師匠の教え その2

すべての仕事に「単純でつまらない」ものなんてない
すべては捉え方次第だ

前回の記事がきっかけで、師匠に「弟子入り」した僕は、そこから日々の仕事の一つ一つについて師匠の哲学を学びました。

当時のバイト先は、定食屋という事で、日中の大きな仕事は以下でした。
・開店準備
・仕込み
・開店
・ホール
・キッチン
・デシャップ
・皿洗い

師匠は僕に言いました。
「皿洗いは舐めるな。お店の売上が上がるためには、お客様が沢山はいってくれる必要がある。お客様が沢山はいってくるためには、お客様に出せるお皿が必要だ。
 お客様が食べたいと思ったときに、お皿がない理由は何かわかるか。前のお客様が使ったお皿が洗えてないこと、またはお皿がそもそも足りないことだ。
 ここのお皿は陶器でできてる。みそ汁のお椀だけはプラスチックだが、それ以外は陶器だ。陶器のお皿というのは、皿洗いのタイミングで扱いを失敗すると割れる。
 お皿が足りなくなる理由の一つは、皿洗いの際にお皿を落として割ってしまう事だ。つまり、皿洗いを手早く、丁寧にできない限り、お店の回転を上げることはできない。どんなにおいしい料理があっても、どんなにキッチンが頑張って料理を早く作っても、出せるお皿がなければ意味がない。お客様は自然と離れてしまう。」

「でも、今のシフトでは皿洗い専門の人がいるわけではない。皿洗いだけのためにバイトがいるケースは他店もあまりない。つまり、すべての役割の人が合間を見てうまく皿洗いをしていかなければ、この店の回転は上がることもないし、お店の料理を期待してくれている人に応えられないことになる。」

という事で、僕は師匠から皿洗いの仕方を習った。
今までのやり方がいかに遅かったか、そしてポイントを押さえていなかったか、という事を教えてくれた。

師匠の教え方は簡単だった。まずは僕に普段通りにやらせた。
そして、その上で全部やった後で、気になったところを全部指摘した。
その上で、自分だったらこういう風にやるんだ、というのを見せてくれた。

洗っとけばいいと思っていた僕にとって、師匠が最初に話した、皿洗いがいかに重要かという点は雷に打たれたような衝撃だった。

確かに、さらには限りがある。食材は、日々のオーダー量を踏まえて切れないように発注している。お客様の食べるスピードはそんなに急加速したりしない。
お店の回転速度を上げるためには、お客様を待たせる時間をいかに縮めるか、が重要になる。
お客様を待たせる要因のうちの一つが「本来必要なお皿がない」という事だ。お皿がなければ料理を載せる事ができない。そんな当たり前のことだったけど、師匠は僕に論理だてて教えてくれた。

それからというもの、師匠は僕に敢えてホールを担当させ、皿洗いをするべきタイミングを都度デシャップから指示してくれた。


どんな時に皿洗いに入れば周りの影響が少なくできるか。
どんな時に、どんな量の皿を洗っておけばいいか。

また、帰ったお客様から下げた食器を、流しに置くその時点で何をしておけば後の作業が楽になるか。
師匠は僕に、流しだけをあえてやらせることもした。
最初に言われた通り、そもそも洗い物だけをするシフトなんて存在しなかったのに、敢えて僕を洗い物だけに立たせた。

そして、どういう風に食器を下げられたら洗いやすいか
どういう風に洗い物の準備をしておけばまとめて洗いやすいか
洗い物をしているときに何を見るべきか

そういった事を教えてくれた。

しばらくして師匠は言った。

「皿洗いだって、奥が深いだろ。簡単な仕事じゃないんだよ」

それまで僕は皿洗いなんて誰でもできるような単純作業だと思っていた。
それに、なんとなく皿洗いは楽しくないと思っていた。

でも、師匠から(その店で通じる)皿洗いの極意を教えてもらってから、皿洗いはすごく楽しくなった。まだまだ自分のオペレーションに改善の余地があることが沢山分かった。

どんな仕事でも、単純作業でつまらないことなんてない、というのを
その時師匠は教えてくれた。

社会人になってもうすぐ14年目になる今も、あの言葉と経験がずっと生きてる。

まだ皿洗いの話しか書いてないぞ。まだまだたくさん、教えてもらったことはあるんだ。

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