下北沢の、ジョアンナ・シムカス


アラン・ドロンが逝ってしまうというのは、なんか感慨深い。

町山智浩さんが、Xに「アラン・ドロンの見るべき映画」20本くらい綴っていた。

トップにあったのが『冒険者たち』だったことが、かなり嬉しい。

私もそうだから。


下北沢は、せいぜい故郷の広島焼きを食べる為に、三茶から茶沢通りを歩いて訪れる位なのだが。

若い頃、佐々木史朗さん(映画プロデュース)の会社にいた女性プロデューサーと仕事した折に下北沢で飲んだ事がある。

その時の会話。

「根岸(吉太郎)も、『冒険者たち』が1番好きだと言ってたわね」

そんなドロンのファンは多いのかも知れない。

フィルムノワールというより、失われる青春に抗うおじさんの物語だった。

映画内容や原作は、私の「『冒険者たち』と『狂った果実』の三角関係」コンテンツでふれている。
ロランとマヌー(ヴァンチュラとドロン)のいる修理工場に紛れこんでくるレティシア。
トレンチコートの若い娘。
オブジェを作る為の廃材を買うためだった。
それぞれの夢を追う三人。

私は『冒険者たち』のレティシアに惹かれ、ヒロインのジョアンナ・シムカスの映画を追いかけた事がある。
『若草の萌えるころ』の美しさ。
透明感のある綺麗な女優さんだった。

あの時代はヨーロッパ映画が主流だった。
イタリヤやフランス映画が、ハリウッドを凌駕していた。
特にフランスではアラン・ドロン、そしてライバルのジャン=ポール・ベルモンドの二人がしのぎを削る。

ベルモンドはライバルの『冒険者たち』の出来の良さに嫉妬した。
同じ原作者、同じ監督、撮影スタッフも同じで『Oh!』という映画を作る。
ヒロインも同じジョアンナ・シムカスを起用していた。

嘘みたいな話。
ベルモンドの徹底ぶりに驚く。
私も見てるが…内容は記憶にない。

そしてシムカス最後の映画。
キャロル・リードの名作『邪魔者は消せ』のリメイク『失われた男』で共演した黒人俳優シドニー・ポアチエと結婚。
そして引退。

失われたジョアンナ・シムカス。

私はCM監督になっていた。
早朝の撮影。
早く終わったCM撮影(オートバックスだったか)の帰りに、下北沢でロケバスを降りる。
仕事が終わった開放感。
いつもの店で、広島焼きを食べようと、ひとり、駅の方に歩く。

下北沢の昼下がり。

ブティックの中に春っぽいトレンチコートの女性がいる。
店内のワゴン棚を見る女性。
茶色の長い髪が掛かり、顔は見えない。
眼が止まった理由。
トレンチの羽織り方、やせ具合、ジョアンナ・シムカスにすごく似ていた。

まるで『若草の萌えるころ』。

そのトレンチコートの着こなしは、シムカスを意識しているとしか思えなかった。

私は、しばらく彼女を見ていた。

すると彼女、店から通りに出てくる。

40歳くらいの綺麗な女性。

彼女が顔をあげ、眼が合ってしまう。

驚いた。

小林麻美さんだった。

歌手で女優で、松田優作の『野獣死すべし』に出てた人。

その頃は、もう結婚されてあまりメディアには出ておられなかったと思う。

歩かれる後ろ姿を見送る。

「雨音はショパンの調べ」
この歌を歌う時。
そう言えばシムカス的な衣装が多かったと思い出す。
小林麻美は間違いなく『冒険者たち』の、レティシアのファンだと思った。

下北沢のジョアンナ・シムカス。

一本の映画が、人を彩る。






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