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児相が子どもを精神科に入院させるには

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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。

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法律に関する記事は既にたくさん書いていますので、興味のある方は、こちらにテーマ別で整理していますので、興味のあるテーマを選んでご覧ください。

【 今日のトピック:精神保健福祉法と子ども 】

僕は現在、児童相談所の常勤弁護士として働いています。

仕事の中で、児童福祉法をはじめ、いろんな関連法律を読みますし、こういった福祉の分野は、厚労省からの通知が金科玉条になっているので、厚労省の通知を読むこともめちゃくちゃ多いです。

そうやって、いろんな法律を読みながら考えたことについて少し書いてみようと思います。

さて、児童相談所は、一時保護によって子どもを家庭から引き離す法的な権限が与えられていますが、そうすると、家庭から引き離した子どもがどこに行くかというと、「一時保護所」で暮らすのが基本です。

「一時保護所」という、いわば「隔離施設」があって、そこで児童相談所の管理下で暮らすことになるんですが、その一時保護期間中に、子どもが病気して病院受診が必要となったり、あるいは、通院では足りず入院が必要と医師から意見が出されたり、もっと言うと、緊急手術が必要となったりすることもあるでしょう。

その場合、基本的には、親権者の同意を得て病院を受診したり、入院したり、緊急手術したりします。

当たり前ですが、一時保護したからといって未成年者に対する親権がなくなるわけではありません。

病院受診は、病院と契約を結ぶことでもあるので、親権者の同意がなければ、後で親権者が取り消すこともできるので、そうなっては困るため、事前に同意を得ておきます。

ただ、親権者が同意しない場合もあります。

その場合、親権者が同意しないからといって、苦しんでいる子どもを目の前にして、児相は指を加えて見ていることしかできないわけではありません。

親権者が同意しなくても、子どもに医療行為を受けさせることのできる法的な手段が用意されています。

例えば、子どもが風邪を引いたから小児科を受診して抗生剤や解熱剤を処方してもらおうと思う場合に、親権者が児相の言葉を信頼せず、「病院受診は必要ない」「とにかく子どもを返せ」と言ってきたとしても、病院を受診させることができます。

というのも、一時保護中の子どもについて、児童相談所は、親権者に代わって必要な監護(養育)を行うことができて、親権者は、児童相談所が行おうとする必要な監護を、不当に妨げちゃダメと法律書いてあるからです。

まあ、児童相談所としては、病院受診する際は、事前に親権者へ連絡を入れることが普通で、そこで了解が得られれば、そのまま受診させますが、了解が得られないとしても、「必要な監護」として受診させることは可能です。

で、子どもに命の危険が迫っており、緊急に処置しないと命を落とす危険性がある、または、命への危険はないにしても、重篤な後遺症が残る可能性があるなどの場合は、保護者に事前に連絡をとる時間的余裕があれば、連絡をとって了解を得ますし、そこで了解が得られなくても、命に危険が迫っていたり、重大なケガを負うような場合は、親の反対を押し切って緊急に医療行為を受けさせることができます。

「医療行為」には「入院」も当然含まれます。だから、命への危険や重大なケガを回避するための措置として、親権者の反対を押し切って入院させることは可能です。


でも、これが精神疾患だと違ってくるんです。

精神疾患を治療するための入院には、精神保健福祉法という法律が適用され、この要件を満たす場合に限り、入院が認められます。

この「精神保健福祉法」は、過去の反省を受けて制定されました。

「過去の反省」とは、精神疾患の患者さんを社会から排除しようとした過去を指します。

昔は、精神疾患への理解が非常に乏しく、とにかく、「変なやつは社会から排除しよう」という風潮で、バンバン精神疾患の人を入院させていました。

本人が入院を希望しているかどうかは関係なく、「精神疾患の患者を社会から隔離するのが正義だ」と思われていたわけです。だから、とにかくバンバン精神病院に入院させていて、それを認めるだけの法的な権限が行政に与えられていました。

しかし、この反省を活かし、今は、「精神保健福祉法」によって、入院には、基本的に本人の承諾を得ることが必要となりました。

精神保健福祉法が制定されるまで(平成7年)は、本人の承諾を考えない制度であったと思うと、非常にゾッとしますが、精神保健福祉法によって、精神疾患の患者であっても、本人の承諾を得て入院させましょうという、当たり前のことが法律に書かれました。

ただ、「当たり前」に見えますが、精神疾患によって入院までしなきゃいけないという事態は、「当たり前」ではありません。

入院までしなきゃいけない精神疾患の患者さんが、自分の入院について判断できない場合も多いです。

その場合は、親族の同意に基づいて入院させることができます。もちろん、大前提として、入院が必要と医師が判断している必要がありますが、そうであれば、本人の意向が確認できなくても、入院させることができます。

ここも、過去の反省を活かしていて、というのも、それまでは親族の同意すらなく、入院させることができていたからです。

「本人が同意できないのであれば、親族の同意は必要ですよね」という、またまた当たり前のことが法律に書かれました。

とはいえ、親族が同意しないからといって入院させないわけにはいかないケースもあるはずです。

例えば、精神疾患によって自殺しようとしている患者について、親族が同意しないからといって放置してしまえば、本当に自殺してしまいます。

本人は、あくまで、精神疾患があるから自殺しようとしているわけで、「自殺するならお好きどうぞ」で正当化はできません。その人が悪いのではなく、精神疾患が悪いんです。

だから、親族が同意しない場合であっても、入院させなきゃいけないときの手当が必要で、それが「措置入院」です。

つまり、「措置入院」の要件が満たされるのであれば、本人が同意せず、親族も同意しないとしても、入院させることができます。

逆から考えると、措置入院の要件を満たさない場合は、本人が同意するか、少なくとも親族が同意していなければ、精神疾患の治療目的で入院させることはできません。

こういった法的仕組みを用意することで、精神疾患の患者さんがむりやり入院させられる事態を防ごうとしているのが、今の「精神保健福祉法」です。

で、「措置入院」のハードルはめちゃくちゃ高いです。「措置入院」には、自傷又は他害の危険性が必要となりますが、この「自傷」は、カッターナイフで腕を切り裂く程度では全然足りず、カッターナイフで手首を切り落とすくらいの自傷が必要と考えられています。

自傷だけで措置入院するには、これくらいの激しい自傷が必要です。

だから、「措置入院」って、そうとうにハードルが高いんです。

で、この「精神保健福祉法」の仕組みが、児相が子どもを入院させる場合にどう関わってくるのか、また明日説明します。

それではまた明日!・・・↓

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