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“ザ・ホエール”を観て

タイトルのホエールは1851年に発表されたハーマン・メルヴィルの白鯨に由来する。
船長のエイハブはかつてモヴィ・ディックという名の白いマッコウクジラに片足を奪われ、白いクジラへの復讐心に囚われ闘いに挑む。
映画では主人公チャーリーの娘エリーが別居して幼い頃、父に書いた唯一の手紙にこの白鯨の一節が引用されている。
8年逢えなかった娘からの手紙。主人公チャーリーは同性愛者で、妻子を捨て恋人をとるが亡くなり、それを引き摺るように引き籠り生活を送り続けた結果、重度の肥満に陥り、自立出来ず、高血圧によってやがて死期が近いことを悟る。
チャーリーはオンラインで大学の文学の講師を勤めるが、いつも心を占めるのは娘の白鯨の手紙であった。意を決して娘と会うと娘は学校生活が上手くいかず、社会への憎悪が渦巻いているのであった。
エリーの心を占めるのはなぜ家族を捨てたのか。
この映画はチャーリーの退廃的な歩みに主眼が置かれているが、チャーリーを取り巻く人が少なからず多いことにも気づく。
定期的に看護にくるリズは亡くなった同性愛者の兄妹である。
新興宗教の勧誘で頻繁に出入りしていたトーマスは、実は家出をして居所をなくしていた。
なぜ、チャーリーに関わるにか…。
リズもトーマスも心に傷を抱え、チャーリーとの関わりに癒しを求めていたのか…。
それが、無意識的なものだったとしても、トーマスはエリーとの関わりで活路を見出し、チャーリーもまた元妻メアリーと9年振りに合う機会を得る。ある種の再生の物語である。
エリーに自立して向かうところで話が終わる。
ホエールとは自らの心が創り出した虚構の怪物なのか。
その心の闇と闘うことは相手の心と向き合い解を導くものだとこの映画は説いている。

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