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『かかわり方の学び方』 伊勢達郎さんたちの「とえっくラジオ」で…その2:学力の話

写真左から
・伊勢達郎さん…NPO法人自然スクールトエックの中心人物
・プーさん…トエック「自由な学校」(小学校に相当)のまとめ役
・私(西村佳哲)
・フナ…フリーキャンプをはじめ、トエック全体の番頭さん的存在

< その1:お金の話

トエックの「自由な学校」は、キャンプが小学校になったような場所。授業や時間割はなくて、子どもたちが互いにやりたいことを、日々たっぷり重ねている。

トエックのサイトより

その2:学力の話

西村 よく聞かれると思うけど、学力の話をききたくて。神山の若い友だちが新しい小学校、フリースクールを始めて(森の学校みっけ)、ちょうど開校したんです。先月町内で説明会をひらいたら結構地元の人が来て、「お前ら頑張れ」とか優しい言葉をかけてくれたみたいで、よかったなと。

 でも、やっぱり不安がられるところはあって。「学力はどうなんだ」って。「子どもたちがいろんな過ごし方をするのはいいけど、必要な身につけるべきものはどうなの?」と訊かれたって。
 彼女たちがそれにどう答えたのか。実体験がないから、答えらんないと思うんだよね。本人たちは普通の公立校を出たはずで。

 達郎さんやプーさんは実際の事例というか、具体的な人物例を、トエックでたくさん見てきてるじゃない。僕も知ってる子もいる。学力って、とくに小学校ではそんなに心配しすぎなくていいと思っているけど、トエックに子どもを預けるお母さんやお父さんたちに訊かれることもあるだろうから、ちょっときいてみたいなと思って。

ふな・プー・達郎 学力ね。学力、学力…。

プー いろんな子は見てきた、見てきてる。トエックでは〝学びと遊びを分けない〟っていう遊学のスタイルを取ってて、それには理由がある。
 「みっけ」のスタッフと同じように、私もそういう時代は生きてないんだよ。自分の経験はない。けど「窓際のトットちゃん」に打たれているんですよね、高校時代に。こんな学校が本当にあったらいいよなって。

達郎 トモエ学園だね、小林宗作先生。すごい教育者。

プー あれに震えて。でも(心の中で)置いてたんだけど、トエックに出会って。スコップ持ってテントから立てる経験をして。「こんなことがしたかった」って。「あ、ここが学校だな」って思う実感はあったから。
 やっぱり体験して、自分の現在地を知るとか。向かっていきたいこと、学びたいことを取る、知ることのおもしろさとかに納得はしてたの、自分で。「こんなことが出来る」ということが、幸せと直結してたのでね。やりたいことをやる、ということに私は20歳で出会った。

 もっと早いうちに出会って、「やりたいことをガツガツやって幸せ」っていう、それこそお金じゃない貯金をいっぱい体験することが、子どものうちにあったらいいって思ってる、今も。
 それが机の学習であろうが、縄跳び100回飛べるようになったでもどっちでもよくて。っていう時間を保証したい。

 でもこの理想と、実際(学校を)開いてその先ですよね。「中学校は大丈夫なのか」「大学まで行ってちゃんと仕事してほしいんだ」みたいな親の願い、本人の願いに、壁にぶち当たってる親子、もしくは子ども自身は見ては来てるよ。簡単ではないよねっていうのはある。

達郎 それはもう散々質問が来るところ。「学力とか大丈夫?」「将来不利益にならない?」っていう。僕たちだって「無知のままでいいや」と思ってるわけじゃない。知的な学習を軽んじてるわけでもないし、どっちかと言えば逆に、偉そうに言うならば〝探求心〟とかそういうところで凌駕したい。

 でも僕いま注意深くなってて。その辺のことを言葉に出来るようになってきたので、迂闊になにかサポートするような言い方をすれば、するほど、依存されるんですよね。僕からの太鼓判をもらったみたいに。
 いい指導すればいい成績になるけれども、それでは中身が育たないから、トエックが生まれたところがあるんですよ。意欲とか想像力は、周りが丁寧に教えれば教えるほど、自分で切り拓いたり、自分で考えたり、自分で動機づける必要がなくなるわけだから。確かにやるようになるけど、自己主導的に切り上げる力は、ちょっと強く言うと搾取してますよね。意図はなくてもスポイルしている。

 それはよくできたゲームだって、ディズニーランドだって、主体性なんていらないじゃないですか。勝手に遊ばせておけばいい。同じようなことを僕もやってしまいがち。年齢があがるとね、喋りたい。(相手は)興味持ってるわけでしょう。だから喋りたい。いまももう既にね(喋りたい)。
 でもこれは違うなと思う。つまり「大丈夫かな?」って思う、その心配の作業を、サボらんといてと思うんですよ。それをサボって「なんかそこ(オルタナティブスクール)に行ってもいける(大丈夫)みたいよ」だと、そりゃまずいんじゃないか。それって消費社会の捉え方だし。それこそ民主主義的にいうなら〝お預け民主主義〟っていうの。「強いリーダーが出たから乗っかります」「立派なリーダーがいたらそれでいい」みたいな。
 そうじゃなくて。もう一回、「学びってなんだろう」とか「人間の生きる力とか、意欲とか、なんだろう?」みたいな。要は、思い通りにならないので。

 じゃあ僕らはなにをサポートしたらいいんだろう。安易に「いけまっせ」と言うのは、下手すると〝無農薬で無収穫〟みたいなところにいくんですよ。
 (子どもに委ねて、放任でいいわけじゃなくて)ほっといたらアカンにきまってる。そんなのでうまくいくなら、「これだっていけるんでしょう」みたいに乗っかられてそれでうまくいくなら、学校教育やってる先生方の立つ背ないじゃないですか。
 みんなこんなに一生懸命やってる。それは険しい道のりですよ。ともに大いに揺れて、悩んで。それなしに、ここ(学力)を触ってこられてもね。

すごい大事なのは、愛を持って、手間暇かけるというか
かけないことも含めてやるとか

西村 神山町で集合住宅づくりのサポートをした。そのランドスケープデザインを手掛けたのは田瀬理夫さんで、彼は緑地設計をする。建築はある種の完成形をつくるけど、周囲の緑はそこからがスタートなんだよね。育っていく。
 だから、どう管理育成していくかのがすごく大事で。設計者は緑地の管理マニュアルをつくるんですよ。「こういうふうにしてくださいね」って。で、田瀬さんがつくる管理マニュアルに、じゃあ年に何回肥料やって、水やりしてって書いてあるかっていうと書いてなくて。

 彼の管理マニュアルの一行目は、「愛を持って植物に接してください」。そして「その植物をとにかくよく見ていてください」。よく見ていれば、必要なことがわかると書いてある。年に何回肥料をやるとか、剪定をするとか、あらかじめ年間計画で決めるのがいちばんよくない。とにかく〝よく見ている〟ことをずーっと繰り返していれば、自然と必要なことがわかるからっていう。

達郎 まったく同じだよねー。うち(ご実家は農家さん)の90歳の母親にも同じエピソードがあって。

 種が発芽するには水分が必要なんです。朝に夕に、それは口やかましく(トエックのスタッフに)「水やったか?」と訊く。「やりました」。たいてい少ないんですよ。たっぷりやらんとだめ。でも『たっぷり』って『何リットル』とかじゃないから、「十分に」。これもなかなか大変なんだけど。

 ところが発芽すると、ひ弱なんけど、今度は水をやらないんですよ。すごいひ弱で、まだ9月だから暑い。でも(水を)やらない。ここで安易にやりすぎると「もやし」になっちゃう。自分で水を取りにいかないから、根が育たない。教育と重なるんだけど。
 でも最近はね、9月中旬でも35度とかになる。でもやっちゃだめ。で、あるときにばあちゃんがね、スタッフに「水やったか?」って言うんです。驚きますよね。やっちゃいけないって聞いてるから、「やらないんですよね?」って。混乱する。
 やるなって言ったのに、どうやって見分けるんだ?ってなるじゃない。「何度になったら」とか「何日間日照りがつづいたら」とか。「学力大丈夫?」も一緒かもしれないけど、じゃあどうやって?って。

 (そしたらばあちゃんは)「そんなん簡単や。畑いって土を見て、芽を見たらいいだけの話や。枯れたらあかんと決まってる」と。目から鱗で、それはそうです。これは自由な育ち場もまったく同じことだね。

西村 葉が縮れてきても、「水はあげちゃいけないって聞いたし」みたいな。(笑)

達郎 そうそう。そら枯れたらあかんやろうってね。(笑)

ふな ね。「何回も足を運んで、よく見ろ」って言われるよね。

達郎 それこそ愛を持ってね。枯れるならあげる。溺れるなら助けるよ、そりゃ。

西村 必要なことをね。(ふなへ)学力どう?

ふな 「うん」って聞いちゃったから出てこないんだけど、「手は抜けないな」っていうのは共通してあるな。こうしたらいいとか、こうしたらこんな子に育つなんて、本当に方程式ってなくて。でもすごい大事なのは、愛を持って、手間暇かけるというか。かけないことも含めてやるとか。っていうことがやっぱり大事。大人が問われてる気がするな。

西村 関心を持って接しつづけるというか。

達郎 つい喋り過ぎて、向こう側まで言い過ぎないように注意するけど。たとえば植物が根を伸ばしていく力っていうのは、我々が思ってるのと全然レベルが違う。肥料がないというだけで、十何メートル向こうまで、窒素リン酸カリウムがなくても空気中から取り込んででも育つぐらいの力、ポテンシャルを持ってる。
 人間の子どもだって、自分で学ぼうとする、物事をおもしろがるその力たるや、安易に与えないっていうだけでも、「みんなと一緒にしないでいいよ」と言うだけでものすごい力を発揮する。

 でも一つ間違うと、単に欲しい欲しいになったり、足りない足りない、になったりする。簡単じゃないね。

西村 一概には言えない。

達郎 だから本当に、一般論で言ってしまうと「臨機応変」とか、まったく役に立たない言葉になってしまう。

西村 「ケースバイケース」とか。そうですよね。

ふな ありがとうございます。気がつくともう1時間過ぎちゃった。楽しすぎて、止まらないです。

 書き込みを紹介しますね。よもぎさん「楽しみにしてました」。ひろみさん「まさに家事の〝働く〟をしながら聞かせていただいてます」。くるみちゃん「お金じゃない、愛が欲しかったって泣ける」。ありがとうございます。
 このあともう1時間、西村さんとの時間を過ごしたい。教育についてもっとギュギュギュって喋れたらなと思いますので、楽しみにしていてください。

 トエックラジオでは有料会員を募集しております。月に500円でアーカイブも聞けるようになりますので、ぜひラジオ会員になっていただいて、引きつづきご支援をよろしくお願いします。
 この配信は、株式会社モノサスの多大な遊び心と、チャレンジ精神と、ご協力をいただき成立しています。

> その3:「おもしろい」ってなに? につづく


動画リンク 2022年4月12日の「とえっくラジオ」
・導入:ゲスト紹介、伊勢達郎・トエックとのつながりなど、なごやかな語らい
・その1:お金の話
・その2:学力の話
・その3:「おもしろい」ってなに?
・その4:民主主義、どうよ?

>「とえっくラジオ」
子育て・人間関係・教育現場の悩み事に、伊勢達郎・プー・ふな、トエックの3人が、楽しく真面目にこたえるネットラジオ。

*伊勢達郎さんのインタビューが収録されています