「はい、これ、、お返しにあげる!」
バレンタインデーが5日後に迫る月曜日、お目当てのチョコを
探しに僕達は百貨店へと足を運んでいる。
シーズン真っ只中、催事場は女性客で溢れかえっている。
チョコレート工場と広告代理店の思惑に乗せられているぞ。そんな
ありきたりな考えを頭に浮かべる僕を横目に、彼女は早速商品を眺め始める。
彼女はお世話になっている先輩宛のチョコを選びにきていて、1000円程度の
手頃なものを探しているらしい。所狭しと並ぶチョコはみな個性的で中々決められない。歩き回る彼女の背中を僕はじっと着いていく。
「あれもいいねー」、「これもいいねー」なんて話をしながら選ぶ。段々と
お互いの好きなチョコを語り合う。
その中に一つだけどうしても食べてみたいチョコが現れた。
ピンクの花をモチーフに作られた一口サイズが6つセットだ。花の香りがフレーバされているらしい。
何度か眺めていたが、そこそこのお値段と、自分用で買うというのは気乗りがしなく諦めてしまった。
しばらく物色したがイマイチ見つけられなかったので、先輩宛のチョコは
今日のところは諦めた。まだ日はあるので時間を見つけて買いに行くとのこと。
ディナーも終わる頃僕は切り出した。
「もし良かったらさっきのチョコレート、一緒に口にしない?」
実は彼女がチョコを物色している最中に隙をみつけて、買っておいたのだ。
「男から先にあげちゃうのはダメかな?笑」
22時を回っている。
手頃なカフェは閉まっていてる。
キリッとした2月の空気、2人の歩くスピード、こぶし2つ分の空間。
ようやく見つけたのは高速バスターミナルの待合い席。
「ちょっと落ち着かないよね、ごめん」
そう言って彼女を座らせ、包み紙をほどく。
名も知らないピンクの花、その香りはきっと甘酸っぱかったはずだ。
バレンタインの2日前、一年を総括する研修日。一堂に返す同期。
やはり彼女は別のグループと連んでいる。
お昼を終え友達と談笑していると、少しぎこちない笑顔で彼女が寄ってきた。
午後の内容は頭に入って来なかった。
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