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「職場内カサンドラ」について:その②

前回の記事で「職場内カサンドラは特定の社員だけにその原因を求めるのでなく、職場全体の組織や体制を見直すことで対処できる」という話をしました。その話をもう少し続けようと思います。

社員が「職場内カサンドラ」に陥って職場を去ることを防ぐには、
①問題を起こしている社員が自分の問題を自覚すること。
②フォローする側が何でも引き受け自分で抱え込み過ぎないこと。
③周りの人が①と②の双方の辛さを理解し支援・解決に協力すること。

の3つが必要だと個人的には考えています。
しかし実際は社員の立場や力関係、年齢や性差により様々なバイアスがかかってしまい必ずしもうまく行っていないのが現状だと思います。

かつて私の同僚に私より7歳ほど年上の独身男性Cさんがいました。彼は国立大の修士卒で勉強熱心で几帳面かつ真面目な男性でしたが、少し「変わり者」でプライドが高く自己承認欲求の極端に強い人でした。また「男性は女性より優秀なのだから女性より頑張らないといけない」という妙なこだわりを持っていました。自分の話を聞いてくれそうな女性社員や年下の男性社員を捕まえては小一時間も「僕は報われなくて辛い」「僕はいつも損な役回りばかり」と愚痴るのが癖でした。
いつしかそのターゲットが私一人に絞られるようになりました。

毎日のように長文メールを何通も送っては仕事の愚痴や上司の悪口や自分の苦労話を聞かせ、私が残業をしていると先に帰ろうとせずずっと席に座って私の方をちらちら見ながら新聞や資料を読むふり、たまにため息をついては私から話しかけるのをひたすら待っていました。
Cさんがそばにいると仕事に集中できないので土日に出社して作業をしようとするといつの間にかCさんも出てきて私が帰るまで仕事をするふりをします。Cさんの理屈では「女性社員であるLuさんより男性社員である僕の方が頑張らないといけないから」ということでした。
何かと私を見下し、当時総合職にコース転換したばかりの私に向かって「君は総合職に向いてない。僕が直属の上司なら君が総合職になるのを反対していた。殆どの女性は総合職は無理だ」とも言ってきました。

そんなある日、私が上司からある技術資料の英訳を頼まれて残業をしていた時のことです。
例によってCさんは先に帰らず席で私の様子をチラチラ見て、挙句の果てにこのようなことを言い出しました。
君は僕より英語はできるのかもしれない。でも技術の知識に関しては僕の方がずっと持っている。このような技術資料の英訳は英語より技術がわかっている人のほうが上手く訳せる場合もある
当時私はTOEIC800点台、Cさんは350点でした。彼曰く「海外赴任が嫌だからわざと間違えて点を落とした」そうですが、それでも私のスコアがそこそこ高かったのはCさんにとって面白くなかったのだと思います。しかし22時近くまで残業をした挙句にそのように言われてしまって私もブチ切れてしまい「だったら代わりに英訳やってください」と技術資料の原稿をCさんに押しつけて帰ってしまいました。
次の日、Cさんから「あれから僕なりに訳してみたんだけどどうだろうか」と渡された英訳は上司曰く「こりゃひどいな」というものでした。結局一から私が書き直しさせられたのは言うまでもありません。

そのようなことが積み重なって私はひどく辛くなってしまい当時の上司に「これ以上Cさんと一緒に仕事はできません。私を別の部署に異動させてくれないでしょうか」と相談したり、同僚にも「Cさんがいちいち干渉してきて仕事にならなくて辛い」と愚痴ったりしました。
しかし彼らから言われたのは、
Cさんは真面目に頑張ってると思うけどな
Cさんも悪気はないと思うよ
多分Cさん、Luさんのことが好きなんだと思うよ
LuさんとCさん、お似合いだと思うけどなぁ
というものばかりで、私の訴えを真面目に聞いてくれる人は誰もいませんでした。次第に私はメンタルを病み、家で物を投げつけたり大声で泣いたりしていました。
とうとう私は人事に直接「一刻も早く異動させてほしい」と訴え、当時の部長を「ふざけるな」と怒らせ同僚たちからも「わがままだ」と散々罵倒されながら他部署に異動となりました。
決して円満な異動ではなかったですし、そのことで人事評価が下がってしまいましたが、異動によって私の精神状態は改善したので後悔はありません。

状況や周囲のバイアスが「職場内カサンドラ」を生み出す

ここで「何故私の訴えは聞き入れられなかったのか?」ということを検証したいと思います。
①上司や同僚からは「Cさんは国立大修士卒で真面目で勉強熱心なのだから、人を困らせるタイプには見えない」と思われていた。(←本人の問題が第三者にはわかりにくい
②いつも私とCさんだけで残業・休日出勤をしていたことが多かったので周囲からは「気が合うんだろう」と思われていた(←ペアとして「孤立」している状態
加えて今回のケースをさらに複雑にしているのはCさんが男性、私が女性であるということだと思います。
「女性社員は男性社員をサポートするもの」というバイアスが企業文化としてあったからです。上司や先輩から受けるどんな理不尽な要求にも文句ひとつ言わず笑顔でそつなく仕事をこなす女性社員が「OLの鑑」と称賛されたものです。このような価値観の中において、同僚のことで文句や愚痴を言っていた私は周りからは「心が狭い」「わがままだ」ととられたのでしょう。
さらに「女性社員はいずれ社内の男性社員と結婚して寿退職するのが望ましい」という空気が当時はまだ残っていました。おそらく当時の上司も私がCさんと結婚して寿退職することを期待していたので「真面目に頑張ってる」「悪気はない」「あなたのことを好きなんだと思う」とCさんを全面的に擁護したのだと思います。

もしも彼らが私の訴えを真剣に聞いてくれて、Cさんに「行動に気をつけたほうがいい」と言ってくれる人が一人でもいてくれたら私もここまで病まなかったかもしれません。

私自身の問題

ここまでCさん本人の言動や周りの対応の問題を語ってきましたが、私自身の行動に全く問題がなかったかというともちろんそうではありません。
・初期の段階で相手の話を何でも従順に聞き過ぎた。
・自分の能力以上のことを安易に引き受けてしまった(技術資料の英訳など)。
・残業・休日出勤など「孤立する状況」を自分で選択してしまっていた。
などは私の反省すべき点だったと思います。
元々の特性(受動型ASD/不注意優勢型ADHD)に起因する要領の悪さに加え、「長女なんだから」という幼少時からの親からの刷り込みや当時の「女性社員のありかた」に影響されたことなどがこのような行動になってしまったのかもしれません。
(そもそもなぜ毎日残業してたかというと日中は部内のオジサン達にいちいちパソコンの操作を聞かれて自分の仕事が後回しになってしまっていたからなのですよね)

現在は、自分の能力を超える仕事については「それは無理です」とハッキリ言いますし、何でも安易に引き受けるようなことはしないことにしています。

決して発達障害者への差別につなげてはならない

最近の記事「「発達障害かもしれない職場の人」との関係でうつ病になった話」のように近年は発達障害と思われる社員と関わる同僚たちのメンタルケアを求める声が強くなっています。中には「発達障害者は定型発達者とは全く関わらない所で生きてほしい。ベーシックインカムや生活保護を貰ってひっそり生きてほしい」と激しい調子で当事者と関わらるストレスを口にする人もいます。

しかしこのような意見が一般化されてしまうと就職活動の段階で発達当事者が差別されたり、職場でちょっと不器用な言動をする社員を「発達障害じゃないか?」と決めつけて退職や左遷に追いやってしまう風潮が出てきてしまうのではないかと懸念しています。
私も当事者ですから「発達障害者と関わる人たちのメンタルケアがほしい」という言葉を目にすると正直言って「まるでこっちが職場にいるだけで迷惑みたいじゃん」と不愉快な気持ちになることは否定できません。
多分周りが思うほど発達当事者本人のメンタルケアが進んでいないので、「何で周りの人のメンタルケアが先なの」と思ってしまうからなのかもしれませんね。

今私にできることは「発達/定型関係なしに職場の人間関係に注目し同僚の不満を真剣に聞く」ことだと思っています。
私は管理職ではないですから訴えを聞いてすぐ組織的に何かを変えるということはできないですが、話を誰かに聞いてもらえることによって「あなたの気持ちは正当なものですよ」という安心感が与えられることでもずいぶん気持ちが違うと思うからです。
かつての私が自分の辛さを周りにわかってもらえなかった無念さを今の同僚たちにさせることはしたくないですね。
しかしCさんみたいに自分の問題に無自覚なタイプの人には話を聞きつつも「あなたにも問題があると思うよ」とハッキリ言うつもりです。後日書こうと思いますが自分の問題について「気づきを得る」というのは後々本人のためにもなるからです。

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