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【脅迫】原発という巨大権力と闘ったモーリーン・カーニーをイザベル・ユペールが熱演する映画『私はモーリーン・カーニー』

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実話を基にした映画『私はモーリーン・カーニー』は、原発という超巨大権力に立ち向かった1人の女性の凄まじい奮闘を描き出す作品だ

これはちょっと凄まじい物語だった。前半と後半とでは「描かれていること」がまったく異なっており、前半の展開からはちょっと想像も出来ないような物語になっていく。公式HPでは後半の展開にも触れられているので、わざわざ伏せる必要はないのだろうが、この記事ではなるべくその点には触れないようにしようと思う。出来るだけ、後半の展開を知らずに本作を観てほしいと思っているからだ。

しかし、その点を伏せるとなると書けることに大分制約が生まれるので、自分の首を締めるだけなのだが。

ちなみに本作は、実話を基にしている。前半の展開だけでも十分に驚きだが、さらに後半の展開も事実なのだと考えると、ちょっと驚かされてしまうだろう。

まずは内容紹介

それではまず、前半でどのような物語が展開されるのか紹介しておこう。

物語は、非常に衝撃的なシーンから始まる。2012年12月17日、本作の主人公であるモーリーン・カーニーが、自宅の地下室で目隠しされた状態で発見されたのだ。両手両足は椅子に縛られており、腹にはナイフで「A」の文字が刻まれ、さらにナイフの柄の部分が膣に差し込まれた状態だった。

そしてここから、数ヶ月時間が遡る。

モーリーン・カーニーは、世界最大の原子力発電会社アレバの労働組合代表を務める人物だ。既に6期選出されているベテランだが、さすがにそれも今回で終わりにするつもりである。なにせ、5万人もの従業員の雇用を守らなければならないのだ。その重責はあまりに大きい。

そんなモーリーンの身辺に大きな変化がもたらされた。CEOであるアンヌの退任を決意し、副社長のウルセルの就任が決まったのだ。女性同士ということもあり、アンヌとモーリーンは相性が良く、また労働組合員からの支持も篤かった。だからこの交代劇は従業員にとっては不穏なものと映る。ウルセルは、実に厄介な人物だからだ。モーリーンは新CEOとの対立を覚悟しつつも、それまでと変わらずに「権力に屈せず、従業員の利益を代表する」という立場を貫く決意を固める。

さてそんなある日、彼女にある情報がもたらされた。フランス電力公社(EDF)に勤務する者からの内部情報提供である。その人物は、「EDFのCEOであるプログリオが、原子力発電に関して中国企業とハイリスクな技術移転契約を行い、それによってアレバの雇用が大幅に失われる」と訴えていた。もちろんこれは、アレバだけではなくフランスにとっても大きな問題である。そしてなんと、ウルセルがこの計画に関与しているというのだ。彼女はこのリーク情報を元に、ウルセル、そしてその背後にあるだろう巨大な陰謀と闘う決意をする。

彼女の動きが察知されたのだろう、モーリーンは強盗に遭ったり脅迫電話を受けたりと、見えない圧力の存在を感じ始めた。しかし彼女は怯むことなく、議員にこの問題の危険性を訴えたり、大統領との面会を取り付けたりと、成すべきことを進めていく。

そして、まさに大統領との面会当日である2012年12月17日に、彼女は何者かに自宅で襲撃されてしまう……。

イザベル・ユペールの演技がとにかく素晴らしい

冒頭でも触れたが、本作は先の内容紹介からはちょっと想像できないような展開を見せる。物語の中盤ぐらいから唐突にギアが入れ替わるような印象があって、「こんな展開になるのか」と驚かされてしまった。そしてそこから、「一体何が真実なのか?」という視点で改めて物語が進んでいくみたいな感じになる。最後の最後までどう終わるのか全然予想がつかない物語だったのだ。

これが実話を基にしているというのだから、ちょっと驚かされてしまった。

さて、最後まで観れば納得してもらえると思うが、本作は、主人公であるモーリーン・カーニーを絶妙に演じなければまず成立しないと思う。物語をざっくり要約するなら、前半は「正義感」、そして後半は「真実性の曖昧さ」となるだろうか。そして、「前後半で全然違う雰囲気を醸し出さなければならない」「特に後半における佇まいがもの凄く難しい」などの要素を踏まえると、よほど上手く演じなければ「モーリーン・カーニー」という人物がリアルな存在には見えないはずだ。

そして本作では、主演のイザベル・ユペールが、モーリーン・カーニーを実に見事に演じていると感じた。

イザベル・ユペールは、フランス映画を観ると良く出てくる女優だ。基本的に役者のことを記憶しない私でも、彼女のことはきちんと認識できる。私がこれまで観た作品だと『エル ELLE』『ハッピーエンド』『EO イーオー』に出演しているようだ。『EO イーオー』に出演していたことは気づかず、この記事を書くのに調べて初めて知ったが、『エル ELLE』『ハッピーエンド』ではちょっと凄まじいくらいの印象が残ったことを覚えている。

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