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『失われたIを求めて』ゲーム制作備忘録〈1〉

0.はじめに

本稿は初めて制作した短編ゲーム『失われたIを求めて』についての制作備忘録である。

(ノベルゲームコレクションにて公開、ティラノゲームフェス2018参加作品/PC・スマホ対応/作品登録:2018年6月)

プレイ時間は最短15分程度。短編でも色々考えながら作ったのでここに記録しておく。

※この記事は以前pixivFANBOXに投稿(2018年11月)したものを加筆・修正したものです。

1.思いつき

ゲームを作りたいな、と思ったのは確か去年、2017年の5月頃のことだった。作るとしたら技術的にも趣味的にもノベルゲーム系だろうと思い、制作ツールを調べ始めた。

以前はフリーゲームをよくプレイしていたが、最近は少し離れ気味だったので、私の中ではノベルゲームの制作ツールといえば吉里吉里とか?くらいの認識だったが、検索してみてティラノビルダー(ティラノスクリプト)という存在があることを知った。そしてノベコレの2018の開催に間に合いそうなタイミングだったので、それを目標にとりあえず一つ作ってみることに。賞云々ではなく、〆切の存在は大切だからだ。

ティラノビルダーをDLして製作開始。最初から大作は無理だろうということで、クリアまで30分くらいのゲームを目指す。
ゲームに必要な素材を考えてみる。背景、BGM、効果音が必須で、あとあればよさそうなのが立ち絵類だ。音源系を自作するのは困難で、背景も自信がない……立ち絵はなんとかならなくもないが、最初からハードルを上げる不安があった。まずはビルダーに慣れるのが重要だし、完成させることがものづくりの最初の一歩だ。

作ってから日が経っているので若干記憶が前後してそうだが、まぁだいたいそんな感じだったはずなので、語末に「……だった気がする」が入るが、それは割愛しておく。

今回は素材から逆算して、集めたもので何ができるかを考えてみるやり方を選んだ。ゲーム用のフリー素材を扱うサイトを回って、確か最初に決め手になったのが、びたちー素材館さんの背景、ボーダー黒と青緑の2つだったと思う。なんとも『画面っぽさ』を感じた。

それとカッコイイUIにしたいという思いがあり、ティラノビルダーのデジタル(こ・ぱんださんのデザイン素晴らしいのばかり……)を選択したような記憶がある。こういう画面で、それに合った雰囲気の物語にしたいと考えた。

しかし、おそらくノベルゲームの類を作ろうと素材集めにサイト巡りをした方なら感じると思うが、背景素材で最も手に入りやすいのは学園モノ系の素材だ。それ以外、特にSF系素材は入手が難しい。

そこで考えたのが、ボーダーの背景画像をメインに進行するというスタイルだ。

さて、こういうデジタルな雰囲気の画面が背景になるにはどういう物語になるのか……と考え、電脳空間的なものを思いつき、記憶移植の話になっていった。

ゲームの雰囲気をなんとなく想像して、フリーフォントも導入。
読みやすいという理由でムゲンプラスを採用した。

2.ここからネタバレ

とりあえずノベルゲーム、その中でも(主に気に入ったUIを使いたいという理由で)アドベンチャー形式を選んだので、ほとんど必然的に立ち絵が必要になるし、誰かしらが喋る必要があり、電脳空間なのでアシスタントのAI、アイが誕生した。

名前は『AI』だから『アイ』で、タイトルに入っている『I』(自分)と『愛』も掛かっている。タイトルを決めたのもこの頃だった。タイトルはまぁ某有名な作品(だが実は制作時点で未読)をもじったもので、『I』は上記のとおり、自分(私)という意味だが、愛というニュアンスを込めている。つまり、

これは、AIのアイちゃんと私の愛の物語だったのである。

改めて強調しても「なっ、なんだってェーー!!」とはならないと思うが、短編ゲームなんだからこのくらいシンプルにわかりやすい方がいいよね、っていう。

AIの名前がアイというパターンって多分結構ある。
たとえば、これは『失われたIを求めて』を作ったしばらく後の話だけど、

・『探偵AIのリアル・ディープラーニング』(新潮文庫nex)
・『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日のドラマ)

とか、本屋で見かけたり、テレビで見たりして「あ~」と思った。(小並感)
最初にAIにアイって名付けた人って誰なんだろ。

さて、ヒロインたるもの、ビジュアルは重要である。しかし、自分でイラストを用意しない場合、背景素材と同様の問題がここで持ち上がる。キャラの立ち絵素材も同じく制服女子が最も入手しやすく、次にファンタジー系……といった様子でSFに合う素材は少なく、更にいえば表情差分が限られていた。

特に気になったのが泣き顔である。女の子の泣き顔、少なくありませんか?
僕のヒロイン、たぶん泣き差分必要なんですけど……という考えのもと、背景と同じくぴたちー素材館さんからシルエット素材をお借りした。

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そしてとりあえずアイちゃんが喋るわけだが、そこで主人公の相槌が必要になる。

しかし、この主人公は記憶がない。過去の自分という根拠なく、どういうキャラづけで喋るのか。まして、これから新しい記憶を移植するという流れになるわけで、そうなるとまっさらな印象を与えたい。

というわけで、モノローグなし、台詞はすべて選択肢という形式を採用した。

こうした形式はスマホゲームではそこそこ見かける。台詞が選択肢・主人公の思考が地の文にあまり含まれないのは、FGOしかり、グラブルしかり、チェンクロなどなど(厳密には違う作品もあるかもだが)結構ある。それらについての分析は置いておくが、まぁ、まっさらな主人公(プレイヤーの想像の幅が広い)としてはアリだろうと思った。

しかし、そのまま端に選択肢を出しても味気なかったので、選択時に音が出るようにした。冒頭の画面表示の演出と同様、魔王魂さんの音源である。
音の配置はもっとスマートな方法があるかもしれないが、ジャンプ後のラベルの冒頭に効果音を配置しているだけだ。だが、これだけでデジタルっぽさが出たと思う。

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選択肢の効果音同様、まぁ別に普通のことかもしれないが、音関連は小まめに気を配ったように思う。煉獄庭園さんの音楽を聴きながらストーリーとマッチするように合わせた。タイトル画面で音楽が流れるのは、今までやってきたADVゲームでいつも印象的だったのでその流れで。ストーリー展開も音楽に合わせたところが大きい。

3.演出関係・こだわり

まず完成させることに意義がある。だからハードルを上げすぎてはいけない。しかし、だからといって何も工夫しないのはつまらない……ということで、ビルダーの一通りの基本(?)機能とスクリプトもちょこっと入れてみた。よくあるあの演出やりたい、というのを実行してみた。

【みんな大好きトゥルーエンド】
全ルートやるとタイトル画面に何か新しいメニュー出てる!というのがやりたかった。何がやりたいってこれが一番やりたくて作ったかもしれない。慣れている人にとってはなんでもないのかもしれないが、フラグ管理って大変じゃない? 多用してる人すごい。何よりデバッグが大変だと思う。

【テキストウィンドウをADV形式からノベル形式に切り換える】
これも初心者としては頑張った。共通ルート(アイと話すシーン)では主人公は選択肢以外で話さないが、分岐後にアイは登場しないし、記憶を移植された後なので移植前よりも根拠となる人格があるよなぁという意図もあり、演出的にも楽しいなと思ってやってみた。これもヒーヒー言いながらやった記憶がある。切り換えるだけでなくメニューボタン類の表示非表示もあるもんね……。

【EDムービー】
プレイした人はムービーだと思ったかもしれないが、実は動画ではない。ムービーを埋め込む機能はあるが、内容的にも別に動画作らなくてもいいのでは? と思い、実はBGMを流しながら背景イメージ+演出効果&ウェイトを繰り返しているだけという。これは成功だったと思う。

【名前を入力】
テキスト入力を試してみたいというのもあり、ストーリー的にもありだなと。ここに至るまでのアイとのクイズはそれぞれのエンディングをちゃんと読んでくれたらわかるようにしたつもりで、この問答を切り抜けたら他に選択肢もないしわかるだろうと。
いちいちビクつくアイちゃんだが、シルエット差分問題もあるけど、震える演出って逆転裁判とかダンガンロンパとかにもあるし、結果かわいくなったと思う。
名前の入力という謎解きっぽい(ちゃんと本文読んでくれた人にはわかる、かつ作中に人名はアイしか登場していない)要素とか、震えるアイちゃんのこの辺りは好評らしい。

【バッジ機能】

せっかくノベコレに置くのならと思ってやってみた。デザインは電源ボタンマークと『I』をモチーフにしてる。2つのエンディングのメニューボタンにも使用してる。

【クリック待ちタイミング】
ADVゲームをプレイするときは最初にメッセージ表示速度を一括にする派だけど、ボイス無しの短編ゲームというのもあるし、読むスピードにこだわりがあるので、クリック待ちと改行に気を遣っている。
(例:下画像)
ビルダーは入力モードを設定すれば[l][r]と入力する必要はないが、任意のタイミングでクリック待ちにしたいし、クリック待ちグリフが妙な位置に来てしまうと美学に反するので……。
「おはようございます!・」
ならいいけど、
「おはようございます!
・」
みたいな表示になるのが嫌だなって。
そんなこんなで[l]多用してる。
ポチポチしまくるとわからないけど、丁寧に読むとアイちゃんの微妙な間による反応があるよ!という。

失われたIを求めて20181114

【没入感について】
動作確認やテストプレイはするけど、自分で作っているものをまっさらな状態でプレイするのには限界があるわけで。
感想をいただいてから気づいたけど、このゲームは音をしっかり聴いて遊んでもらうべきだなって。自分が当たり前にヘッドホンつけて作っていたので、むしろ盲点だった。
あとバーチャルっぽい設定で音とか画面遷移気にしてるので、ヘッドギアっぽくヘッドフォン着けた方が楽しめるよね、そうだよね!と思って説明文のところに書き足したという……。

【ループ】
ループモノっていいよね……ループであるということがネタバレになるからどのゲームとは言えないけど、好き。ループという構造的にゲームとの相性がいいし。だけどその分スキップ多用になってしまったりすると入り込めなくなったりするのが難しいよね。作業感が出る。このゲームはプチループものになるのかな。ループというか繰り返しで、別に時間を跳躍したり巻き戻したりしてはいないけど。トゥルー的なアイちゃんルートだと、正解するまでアイちゃんがリセットしてくるという……。

【記憶移植や消去について】
SFモノではたまにあるかな、米映画やドラマで。掘り下げようとすると短編ゲー的には色々微妙なので、ラスト付近で主人公がちらっと触れるだけにしてる。今回はすこし不思議、ライトなSFということで。メインはシルエット萌えでいいんじゃないかなと。

4.投稿後

フリゲ界隈的にどれくらいのプレイ数やリアクションがあれば上出来なのかはわからない。特にノベコレはDL数が非公開仕様である。
ゲーム投稿者側には100DL以降にキリのよい数字で通知があり、1DL毎に知りたい場合はティラノプレミアムのシルバー会員に入ろうね。
(ティラノフェス2018期間中はシルバー会員になってどういう時期に伸びるのかなーとふわっと観察してた)

受け手側のことを考えて作ってはいたけど、友人以外から感想をもらえることは想定してなくて、しかも自分がこだわったところには全て気づいてもらえたので本当に驚いた。

厳密に記録はとってないけど、偶然ランキング見たときの週間3位が最高記録なのかな。フェス期間中のDL数と感想数からするに、感想投稿率も高かったと思う。
なんでもそうだけど、まずは目に止めてもらって、手に取ってもらうことが難しいわけで、そのために広告という存在がある。
けど、ノベコレは置いておくだけで誰かはプレイしてくれて、ティラノフェスは更に感想をもらえる可能性が上がるという、作り手としてはすごい環境だ。

失われたIを求めて20180627a

そして、そういう数字は置いておいておくにしても、ノベコレというフィールドの優しさに驚いた。

たとえばイラストだとネット上、Twitterやpixivにはプロもごろごろいるので、神々の中に拙い絵が置くことのなんとも言えない気分に陥ることもあるかもしれない。
だが、とにかくノベコレは反応が優しい……プレイヤーの読み取りレベルも高くて驚く……個人的には別件で創作することに関して純粋な楽しみがよくわからなくなっていたが、懐かしい純粋な楽しさを思い出せた。

創作意欲が高まったので、これからも何かしら作って参ります。

プレイしてくれた方と、ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。



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