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2. 地域を「イケてる」ふうに見せるより

「最近なにしてるの?」と聞かれるのが苦手で、それはこの6年間も同じだった。毎日これだけ働いているのに、「なにしてるんですか?」という素朴な問いにフリーズしてしまうって、どういうこと? ディティールに入り込みがちなんだろうな。

神山に家を借りたのは2014年だ。住みながら家の改装をコツコツ重ねて、打合せや大学の授業やワークショップがあれば外に出かけて、ということを繰り返していたと思う。

9時をまわると家々の明かりが消えるような山あいの暮らしは初めてで、東京と同じ調子で遅くまで仕事をしていると、とっぷり暗くなった山に「キーン」と鹿の鳴き声が響く。静けさと夜の長さがいいなと思った。

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そのうち町役場のある人から「役場サイトをリニューアルしたい」という相談が来た。その人の熱意と、同じ頃に神山にサテライトオフィスを構えた友人のウェブ制作会社(ものさす)の熱心な作業を経て、現在も運用されている神山町役場のサイトができた。

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「暮らし・手続き」がいわゆる行政情報。「神山を知る・楽しむ」が観光情報。で、それらと肩を並べて「神山はいま」というインタビューや対談の連載が配置されている。

市町村のサイトでは、一般的に行政情報が主コンテンツで、バナーなど、サブの扱いで観光情報・その他を添えたつくりが多い印象がある。

でも自治体サイトは〝いま暮らしている人たち〟と〝そのまちに関心のある人たち〟のちょうど端境にある。
先の2種類の情報は並べて扱う方がいい(かつ観光という言葉を使わない方がいい)と考えたわけだけど、さらに「神山はいま」という読み物が3つ目のトップコンテンツとして並列しているのが、いま振り返っても面白いなと思う。グローバルメニューでも並列で、更新頻度もそう高くない「読み物」としては破格の扱いだ。

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タイトル下の「いまの神山を、まちの人たちの言葉で」のとおり、「いままちはこんな感じ。自分たちはこんなふうに感じている」ということを、行政でなく、暮らしたり働いている人々の言葉で表現してゆけるといいよねと担当者と話し合った。出来れば若手の言葉で。

「出来れば若手」というのは、年配の方だと昔話が多くなって「いま」の話が薄くなりやすいのではという想像だったが、若手でも人によって、「小学校はクラスに何人いて」など昔話を膨らませがちだった。それで途中から対談・座談形式にすると「いま」に焦点が合いやすくなった。

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人口が減少方向にある地方自治体は、どこも、住んでいる人を増やしたい。

それには転出の抑制、転入(移住や帰郷)の促進、出産率の向上の3つの手立てがあるけど、手っ取り早く着手出来て、かつしがらみが少ないのは移住促進だ。地方の行政サイトの多くに「移住」の言葉が並び、予算があればキャンペーンサイトも立ち上げる。

でも、プロモーティブなキャンペーン・コンテンツを見て移り住んで来る人たちと一緒に暮らしたり、働いていきたいかなあ? という素朴な疑問があった。消費者として情報感度の高い人が増えると、むしろまちは荒むんでない?

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このコーナーのトップバッターは、神山の写真館の娘さんとして育ち、別の地域の大学に進んで、東京で働いた後まちに戻ってきた近藤さんという女性だ。6年前の記事を少し辿ってみたい。

「高校は徳島市内だったんですけど、外に出たくて県外の大学に行きました。」
「結婚して主人の仕事の都合で東京に4年くらいいました。」
「この先どうしようかと考えた時に、まあ神山で新しく挑戦してみるのも良いかなあと思ったんです。」

「田舎は田舎でも変な田舎やから。ホンマに保守的な田舎で変なことしたら多分、浮くやろうけど。ここやったら多少、変なことしても浮かんかなあ、みたいな。」
「ここ私の実家ですけど、あんまりホームに帰ってきたっていう意識は全然なくて。ここはフロンティアだと思っています。」

「実家って足かせだと思ってる人が多いと思うんですよ。」
「プラットフォームとか枠っていうふうに捉えると、ものすごく資産で、その中で自分が自由にやれば、普通にIターンするよりもすごいアドバンテージがある状態で、物事を始められると思うんですよね。」

後ろの本棚に「曲げわっぱ」が見える。彼女はこの頃、以前から取り組んでいたお弁当ブログの活動の先で「納得のいく曲げわっぱが欲しい(納得出来ない変な品物が多い)」という気持ちが強くなり、さらに「それを自分で。神山の杉でつくりたい」と話していた。
この頃(2015)は「したい」だったけど、6年経ったいまはここまで来ていて、いやあすごい。

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https://www.instagram.com/n_kondo/

杉板を蒸かすところから試行錯誤して、「曲げわっぱな日々」というブログを運用し、「神山曲げわっぱオンラインショップ」で販売し、最近はオンラインのワークショップも開催している。
山にいるから出来る「自分の仕事」を形にしていて、さらに先へ進もうとしている。大学時代は輪行部だったと聞いた。「ペダルを踏んで漕いでゆけば、どこかに着く」ことをよく知っているんだな。

まちは、いま現在は外に出ている出身者と出会い直したいし、自分たちと違う経験を持つ相性のいい人たちと出会いたい。そのときにどんなコミュニケーションを取ってゆくといいのか。地域を「イケてる」ふうに見せるのはその道のプロの力を借りれば出来るけど、どうかな。等身大がいいんじゃないですかね。

担当者と「5年くらい積み重ねるとなにか見えてくるんじゃないか」と話したのを憶えている。5年経ってるな。町外にいる若手出身者と話していると、私が会う人たちは結構読んでいるようで、嬉しかった。


*神山町役場サイト http://www.town.kamiyama.lg.jp

後日談:
近藤さんから届いたメールに「自転車って漕いでるかぎりはコケないんですよね」の一文があり、いいなと。