見出し画像

過去のお話 2.かまいたちのお話 セド・スー視点

かまいたちのお話 後半
https://note.com/lush_fctt/n/n163de62b3262
の別視点からのお話です。

最初から読む場合はこちら
https://note.com/lush_fctt/n/ndf20d2529204






その日の午後、セドとスーは8号館の居間で談笑していた。その時、不意に悪魔の気配を感じ、セドは振り向いた。
「セド?どうした?」
「…悪魔の気配だ。僕、ちょっと行ってくる」
「ん、いってらっしゃい」
セドは8号館を出て悪魔の気配を感じる方角へ向かって急いで飛んで行った。

悪魔の気配が強くなる方向を目指して飛んで行くと、前方に腕が何本もある大きな影が見えた。何かを掴んで持ち上げている。
(まずい、誰かを食べようとしている…!)
セドは両手でエネルギー弾を作り出し、悪魔に向かって撃った。エネルギー弾は悪魔の顔を直撃し、悪魔が叫び声をあげて持っていたものを落とすのが見えた。セドは悪魔の近くまでたどり着くと、腕に掴まれないようある程度の距離を保ちながら何発かエネルギー弾を撃ち込んだ。悪魔が怯んだのを見てセドが祈るように手を組むと、手の中に光る杭が現れた。セドは杭を右手に持ち直して悪魔に向かって行った。
「…ぐっ!」
悪魔がセドの顔を掴んだ。その腕にセドは持っている杭を思い切り突き刺した。
悪魔は叫んでセドを離した。杭が刺さったところから悪魔の腕が、続いて本体がみるみるうちに分解されて消えて行く。セドは悪魔が断末魔をあげながら消滅して行くのをじっと見ていた。
悪魔が完全に消滅したのを確認すると、セドはほっと息をつき、近くに倒れている誰かの元へ駆け寄った。倒れていたのはセドと同じ年頃の少年だった。耳としっぽからしてどうやらいたちのようだ。ぐったりとして意識がない。
(怪我が酷そうだ、とりあえずうちに…ああ、でもスーさん嫌がるだろうなぁ…)
セドは頭を抱えた。
(うぅ…なんとか頼んでみるしかない…)
セドは近くにバッグと帽子が落ちているのに気づいて拾い上げ、バッグ本体が体の前に来るように身につけ帽子を手に持った。最後に少年を背負うと、8号館に向かって飛び立った。

「あ、おかえり。…誰それ?」
居間に入って来たセドが誰かを背負っているのを見て、スーは怪訝な顔をした。
「悪魔に襲われて倒れてたんだ、そのままにもして置けないから連れて来た。それであの、スーさん、頼みが…」
「やだ」
「まだ言ってない」
「聞かなくてもわかる、そいつの怪我を治して、でしょ?やだよ」
スーはムスッとしている。
「スーさんが男の人を警戒しているのはわかるよ、でもこの人は悪魔に襲われて大怪我をしていて…」
「だからって、見ず知らずの奴のためにわざわざ魔法を使いたくない。危ない奴かもしれないじゃん」
「そんなこと言わないで…」
2人が言い争っていると、少年が呻き声をあげるのが聞こえた。
「あ…」
2人は一瞬静かになった。
「…助けて…苦しい…」
少年が呻くように言った。それを聞いたスーはギリっと歯軋りをした。
「…今回だけだよ」
スーはフンと鼻を鳴らしながら言った。
「ありがとう、スーさん」
セドはほっとして、少年を寝かせようとソファーの方へ移動した。
セドが少年をソファーに寝かせた後、スーがソファーのすぐ側に屈み込んだ。
「ほら、寝てなよ」
スーは少年にそう言うと、少年の胸の上に手を置き、癒しの魔法を流し込んだ。セドが近くの椅子にバッグと帽子を置いている間に少年の体にあったかすり傷や痣は消え、顔は苦しそうな表情から穏やかなものに変わっていった。
少年の傷が治ったのを見て、スーはさっさと離れてテーブルの方へ移動した。セドはソファーに近づき、起き上がって辺りを見回す少年に話しかけた。
「気分はどう?」
「…痛くなくなった。ありがとう」
セドが自分の名前を名乗ると、少年はユタと名乗った。次にスーのことも紹介したものの…
「ほら、傷は治ったんだしあいさつも済んだでしょ?さっさと帰りなよ」
「ちょっと、スーさん」
「言われた通り傷は治したよ。それで十分でしょう?」
初対面のユタに対して思っていた以上にきつく当たるスーにセドは戸惑った。その様子を見ていたユタはすぐに出て行くと言った。セドはユタにバッグと帽子を渡し、町への行き方を教えて見送った。
ユタが出て行った後、セドはスーに言った。
「スーさん、いくら気に入らなかったからと言ってもあんな言い方はないよ」
「私、前に知らない男の近くにいたくないって言ったよ。セドにもちゃんと説明したでしょ?」
「それはそうだけど…」
セドはため息をついた。スーに配慮すべきだったのはわかっているが、怪我をしていたユタを放っておくことは出来なかったし、それにユタともう少し話がしたかったのだ。
「話したいなら明日町の方に行って話せばいいじゃん。それなら別に構わないよ」
セドの様子を見てスーはそう言った。
「うん…そうするよ」
セドは部屋に戻りながら、ふとユタが出て行く直前のことを思い返していた。バッグを渡したとき、ユタは背負う前に大切そうに撫でていた。それにあのバッグはユタの体格を考えるとやけに大きかった。
(何か大切なものなのかな…聞いてみたいけど、嫌がられるかな)

次の日、セドは身支度を整えると町の方に向かった。スーはその様子をじっと見ていた。
セドは町中でユタを見つけ、一緒に話そうと誘ってお気に入りの喫茶店に入った。
ユタはセド自身のことについて色々と聞いてきた。セドがユタに興味を持ったのと同じように、ユタの方もセドに興味を持ったようだった。セドは自分のことを話した後、今度はユタの話が聞きたいと言って様々な話を聞かせてもらった。
「すごい、色々なものを見てきたんだ。そういえば、今はそのお師匠さんは…?」
セドは何気なく尋ねた。
「ししょーは…」
そう言いかけたユタの目には涙が溢れ始めた。
(…!ひょっとして…)
「ご、ごめん、辛いことを思い出させちゃって…」
セドは慌てて言った。
「もっと…ししょーと一緒に…いたかったよぉ…」
ユタはポロポロ涙をこぼしながら泣き出した。セドがユタの側まで移動するとき、椅子にかかっているユタのバッグが目に入った。
(そうか、これは多分お師匠さんの…)
セドはそっとユタの背中を撫でた。

ユタが泣き止んだ後、セドは今後どうするつもりなのかユタに尋ねた。まだ決めていないと言われたセドは、この町に住まないかと提案した。ユタは驚いた様子だったが、考えてみると言ってくれた。
そろそろ店を出ようというとき、セドがふと店の外を見ると、飛んできた葉っぱが一瞬ふっと消えてまた現れたのが見えた。
(あ…もしかして…)
店を出てユタと別れた後、セドはそのまま8号館に帰ることにした。

セドが8号館に帰って来ると、スーは居間でくつろいでいた。
「ああ、おかえり」
スーの声はどこかわざとらしさがあった。
「ただいま。ところでスーさん、今日どこかに出かけた?」
「え?い、いや、別に?」
(わかりやすい…)
この様子なら少しつつけばポロッと言いそうだな、とセドは考えた。
「スーさん、単刀直入に聞くよ。今日、僕とユタ君が話しているのをこっそり聞いていたでしょ?」
「へ?いや、ガラスが厚かったからろくに声聞こえてないし。外から話す様子を見ていただけ。…あっ」
「…やっぱり…」
セドは苦笑した。
「…なんでわかったの」
スーが尋ねた。
「喫茶店を出ようとしたとき、ふとお店の外を見たら飛んできた葉っぱが一瞬だけ消えるのが見えたんだ。スーさんの透明魔法は触れたものも透明になるから、もしかしたら透明になったスーさんに葉っぱが当たったのかなって。それに、スーさん前科があるしね」
「うー…そんなところまで注意出来ないよ…」
盗み見がバレて悔しそうな様子のスー。
「それにしても、気になるなら一緒に来れば良かったのに」
「どんな奴なのか興味はあるけど直接会って話したいわけじゃないの」
「そっか…」
(うん、スーさんはそういうところあるよね…)
セドは苦笑しながら心の中で呟いた。
「それで、スーさんは僕とユタ君の会話を見ていてどんな印象を受けた?」
「…話している内容がよくわからなかったからなんとも言えないけど、セドはすごく楽しそうな顔をしてあいつと話をしているなって。なんかこう、変に気遣いなく話せる相手なんだろうなって印象だった。そういえば」
スーは続けた。
「あいつ、なんで泣いてたの?なんかずいぶん長いこと泣いてたけど…」
「ああ、あれは…」
セドは一瞬言葉に詰まった。
「ユタ君、とても大切な人を亡くしたみたいなんだ。詳しいことは聞かなかったけど…」
「……」
スーはユタの様子を思い出していた。
(あいつ、すごく悲しそうな顔をして泣いてた…大切な人がいなくなってあんな風に泣くなら、多分悪い奴じゃないのかな…)
しばらくの間の後、セドが口を開いた。
「それであの、スーさん…ユタ君にこの後どうするのか聞いたらまだ決まってないって言うから、この町に住むのはどうかなって言ったんだけど…」
「…もしかしたらここに住みたいって言うかもしれないって?」
「うん。ごめん、スーさんに相談もなしに言っちゃって…」
スーはしばらく考え込んでいた。
「…セド、私明日一度あいつに会ってみる」
「え?でもさっき直接会って話したいわけじゃないって」
「確かにそう言ったよ。でもセドはあいつと一緒にいて楽しいと思ったんでしょ?それに、今日の様子を見たら受け入れてもいいかなって気もしてきた。同じところに住んでいても別に無理して関わる必要もないんだし」
「…!それじゃ…」
「まだいいとは言ってないよ。明日会ってみて納得できたらいいよって言ってあげる。それでいいでしょ?」
「うん、わかった」
嬉しそうなセドを見て、スーは満更でもなさそうな様子だった。

次の日、スーは町の方へ出かけて行った。町中を探していると、ベンチで考え込んでるユタが目に入った。
スーはユタの前に降りた。
「…こんなところにいた」
ユタは顔を上げ、スーを見るとビクッとした。
「ひっ、スー…!」
「この間のことは悪かったよ、悪かったけどそんなにビビらなくても…」
ユタの様子を見て思っていた以上の怖がりよう困惑するスー。
「…えっと…?」
「セドから昨日の話は聞いたよ、この町に住もうかどうか考えてるって。それと、セドがあんたの話をするときやけに嬉しそうだったから、自分でどんな奴なのか確かめておこうと思って」
「…」
自分からユタに会いに行ってくるとは言ったものの、何を話したらいいものか思い浮かばず、気まずい空気が流れた。とりあえず、考えていた通りに8号館へ連れて行くことにした。

8号館へ着くまでの間、ユタは一度だけ話しかけてきたものの、それ以外はずっと静かだった。8号館へ到着すると、スーは玄関を開けて中に入り、ユタが後に続いた。

「…私は別にいいよ。好きにすればいいじゃない」
「え…」
「本当?本当にいいの?」
「ん…」
スーはこくっと頷いた。
「えっと…それじゃあ、ここに住んでもいいのか?」
「うん!改めて、ようこそ8号館へ!」
「…おう、よろしくな!」
2人が握手するのを横目に、スーは2人に見えないようこっそり口元に笑みを浮かべた。

ユタを部屋に案内した後、セドは居間に戻って来た。
「そういえばスーさん、どうして納得してくれたの?」
「ん…とりあえず悪意のある奴じゃなさそうかなって思ったから」
「悪意のある奴じゃなさそうって、どうして?」
スーは言おうかどうか少し躊躇った。
「8号館に来る途中、特に森に入ってから私とあいつはずっと2人きりだったんだ。もしも私に悪さをする気があるならあのタイミングだったと思うけど、あいつは何もしてこなかったから」
一瞬間が空いた。
「…スーさん、ユタ君を試すためにわざと2人きりになるようにしたの?」
「だって、本当に悪い奴じゃないのか一応確かめておかないと素直に歓迎しようと思えなかったから…」
スーはバツの悪そうな顔をした。
「…まあ、スーさんが納得したならそれでいいけど…本人に言っちゃダメだよ?」
セドはため息をついた。
「…セド」
「ん?」
「良かったね、対等に話してくれそうな友達が増えて」
スーはセドを見ながら微笑んだ。
「…うん!」
セドは嬉しそうな顔で笑った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?