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それでもやっぱりピンクが好きな話

今、私は目の前の人が持っている、ショッキングピンクの鞄に、心を奪われている。

ピンク、特にショッキングピンクを見てしまうと、いつもこうだ。何故だか、「ピンク」ってのは、私の脳にドーパミンを放出させるような、そんな威力を持っているのだ。

江國香織の『とるにたらないものもの』にも、「ピンク」に関するエッセイがある。普段身につけるわけではないのに、どういうわけかピンクに惹かれてしまう、彼女はそう言った。

だって女の子だもん♡ピンクが好きに決まってる♡
なんて、柄にも無くて冗談でも言えないけど、実際それが真理なんじゃなかろうか。女子という生き物は、ピンクに弱くなるように、プログラミングされているんだと思う。

思えば、物心が付いてから最初に好きになった色は、「ピンク」だった。
オーソドックスな薄めのピンク。いわば、平均的なピンク。
ふりかけは、ピンクがいいという理由で好きでもないのに「たらこ」を選択していたし、グミはモモ味だったし、新幹線は「こまち(ピンクとグレーのラインが入ってる)」が好きだった。

でも、私はピンクを身につけることを、許してもらえなかった。
「あんたは絶対紺とか赤とか緑とかはっきりした色が似合うし、お花柄より迷彩柄が似合う。だって顔が薄いもん、ピンク着たらボヤボヤになっちゃうよ」
両親はそう言って、スキーウェアは迷彩柄に、幼稚園バックは赤のチェックに、お洋服は紺とか白を着せた。「ピンクのふりふりは絶対飽きるから」そう言って、なかなかピンクの物を買ってもらえなかった。
唯一買ってもらえたピンクのワンピース(今思うと吐き気がするほど似合わない)と、ピンクのスキー板(無理矢理買ってもらった)を、それはもう大切に、宝物のように扱ったことを覚えている。

身につける物でピンク心を満たせなかった私の心を満たしていたのは、「セーラームーンのおもちゃ」だった。ほとんどのアイテムは、ピンクのキラキラのメタリックだった。ついでに買ってもらっていた、おジャ魔女どれみやカードキャプターサクラやクレヨン王国のおもちゃも、ピンクのオンパレードだった。
だから、幼少期の私の思い出は、ほとんどこの「女児アニメグッズ」に詰まっていると言っても過言ではない。

しかしながら、大抵の女の子はこの「無条件ピンクラブ期」を越えると、「ピンク離れ」というものを経験する。

「オレンジ」と「水色」の新規参入である。

だいたい、幼稚園年長から小学校中学年にかけて、この現象は見られる。(私調べ)
その期間において、ピンクは「敵」だ。「ピンクを未だに好いてるヤツはダサい」という風潮が出てくる。

そして、彗星のごとく現れた「オレンジ」や「水色」を、「イケてる女の子の色」として愛で始めるのだ。

特に、幼稚園年長あたりはピンク離れとの境界線のため、「水色とピンク」というミックス現象が起きる。この組み合わせを見て懐かしい気持ちになるのは、そのせいだ。
そして次第にピンクと完全に決別して、「水色」や「オレンジ」を選ぶようになる。なっちゃう。

私にも、「ピンク離れ期」がやはり存在した。オレンジの自転車にあこがれて何度も親に交渉したし(買ってもらえなかったけど)、水色に憧れてポンポネットを着ていた。今の自分からは考えられないし、キャラぶれも甚しいのだが、なんとまあポンポネットを着ていた、この私が。

そしてそれと同時に、「女児アニメ」への執着が無くなったため、セーラームーンのおもちゃも、その他のおもちゃも、全て捨てた。
数年後、また死ぬほどドハマリして、失ったおもちゃを取り戻すために大金をつぎ込む未来があるなんて、知りもせずに。
タイムマシーンがあるなら、確実にこの時に戻っておもちゃを捨てようとする自分を阻止したい。ああ、時を駆けさせてちょうだい…

さて、重要なのは、この「ピンク離れ」を抜け出した時だ。
ここで改めてピンクに回帰する者と、そうではない者がいる。

私はもちろん前者である。そして、回帰する前と後で、明らかに変わったことがある。

それは、「ピンクへのこだわり」である。
今までの私は、いわゆる「オーソドックスなピンク、広義的なピンク」を好いていたわけだが、回帰を経て、私が心踊らされるピンクは「ショッキングピンク、または蛍光ピンク」だということに気がついた。
そして、うっすいピンク、特にピンクベージュ(私に言わせたら魚肉ソーセージ色だ)は好きではないことにも気がついた。  

こうして私は、完全にピンクが好きな女になった。いわば、「ピンクにおける自我の目覚め」である。

成長して自我を手に入れ、さらに自由を手に入れた私は、大好きなピンクを出来るだけ摂取するようになった。
顔が薄くてもぼやけないような、「パキッとしたピンク」を思う存分身につけた。
一度手放したセーラームーンのグッズも、狂ったように集め始めた。

なんて最高な世界!眼福とはまさにこのこと!
何から何までピンクの空間を演出したテーマパークを作って欲しいくらい。
林家ペーパー夫妻、出資しないかな…

ちなみに次に好きな色は黄緑色だなあ、って気づいたんだけれども、私はただ単純に蛍光色が好きなだけなのかもしれない…

それでも、やっぱりピンクが好き。

ピンクが好きな女で良かったな。 

そんな浮かれた気持ちを抱えながら、
鏡の前で、ピンクの口紅を引く。そんな朝の話。

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