教授に薄ら寒いものを感じて、そこのラボはやめました。

さらに、学会発表、論文が全部教授やポスドクの名前になっているところがあったので、そこもやめました。
配属後に先輩に聞くと、「あそこは学生が馬車馬のように働かされるけれど、手柄は上の人が全部取っていくから、学生の業績が残らないラボだ」という証言をいただいてしまいました。。。

ちなみに、この二つのラボに訪問した時、なんとなく学生と先生の間がギクシャクしてそうな雰囲気があったので、その直感はあながち間違ってなかったんだな、と再確認できました。

そんなこんなで、最終的に3つまで絞って、アポなし訪問したり、TAと先生の関係性を見たりしながら最終的にコムギの研究室を選びました。
決め手は
・月1ペースで論文が出ていること
・学生の名前で発表していること
・科研費が継続的に取れていること
・学振採用経験者が過去にいること
・学生と先生の距離が近く、気軽に相談や雑談が行われていること
・先生の人柄
でした。

一緒に研究室の選び方を聞いた友達は
「良さげだったけど、先生との距離が近すぎて多分自分には合わない」
と言って、別のラボに行き、しっかり成果を出して修士で卒業、就職していきました。

なので、感じ方や相性は本当に人それぞれなんだな、と思った次第です。

ちなみに、選び方を教わった先生と今の神戸のボスが仲良しだったので、私が実行していたことは筒抜けだったらしい。。。笑
この選び方は、うちのボスも支持しているようで、いまだに新しい3年生が研究室訪問をするときに引き合いに出されます笑

そして博士課程へ

このラボを選んでなかったら博士進学してなかったと思います。
コムギが思った以上に楽しかった。面白かった。
ラボの居心地がよかった。思う存分研究できる環境があった。
この先生から学びたい!と強く思った。
そしていよいよ企業に就職する自分が想像できなくなった。

研究を続けたいなら博士号を資格として持っていてもいいな、そしたら海外でも働けるかもしれないしな。

とかいうふざけた考えで、「博士行きます」と宣言したのは学部4年の半ばごろでした。ついでに、

学振DC1取りたいので、テーマください

とも言いました。今思うとなかなかにガツガツしてたな、自分。
(コムギ遺伝学は材料作りに時間がかかるので、学部生のテーマは先生からもらうことが多いです)

大学入学までは色々あって、紆余曲曲折折な感じだったけれど、
学振DC1は落ちたけれど、他にもいくつか奨学金落ちたけれど、
今こうしてスイスに来れていたり、
スイスに来てもD論がなんとかなる程度に研究成果が出てたりするのは、
あの先生の教えがあったからこそだと実感しています。

一方で、病んでしまったり虐げられている学生がいるのも事実。
そういう学生が1人でも減るように、不幸な研究室選択が1つでも減るように、ハラスメント対策や学生のケアに気を配れる環境がいち早く整って欲しいと願うばかりです。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?