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あいのこもったうつわ

「お誕生日に何がほしい?」
と言われて、
「もし、できたら・・・祐子さんの作った器がほしいです。」
と答えた。
言ってしまってから、何だか大変なことをお願いしてしまったようで恐縮したけれど、むしろ喜んで、私が作ったのでいいの?と。

「少し、誕生日を過ぎてしまうかも。いいかしら?」
そう言って、秋が深まってから手渡してくれたのが、この器だ。

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包みを開けて、一目で大好きになった。
実は、釉薬のかかり方が気に入るまで何度も試作してくれたのだという。

私のための器。

何でも頼ってばかりの後輩に、心を込めて、愛情込めて作ってくれた器。

祐子さんという先輩は、作品作りに集中すると、瞑想に入ったような状態になる人で、仕事においてもそれは同じだった。
同じ美大を出て、同じ会社に就職して、同じデザインの仕事をしていたが、仕事に没頭すると話しかけても反応がなくなるのは、他の部署でも有名なほどだった。

「昔ね、卒業制作を描いていた時、朝から描き始めたら、ご飯も忘れてしまうくらい入り込んでしまって。そのまま、気付いたら暗くなっていた。もう、終電になるよ!と声をかけてもらうまで、自分がどうしていたか覚えていないの。ふふふ。変よね。」

本当は、デザイナーというよりは作家なのだろう、と思った。
自分の想像の世界の中で、暮らすことができるのだ。

「私、あの茄子の揚げ浸しが食べたいわ。」
と、私の作る茄子の揚げ浸しを気に入ってくれていて、ご飯を食べに寄ってくれることもあった。
そんな風に言ってもらえると、ささやかながら和食の献立を考えて、おやすみの日に遊びに来てもらう。
そして、祐子さんの仕事の話や、将来の夢の話、恋愛話を喜んで聞いた。
そして、私を思いながら作ってくれたのがこの器で、先輩の愛がこもっている。

秋から冬の間、この器の温かさが映えるように、何か作りたいと思うのだ。
料理が綺麗に見える器なのだけれど、私は、
『器が綺麗に見えるには何を盛り付けたらいいかしら?』
と考える。

これからの季節、八百屋さんの店先に並ぶ野菜を「この器に盛り付けるために」と視点を変えて見るのも楽しい。
何種類かの秋色を取り合わせて盛り付けたり、餡掛けのようなもの、山芋の白に少しの山葵。

自分を思って作ってもらえた器を持っている私は、幸せだ。
温かい器は、これからの季節に大活躍する。








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