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ーあの場所から私が帰ってくるためにー『TENET』

もうすぐ配信が始まり海外ではBlu-rayも発売されるという今になっても、私の心の半分はスタルスク12に置き去りにされたまま。

だからこれを書いているんだろうね。書かないで終わらせようと思った時もあるし、これまで映画館の暗がりで書きなぐり、帰宅してからも心に浮かんだことを忘れないようにメモしてきたこと、何度も一つの文章に纏めようとしたんだけれど私の力では上手くできなかったというのもある。

まさかこんなに大切な作品になるなんて、公開を楽しみに待っていたあの頃の私には想像すらできなかった。

一つの映画作品としてはまた別に残しておきたいと思っているから(こちらは決して良いことばかりではありません。)、今日のこれはあくまでもスタルスク12から私が戻ってくるために。

ここからは私の感情の羅列。果たしてどのくらいの方がこの文章を目にしてくれているのかわからないけれど、あまりに感情の込められた文章を目にするのが苦手な方はここでそっと閉じてくださいね。

TENET。初日は何が何だか全くわからないまま、飛行機ドーン!高速道路バーン!そして逆行アクションには正直くすっと笑ってしまうくらいだったのに、最後の最後で信じられない程のエモーションをぶつけられ、気がついたらあの場所からうまく戻れなくなっていた。

彼等のBeautiful Friendshipは過去と未来が交差するこの映画の中の時間分しか存在し得なくて。その始まりが同時に終わりでもあるという、私には動かすことの出来ないその事実がどうしようもなくせつなくて、でもどうにかしたい訳ではなく、そのせつない気持ちを何度でも確かめたくて味わいたくて、何度も映画館に通ったんだと思う。

何も知らない主人公(P)への、これまでの全てを知るニール(N)の献身とも言える言動の数々が、あのラストを知るからこそ観るたびにせつなくてどうしようもなかった。

Nはあの時点でのPに何も言えないからただ最善を尽くすのよね。いつもPの様子を伺いながらPのために(正確にはPの背負う未来を未来たらしめるために?)。時には「隠し事をする男の言うことは信用できない」なんてことまで言われても…。

二人で逆行してキャットを救った時。NがPに Ours,my friend って嬉しそうに言った後、「世界を破滅から救う」って言うよね?あれは未来のPがずっと言っていた言葉をNが言ってみせたという解釈を目にしてことがあって、その時はその通りかもと思ったけど、何回も観るうちに、あの場面のそれはNの本心というか、未来でのPの言葉を初めて実感したんじゃないかなと思うようになった。自分たちが世界を破滅から救うんだってこと。そしてそれができるんだ、このPとならって。

なのにそれでもやっぱりPとNには信頼の差があって、Nは「僕にも教えてくれないの?」と言うのが精一杯で、二人のその信頼の差はせつなかった。

こんなふうに二人の関係性をずっと考えながら何回も観に行くうちに、あれは何テネ目くらいだったかなあ…突然アイヴス(アイ)の存在の大きさに気づいてしまった。

彼はきっと始まりからこの日までPとNをずっと見てきた筈で、そう思ったらあのレッドルームでNに詰め寄るPを困ったように心配そうに見つめながら、もうこれ以上はNが辛かろう…っていうタイミングでPにそっとtemporal pincerだって説明するアイも、逆行すると言うPに「戻れなくなるぞ」 って言いつつ、Pの心が揺らがないと見るやさっと切り替えるアイも、更に外に出ると言うPに「カウボーイ シット!」 って言いつつホイーラーに説明させるアイもすごく愛おしくなってしまった。

PとNのBeautiful Friendshipも、ある意味そばで支えてくれたアイの存在がなかったら少し違うものに見えていたかもしれないというか。もし、PとNだけでBeautiful Friendshipが描かれてしまっていたら、気持ちの逃げ場がなくて濃すぎて怖くなってしまったんじゃないか、そのためにせつなさももしかしたら半減してしまっていたかもしれないと私は思っている。だからアイは大切な存在。

そうやって観るたびごとに物語の中の皆のことがすごく好きになっていって、だからどんどんあの最後が辛くなっていって…。

何度目の鑑賞の時だったかなあ。それまで漠然とした(というより意識的によくわからないつもりでいたかったのかもしれない)悲しみをスタルスク12のNと彼を見送るP、Nと去るアイに感じていただけだったし、それでも十分過ぎるほどせつなかった。
それがその日ふと 「Pにとってこれから訪れる未来はNにとっては過去なんだ。Nにとっての未来はこれからまた逆行してPを庇って自らの命を終えること。そしてそのことを、あの時点でPもアイもそしてN自身もわかっているんだ」 という事実がすとんと胸に落ちて来た瞬間、ぽろぽろ涙が溢れてとまらなかったことも思い出す。

このスタルスク12で自分の未来(命)は終わることをNは知る。Pもアイもそれを知る。でもそのことを誰も直接口にしない。でも三人とも静かにそのことを悟っているんだよね、あの会話の中で。

だからアイはNにもアルゴリズムの一部を渡したんだと思う。このままNがどこかで生き続けられる選択肢を残したくて。

でも What's happened happened. 起きたことは起きたこと。過去を変えてしまえばその後のことは測り知れない。そう言っていたNにはきっとその選択肢はなかったんだろうね。

そしてその上でNはアイと一緒に自分の未来の最後に向かうんだということを一度思い出してしまうと仕事中でも涙が出そうになるし、これを書いてる今も同じ。

どうにかしてNが生存できた可能性はなかったのか、勿論それは考えてしまうけれど、自分が死ぬことを受け容れて尚Pに笑顔を向けられるNが悲しくて愛おしくて、そういうNをこの物語は選択したわけで、だから私はそれを受け容れてる。生存ifの物語は自分の心の中で静かに紡ぎ続けられるし、それを願う人たちの作るifの物語を読むことで癒されてる。

ラストを知った上で観ると、冒頭のオペラハウスでPを救った後のNのあの少し傾いた走り方も、ヨットクラブで初めてあの時間軸のPに会った時の彼を見つめる目や「嘘だ」 と言った時の笑った顔が本当にせつなくてたまらなくなる。逆行コンテナの中で、全て終わって二人とも生きていたら僕の人生を話してやると言った時のNの気持ちも、Ours,my friendって言う時の心から嬉しそうな笑顔も。

そして最後に見せるあの何もかも内包した優しくて悲しい笑顔も。

Nの何もかもが本当にせつないね。


あの日、ジャンプしてムンバイの色の洪水の中に降り立ったまま、雑踏をくぐり抜けもう好きなところへ行ったらいいよ!世界を救うなんて考えず、世界が終わるまでほんの僅かな時間だったとしても、その僅かな時間肩の荷を全部おろして。

きっとあの物語の中の誰もそんなことは願わないだろうけれど。

Pの始まりとNの終わりがこれからのPに真の主人公としての人生を歩ませ始める訳だけれど、その後のPとN達との最初の出会いやPがどうやって組織を形作っていったのか、Nが最後に「きっと気に入る」とPに言ったこれからの未来にどんな事が起きるのか、そして彼等がどんな事をするのか。

それらを全て観ている私達に丸投げして余白を残したまま、あのスタルスク12で最大級のエモーションを投げつけるノーランのロマンチストぶりに、私は太刀打ちなんて出来るわけなかった。

出来るわけなかったよね。


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