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【異端】子育てがうまくいかないと悩む方へ。9歳で大学入学の天才児に学ぶ「すべきでないこと」:『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』

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「好きなことに打ち込む時間」こそが大事

この作品は、自閉症児を育てる母親の物語です。そう聞くと、自分の子どもは自閉症ではないからと関心を失うかもしれません。

しかし本書は、子育て全般に通じる話が書かれた作品だと思っています。私自身は子どもを育てた経験はないので説得力はないでしょうが、「靴紐も結べない」と言われた子どもが「9歳で大学に入学し、相対性理論の研究をする」までに変貌したのには、母親の観察と執念が実を結んだとある実践があったお陰です。そしてその実践は、自閉症児以外にも役立つものだと私は考えています。

それは著者自身も同じで、あとがきで

わたしがこの本を書いたのは、ジェイクのストーリーはすべての子どもに当てはまる話だと考えるからです

と書いています。

ジェイクの天才性と自閉症

本書に登場する自閉症児であるジェイクは、なかなかぶっ飛んだ天才です。なにせ、12歳にして論文が専門誌に掲載されました。

ジェイクは大学の物理学の研究者として、十二歳で初めて夏休みのアルバイトを経験しました。アルバイトをはじめて三週間目、彼は格子説におけるある未解決問題を解いてしまったのです。この解答はのちに、一流の専門誌に掲載されることになりました

IQを測ると189と出たそうですが、実はもっと高い可能性があります。「天井効果」と呼ばれるものが制約となり、実際には測定不能なのだそうです。

また、ノーベル賞も夢ではないといいます。

そして息子の要望にしたがって、とある物理学者に連絡をとったのです。その学者はまだやりかけのジェイクの式を快く見てくれ、彼の理論は間違いなく彼独自のものであること、そしてもしこれが完成されれば、ノーベル賞候補にもなり得るだろう、と言ってくれました

他にも、ピアノを習わせたことなど一度もないのに、初めて聞いた曲をその場で弾けてしまいます。また、地図を見ただけでアメリカ中の主要道路をすべて暗記し、母親が運転する際には正確にナビゲートしてくれるとか。ちょっと信じがたいと感じてしまうほどです。

しかし、ジェイクの将来がこうなることを予見できた人は誰もいませんでした。というのも、ジェイクが3歳の頃、母親は専門家からこう診断されてしまうのです。

彼が十六歳になったときに自分で靴ひもを結べるようになっていたらラッキーだ

ジェイクは重度の自閉症で、彼が字を読めるようになると考える人もいなかったそうです。そう考えると、9歳で大学に入学したというインパクトがさらに強くなるでしょう。

アメリカの自閉症プログラムへの疑問

アメリカでは、自閉症児向けのプログラムが用意されています。もちろんこれは、専門家の研究や経験を元に、様々な検討を経て作られたものでしょう。自閉症児については、「5歳までの接し方で、その後の様子が大きく変わる」という研究結果が存在するようで、自閉症児の親は、専門家が組んだプログラムを毎日詰め込み、少しでもたくさんの訓練を受けさせるのに必死になります。

このプログラムは、著者の言い方を借りると、「できないことに焦点を当てるもの」です。

例えば自閉症児の中には、「じっと座っている」ことが苦手な子もいます。その場合、様々な訓練を施しながら「じっと座っている」状態を保てるように訓練を行うということです。

自閉症児向けのプログラムはこのように、「自閉症児が苦手とする『社会生活に必要な動作・行動』をできるようにする」ことが目的となっています。

ジェイクの母親も当然、このプログラムを受けさせます。しかし母親は、息子の様子を観察して、疑問を抱くのです。これが本当に正解なんだろうか? 専門家がそう言っているのだから正しいのでしょうが、しかし、このプログラムがジェイクのためになっている気がしない……。

彼女は、そんな葛藤を抱くようになります。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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