20歳のごく普通の女子大生が光復節のソウルの街を一人で歩いて思ったこと

アラームの音が私の意識を現世までゆっくりと引き上げた。
耳を塞ぎたくなるような蝉の声が窓から入ってきて、私は小さく呻いた。
首を左右に折り曲げて、伸びをすると関節が音を立てて鳴った。
ベッドから起き上がって朝食を食べ、床に散らばったゴミを掃除をしてから、
私は独りでソウルの街へ繰り出した。

今日は1つの国にとって終戦の日で、
もう1つの国家にとっては光が戻った日。

もうソウルに来て5日が経った。
2週間の短期研修で来たのだが、
責任者である韓国人の先生さえも、
「あまり出歩かないで、外出するならどこに行くか教えてね」
と言った。
私はいつもよりファンデーションを濃く塗り、赤いリップを塗って周りに迎合されようとした。
短いスカートを履いてこの世界に溶け込もうとした。
一人でヘファ駅からホンデまで行き、本とボールペンを買った。
店を出ると雨が強く降っていて、顔をしかめて折り畳み傘を広げた。
なんだ。と思った。
なんら変わらない、ただの休日だった。
沢山の幸せそうなカップルが会話を楽しみながら、交差点を往来した。
沢山の中国人が大きな声でお喋りしながら、商業ビルに入っていった。
ハンガンを渡ってカンナムまで行った。
高速ターミナルでも、家族連れの客が目立つ
ただの祝日だった。
目の前で泣き出した弟を幼いその子のお兄さんがぎゅっと抱きしめて慰めていた。
ここでもただ、誰かの日常が経過しているだけだった。
高速ターミナルから明洞に行った。
明洞入り口に立つと、正面にUNIQLOがあった。
道路の中央には屋台が立ち並び、化粧品店の店員が韓国語、日本語、中国語で客寄せをしていた。
通り過ぎる4分の1の観光客が日本人だった。
あぁでもないこうでもないと言いながら、中国人の次に爆買いをしていた。
政府の力に染まった小さな電光掲示板だけが、寂しげにNOジャパンを主張していた。
大通りではなにやら政治家らしき人が凱旋していたが、明洞の雑踏の中でその主張を聞き取るのはほぼ不可能だった。
なんだ。と思った。
至って平和じゃん。と思った。
歩き疲れて、ヘファ駅まで帰った。
4番出口の前で、おじさんがなにやら反日っぽいビラを配っていた。
出口に向かう韓国人の人々はそのおじさんに見向きもしない。
視線さえも向けはしなかった。

他の国となんら変わらない、
ただの建国記念日。
誰かにとっては誕生日で
誰かにとっては命日で
日本で1時間経つ間
コートジボワールでは3600秒が経過する
そんな普通の一日だった

もし今日、日本のメディアが反日デモについて報道するなら、
それはいつ、どこでデモが起きるのかちゃんと調べて取材した努力の塊
ちゃんと労うべき労働

でもニュースを鵜呑みにするだけじゃなくて
ちゃんと目を開いて
私のこの話さえも疑って
ただ私がソウルの街の表面の薄皮を
一枚めくっただけだったのかも
そう疑って、そして
自分はどんな意見を持っているのか
考えるべきな気がする

私の勘違いだとしても、
私とすれ違った韓国の人たちのほとんどは
ゆとりのある休日を満喫して
恋人と会って、何気ない会話をして
疲れた心を充電して
家族の愛と絆を深めることに
この24時間を充てているように見えた

国家を愛することは当たり前だ
私も生まれ変わるなら、日本人として生まれたい
だけど、その愛が盲目的になって
他の文化や仕来りを過小評価する原因になるくらいなら、
自国のものと優劣をつけたいと思わせるのなら、
そんなくだらない愛は、さっさと分別して
ゴミ箱に捨てた方がいい気がする

目を閉じると、昨日の漢江の夕日が浮かぶ
漢江に勝るものは残念ながら
今のところ地球のどこにも存在しない
漢江は今のところ地球に1つしか存在しないから
自転車を全速力で漕いで行く人
対岸に見える真っ赤なブレーキランプの連なり
何百人、何千人を乗せた電車の往来
幾重にも重なる、デザインの異なる美しい橋
背後には残業で光る夜景と
暖かな家庭の灯り

情報が多くなって
わからなくなったら
月になった感じで
地球を傍観して、一日一周考えたい
ほんとうにそれは正解なのか
疑いたい
そして、誰かの温もりの反射でも良いから
愛を持って
誰かを照らしたいと思った
そんな8月の真ん中

#韓国 #ソウル #ミョンドン #明洞 #ホンデ #光復節 #韓国旅行 #エッセイ

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コメント2件

突然コメントしてすみません…

書き出しの「現世までゆっくりと引き上げた」や、後半に連れて読む人の肩を掴むような文体にとても惹かれました。こ好きな書き方だなあと思いました。
もっと読みたいです
素敵な記事、ありがとうございました!
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