「笑うマトリョーシカ」と、トランプ人形の中で囁く人。

録画しているドラマ『笑うマトリョーシカ』を見て、つい笑った。

ドラマを分かり易くする為に、100年前の預言者エリック・ヤン・ハヌッセンを登場させる。
ロシアのマトリョーシカ人形は、中に幾つもの別の人形が入っている。
外の顔と、隠れている中の顔。
操られる人格の寓意、そして比喩。

100年前、ハヌッセンはヒトラーを裏で操り、ナチ政党のオカルト省(ホントだよ)の大臣になる筈だった超能力者。

ヒトラーに演説時のボディ・ランゲージ指導までしていた霊媒師。

自らの名を冠したオカルトマガジンを出したり、定期的な交霊会まで開いていた。
まあ、ただの手品師だけど。

しかし秘密にしていたユダヤ人である事がバレて、ヒトラーに暗殺されたとか、ゲッベルス関与説など死因は諸説あるが、いまだに不明。

私が笑った理由は、最近書いた小説『ピノキオは鏡の国へ』で、ナチによるマインド・コントロールの事を調べていて、ハヌッセンの名を知っていたからだ。

ヨーゼフ・ゲッベルスだけじゃ無い歴史の裏側。


アドルフ・ヒトラーの演説を見ると、現在の大統領選挙候補者トランプとダブってしまう。
もちろんヒトラーの演説の方が数倍巧みだし、トランプの演説は嘘と悪口しか無い。

娼婦への口止め料などの悪行で起訴されると「魔女狩り」「フェイク」と同じ単語を繰り返すが弁明にもなっていない。
票が盗まれたという嘘で、暴徒を新大統領を決める会議場へ誘導する。
暴動で議会決議の邪魔させる。
クーデターに匹敵する重大な犯罪だと、理解さえしていない。
気分だけで喋る。

コロナ禍の時、「ただの風邪だから夏には収まる」と公言していた。
根拠のない気分だけの言葉で、米国内で二十万人が死んだ。
この言葉が無かったら、これほど死者数にはならなかったはずだ。
本人は記憶さえしていないだろう。
都合の悪い事は消去する。

世界中が「この大統領はヤバい」と思っているが、国民の半分は信じ切っている。

ヒトラーとこのトランプに共通するのは「ナルシズム」。
自己陶酔と過剰な自信。
犯した犯罪さえ人ごとにする。
国民の事など何も考えていない事になぜ気付かないのか。
分かり易いプロパガンダで踊る国民。
彼を擁護するアメリカ社会は、変だ。


私は大学を卒業して、CMを作る会社に入った。
広告が面白い時代だった。

映画監督は大変そうだし、CMくらいなら、短いし自分にも作れそうだと思っていた。

銀座の会社に初出勤の日。

三越前の横断歩道を渡りながら「今日からゲッベルスの様な仕事をするのか」とぼんやり考えたのを思い出す。広告というプロパガンダ。

「嘘も100回繰り返すと、真実になる」と言ったゲッベルス。
「フェイク」と「魔女狩り」を100回繰り返している大統領候補の演説を聞いているとゲッベルスの「名言」を思い出す。

アメリカ国民は、大統領が犯罪者でも構わないのだろうか。
子どもたちにどう説明するのだろう。
リンカーンの隣にトランプの石像でも置きかねない。


NHKの「ドキュランドへようこそ」で『議会乱入を仕組んだ男 トランプ陰の盟友』が今年、2024年の5月に放送された。

トランプの長年の盟友ロジャー・ストーン本人に、デンマークの映像ディレクターが取材し製作したドキュメンタリー番組。

冒頭、バナナの様な太い葉巻をふかすシーンから始まる。

「葉巻はいつからやっているのですか?」のディレクター質問に答えて。

ふんぞり返り「7歳くらいだ」と笑いながら答えるロジャー・ストーン。
不快な男だった。

彼の言葉の選び方、話し方がドナルド・トランプそのままだった。

逮捕されても大統領トランプに恩赦される。

演説や対応する言葉をトランプに指示するシーンさえある。
「選挙が盗まれたと、繰り返せ」と。
今なお影響し続けている男。

マトリョーシカ人形の内側にいる人たち。
ロジャー・ストーンに、ハヌッセン、そしてナチ宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスが重なる。

拙作『ピノキオは鏡の国へ』で、自らのプロパガンダについて、小説のヒロイン蟻亜三久に長々と説明するゲッベルスの言葉。
「ロベスピエールがやった方法だ。一番遅い舟(愚者)を、一番簡単な言葉で洗脳する。その愚者(国民)は、隣の愚者(国民)に耳打ちする。そこに生まれるチームワーク。国民は誰かの言葉に従いたいのだよ。自分で考えるより、誰かに頼りたいだけなのだ。その方が生きやすい。指導者の囁きは、あっという間に、全国民に伝染していく」
ゲッベルスに反発するヒロイン。
ロジャー・ストーンに反発するヒロインは出て来るのだろうか。


そして。
このコラムを書こうと決めた映像がある。

誰もが奇異に感じた映像。
先日の暗殺を免れた大統領候補者の所属する政党だかの大会。

演説する彼の後ろのスクリーンに、彼の肩に手をやるキリストがいた。

おかしな、冗談のような宗教画。

このおかしなツーショットイラストが、ニュース映像で映し出される。

私は笑った。「ここまでやるか?」と。
でもその次のカット。

その宗教画をテンガロンハットを被る女性、そして男たちが涙を流して見つめている。
会場の全員がトランプの名を叫び始める。
「彼は神よ!」「神が守った男!」と絶叫する。
マインドコントロールされる人々。

ヒトラーと同じ光景だった。

プーチンを偉大な指導者と言ったトランプ。
「プーチンや習近平のような、ひとりが長く続ける『終身大統領』が、今こそ、この国には必要かも知れない。憲法の修正が必要だ」とトランプは言った。
正気の沙汰ではない。
アメリカだけじゃなく、世界の命運は、たぶんこの選挙に掛かっている。
トランプ人形の中にいるロジャー・ストーンは、これから何を囁くのか?







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