20200814.こころの命日

心の距離と、物理的距離は比例するのだろうか。
2020年8月14日、私の残火が潰えた日である。

思えば、とっくのとうに私は気づいていたのかもしれない。
「汀さんは、お盆に彼氏さんとどっか行くの?」
バイト先で品出しをしている最中に振られた話題は、ごくありふれたものの一つ「恋バナ」だった。
「いやあ、彼氏いませんし、研究でやること多くてどこも行きませんよ」
「あれ? おかしいな」
「彼氏いるって、誰かから聞いたんですか?」
「ん~? いや、違うんだけどね」
バイトが週五日になってからよく話すようになった同僚に問いかけるも、彼はとぼけたように首を傾げた。私にはもちろん彼氏はいない。しかし、なぜか付きまとう別の同僚がいるため女性陣の力を借りて彼氏がいると嘘をついていた。ここで本音を言ったのは、彼には「アリ」だな、と感じているからである。
「俺も大学時代は彼女いなかったから何とも言えないけどさ」
歯磨き粉を揃えながら彼は笑う。
「大学生のうちに彼氏作って、楽しんでおいた方がいいよ~」
「説得力どこに行ってしまったんですか」
「わはは!」
からからと笑う声に同じように笑い返しながら、私は気づいてしまった確信を何度も何度も、空っぽの宝箱を覗き込むように確かめていた。

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