情状と量刑(その2)~情状って何?~

 こんにちは。めしだです。
 今回は、「情状と量刑」シリーズ第2回です。
 一部界隈で大ウケした(笑)蛇庫常子さんの窃盗事件を題材に、今日も書いてみたいと思います。

刑を決めろと言われても…

 前回の記事で、蛇庫さんに対する刑については、大きく分けて次の2点が問題になると書きました。

① 被告人を、懲役何年に処するか。
 ※ 窃盗罪の場合、最長10年、最短1ヶ月。
② もし3年以下にする場合、執行猶予を付けるか否か。
 ※ 3年以下の場合でも、執行猶予を付けないこともできる。

 大きく分けて2点といいましたが、選択肢の幅は広いですよね。

 さて、今のところ分かっている事実を整理しましょう。

・ 被告人は蛇庫常子さん。平成9年4月6日生まれの22歳。
・ 被害者は若葉司さん。年齢不明。
・ 蛇庫さんは、若葉さんの家に侵入し、現金100万円を盗んだ。
・ 当時玄関は無施錠だった。

 こんなところでしょうか。

 で、何年にしますか?

 「う~ん、懲役5年!!」

 …なるほど。ファイナルアンサー?

いろいろ事情が分かってくると…

 さて、蛇庫常子さんに対する裁判の中で、次のような事実関係が分かってきました。

<犯行の動機>
・ 蛇庫さんは、事件を起こす半年ほど前にバイト先の会社をクビになってしまい、生活費のためにカードローンで借金をするなど、お金に困っていた。
・ 被害者の若葉司さんとは知り合いであったが、以前から羽振りの良い若葉さんの暮らしぶりを見て、うらやましいと感じるとともに、惨めな思いをしていた。
・ たまたま若葉さんの自宅の前を通りかかったとき、「私の苦しさも知らないで、贅沢な暮らしをするなんて!」という気持ちがわき上がり、「家に金目のものがあるかもしれない。少しぐらいとっても分からないだろう」と思って盗みを決意した。

 さあ、何年にしますか?

<犯行の態様>
・ 当時、若葉さんは外出していたが、自宅の鍵を閉め忘れていた。
・ 蛇庫さんは、若葉さんの自宅内に人の気配がないことから、中に入ることを決意し、玄関のドアノブに手をかけたところ、意外にも施錠されていなかったので、そのまま家の中に入った。
・ 玄関を入って廊下をすすみ、左手に寝室があることに気づいた蛇庫さんは、寝室のタンスの中に何かあるかもしれないと思い、引き出しをあけるなどして物色した。
・ すると、タンスの引き出しの中に、封筒に入った帯封つきの100万円が入っていた。
・ 蛇庫さんは夢中でそれを持っていた鞄の中に入れ、家を飛び出した。

 さあ、何年にしますか?

<犯行の発覚>
・ 若葉さんがタンスの中に入れていた100万円は、大好きなブランドのバッグを買おうと思って銀行から下ろしていたものであった。
・ 近所の住民が、若葉さんの自宅から出てくる蛇庫さんを目撃しており、蛇庫さんは逮捕された。

 さあ、何年にしますか?

<犯行後の経緯>
・ 若葉さんは激怒しており、厳罰を望んでいる。
・ 蛇庫さんは、盗んだ100万円のうち、80万円を借金返済に使い、残りの20万円は生活費として使ってしまった。
・ 蛇庫さんは、法廷で涙ながらに反省と謝罪の意を述べた。盗んだ100万円についても、これから働いて少しずつでも返していきたいと述べた。
・ しかし、現在までに、100万円の弁償はできていない。

 さあ、何年にしますか?

<蛇庫さんをめぐるその他の事情>
・ 蛇庫さんには婚約者である北海太郎(きたうみ たろう)さんがおり、太郎さんは現在北海道釧路市に住んでいる。
・ 太郎さんは、法廷に証人として出廷し、蛇庫さんに対する愛情は変わらず、予定通り結婚して、釧路で蛇庫さんと暮らしていきたいと述べた。
・ また、太郎さんは、今後蛇庫さんの生活を支援して被害弁償に協力するとともに、将来にわたって蛇庫さんを監督することを約束した。
・ なお、蛇庫さんには前科前歴はなく、犯罪で処罰されるのは今回が初めてである。

 さあ、何年にしますか?

考えは変わりましたか?

 さて、裁判の中でいろいろ明らかになりました。
 これらの事情を見て、最初と考えは変わりましたでしょうか?

 「5年じゃ軽いなこいつは。極悪人だな。」と思ったかもしれません。
 「5年は重すぎる。3年くらいにしてあげてもいいんじゃないか。」と思ったかもしれません。
 あるいは、「確かに悪いことをしたけど、もう1度チャンスをあげてもいいかもしれない。」と思った人もいるでしょう。
 みなさん、多かれ少なかれ、悩んで結論が揺れ動いたのではないですか?

その「悩み」が重要です!

 あなたが「悩んだ」のはなぜですか?
 裁判で明らかになった事実の中に、あなたを悩ませる事実があったからではないですか?

 あなたは、裁判で明らかになった事実をいろいろと考慮し、悩んで、蛇庫さんに対する刑を決めようとしています。

 その、まさにあなたが考慮に入れている事実が、「情状」なのです。

情状って何?

 刑の重さは、罪の重さです。
 罪の重さは、被告人の責任の重さです。
 みなさんも、蛇庫さんをどんあ刑に処するか考えるにあたって、無意識のうちに(あるいは意識的に)、「蛇庫さんの責任の重さ」を考えていたのではないでしょうか。

 被告人の責任がどの程度なのかは、単に「被告人が100万円を盗んだ」という事実だけからは判断できませんよね。
 犯行の動機や、犯行の態様、発覚の経緯や事件後の経緯、その他諸々の事情も含めて、事件にはたくさんの背景事情があります。
 それらの背景事情も含めて、みなさんは、「蛇庫さんの責任の重さ」を考えたはずです。

 これが、「1つとして同じ事件はない」と言われるゆえんです。

 世間では、事件のニュースが報道されると、「犯人を厳罰に処すべきだ」という声があふれます。
 その事件が、重大な被害をもたらしたものであればなおさらです。

 しかし、報道される事実関係は、ごくごく断片的なものです。
 上記のような詳しい事実関係は、あまり報道されません。

 それなのに、「厳罰に処すべきだ」と、言ってしまってよいのでしょうか?
 本当に「厳罰に処すべき」といえる事件なのでしょうか?

 今回の投稿が、みなさんに「悩み」のきっかけを作ることができたなら、本当に嬉しいです。

【情状と量刑(その3)~刑罰はなんのためにあるの?~ に続く】

 

 

 


 

 

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