
『ツカレサマ・ヤンデル』ゲーム制作備忘録〈2〉
0. はじめに
自作ゲーム第2弾『ツカレサマ・ヤンデル』の制作備忘録。
(ノベルゲームコレクションにて公開、ティラノゲームフェス2019参加作品/PC・スマホ対応/作品登録:2019年9月)
プレイ時間は30分程度。反省点も多いけど、色々チャレンジしてみたので記録。作ってからかなり時間が経っているので、少々うろ覚え。(当時記録を取っていたけど、先日消してしまった・・・)
以下、話の筋にはあまり触れないが「そんなこと気にしてたの?」「そんなやり方であれ作ってたの?」みたいな感想抱くと思われるので、プレイ後に読んでくれると嬉しい。
1. 発端
1つゲーム公開して創作意欲が湧いたので、また作りたいなと思っていた。次に作るなら、デフォルトというかザ・ADVゲーム的な画面以外を作りたいなと思っていて、自由度の高さ、ステップアップ(?)を考えて、2作目はティラノスクリプトをAtomで使用。
映画や劇場が好きなので、映画っぽい感じのゲームを作りたい。
そして、〆切としてティラノゲームフェス2019を設定・・・この年はゲーム制作期間があまりとれなかったため、2週間程度で作る必要があった。また、可能な限り素材を自前で用意して作ってみたいと思い、まったり作った前回とはだいぶ違う状況だった。
前回と共通するのは「ぼくのかんがえた最強のゲーム」みたいなのをやりすぎないこと。最強のゲームには時間と予算と各種技術が必要だ。思い通りにできずにエターナるのは避けたい。
2. 字幕映画らしいゲームにするには
ボイスは無しにする、膨大な量の映像やアニメーションは作れないのはわかっている、などの制約が当然あるが・・・・・・まずは、字幕作品を観察してみた。
そして、最大の壁は「ボイスがなくてあまり動かないのにどうやって映画っぽく見せるか」というところにあることに気づいた。
当たり前じゃんと思うかもしれない。
だが、そもそも映画の字幕にも制約があるのだ。一部例を挙げると、
・句読点は使わない
・カギ括弧は使わない(" " のみ使用可能)
・一度に表示するのは最大2行まで
・長文も不可
・横書き字幕の場合は中央揃え
である。(文字数の制限に関しては実際の字幕は更に厳密らしい)
本作は一応、これらを守って作っている。
メッセージウィンドウの表示が最大2行までしかないしんどさはやってみた人以外あまり伝わらないかもしれないが、そういえば『ルートダブル -Before Crime * After Days-』(メッセージウィンドウに表示されるのは最大2行までの作品)でも、ライターさんが大変だったと言っていたと思う(ソースがちょっと見つからないけどたぶん)ので、ですよね、と思う。
また、字幕映画風のため、キャラ名も表示できない。
昔のゲームや多くのフリーゲームはだいだいボイス無いじゃんと思われるかもしれないが、カギ括弧「」無しでボイス無くてキャラ名表示無しだと、誰が喋っているのか、モノローグなのか、そのモノローグは誰のモノローグなのかわからないのである。なんだこの縛りゲー、この時点でプレイヤー側ではなく制作者側が縛られすぎてる。
この辺りの縛りは実際に見てもらうとわかるが、立ち絵を暗くするという古典的かつ今も見かける方法で乗り切ったけど、作る側になるとそういう演出になる理由がわかった。
(他にもたとえば、キャラが喋るときにあのレトロで電子的なポポポ音というかプププ音を出す方法も考えたが、あまり雰囲気に合わないので今回は使わないことにした)
尚、選択肢に関してもウィンドウ(黒帯)の外に表示すると字幕映画感が薄れるので古典的な仕様にして、色も薄ら変えるだけにしている。

もちろん、これだけではレトロなゲームになる。
あくまで「映画っぽさ」を強調するのであって、実際の映画とは少々違う見せ方もある。
画面の上下にある黒枠、なんとなく映画っぽい気がするが、新しい作品だとそもそも帯が存在しないし、黒帯が存在する作品でももっと細めである。
そして、字幕が表示されるのも実は黒帯内ではなく、1行目は黒帯の外や境目の辺りに表示されるのが一般的だ。しかし、今作のここは画面の見やすさ重視でこの幅に設定している。(このゲーム画面自体がワイド仕様ではないというのもある)
フォントは最近のものだと特に癖のない、サンセリフ(ゴシック体みたいな感じのフォント、絶対フォント感は持ってないので詳細まではわからない)のタイプの書体が使われているようだが、これも「映画っぽさ」を優先。
有償フォントも検討したが、予算の関係もあってしねきゃぷしょんを使用。

また、クリック待ちグリフやメニューボタンはプレイ上はほしいが、存在感がありすぎるとこれも映画らしさを損ねるので、なるべく目立たないようにしている。
クリック待ちグリフに関してはいい素材がなかったので、自力でgifに加工している上、Clipstudioは透過gifが作れない仕様なので、他のツールを使ってもよかったが、かなり力業でくるくる見せている。
背景は自力で枚数描くのは色々と厳しいが、立ち絵よりも準備はしやすい部分もある。今回は映画らしい画面にしたいというのもあったが、以前Olliを使って、こういうのゲームに使えそうだなと思ったのもあるので、アプリ加工である。
写真をイラスト風にできる(もちろんClipstudioでも他のものでも可能だが)ので、これで背景問題解決・・・でもなかった。手持ちの画像だと、ものすごくローカル感が出るのだ。ローカルネタゲームも検討していたが、スケジュール的に再度ロケハン必要になると困るのと、公的に使用しても問題ない、クリーンなゲーム制作の背景とは・・・と考えると内容が限られる。
そういう流れで、結局写真を元にしているものは夕日の画像だけだ。
他の背景、劇場や電車内は実は3Dである。

もともと映画館(映画を流さない舞台、劇場も好きだが)というものが好きだったが、地元にある昔ながらの劇場は独特の気持ちになれた。
いわゆるシネコンにはない、別種の空気があるのだ。特に1番大きなスクリーンの場合、座席の色が赤である。最近の映画館は紺系や黒系が多いが、赤い座席にはそれはそれで浪漫がある。昭和の劇場のこの共通イメージみたいなのってどこから来るんだろうね?
座席の配置も最近の映画館よりも大きな舞台があるホールに近いというか、上映前に劇場を堪能するのが楽しい。そして今でも自由席だけど、特に支障はなく、繁華街にあれどいい意味で昔ながらで心地よい。(チケットがレシートだったが、今は他の映画館同様のチケットっぽいものに変わっていた。あれはあれで味があって悪くなかったが)
何度も映画館に行くようになると、劇場特有のわくわく感というか、遊園地に来てはしゃぐ子どもの心みたいなものを忘れそうになるが、そういう劇場は『耳をすませば』の月島雫くらいのテンション(内心)にさせてくれる。現実だけど非日常感というか、異世界感というか、そういうフィクションへの道を感じるのだ。
と、劇場に取材するのも考えたが、これもスケジュール的に厳しいのと、内容的に大丈夫になるかわからない等々で、なんとか別の道を模索。
そうして、Clipstudioで映画館の3D素材(有償)を手に入れてみて、これが大変ビンゴで助かった。私のPCだと動かすのに苦戦するが、よくできた3Dモデルなので、色味調整すると画面から浮かない。電車内も同じく3Dで、こちらもOlliで加工してみるといい感じに。

そして重要なのが背景の動き。これも「映画っぽさ」を重視。
最近の映画はデジタル化されてこういう見た目にはならないが、レトロな雰囲気が出るよね。これもフィルタ自体は自作ではないが、頑張ってgifにしている。
ティラノスクリプトでフィルタかけるとか、アニメーションとか、こういう動きを作れなくはないが、そうするとプレイ環境がPCでのDL限定になり、スマホでのプレイの制限になりそうだったので今回はシンプルに。
複雑なスクリプト書けばいいというものではない。色々実装できるのはいいことだけど、プレイヤーには見えないので、同じ見た目で確実に動くのならそちらの方がいいのではと。
3. やることが・・やることが多い・・!!
そんなこんなで作った結果、制作期間の半分以上がたぶんClipstudio触ってて、私の場合はそっちの方に時間が掛かるのだとわかった。
内容としては、以前漠然と考えていたネタで、『ツカレサマ・ヤンデル』と『サイワイ・ナナメ』というキャラクター、そして劇場みたいな不思議空間が舞台というのがあったので、それをゲームにしてみるかと考えていた。
前作は素材ありきで考えたが、今回はニワトリが先か卵が先というか、PPAP的に作ったので、話が先か何が先かは微妙なところだ。
I have a character. I have a scriptでう~んと合体させて作った、たぶん。
雰囲気に合う音楽(作中BGM)を聴きながら摺り合わせていくのは前と変わらず。
音関係(SEとBGM)以外の素材のほとんど自作するとなると、ほんとにやることが多い。
特に立ち絵が大変。座席に座るナナメはいいけど、立ち絵のナナメは修正を検討したい。
ツカレサマは全然違うイメージだったが、これは私の画力が「そんなもん描けるか」と叫んだため、アヌビス風になった。ちなみにツカレサマはClipstudioの自動彩色使ってみたいな~と試してみて、悪くはないがヒントレイヤーで指定したとしても、立ち絵向きではないので、手作業が発生する。先行プレビュー段階では自動彩色での時短は厳しかった。
実は体感以上に今作は絵素材が少ないが、背景がずっと動くので立ち絵を目パチさせるみたいなそういう変化がなくても違和感は少ないが。
個人制作だと素材問題は常に付きまとう・・・配布素材だと手軽だが、素材が手に入るかどうかが壁になるのと、他作品とかぶる点が気になる。誰かに依頼するのも可能だが、信頼できる人を選ぶこと、そして納品してもらうまでにかかる期間、そして何より予算を考えると、ハードルは高めだ。
作る方が大変じゃない? というのも確かだが、まぁ作るのは作るので楽しいし、自分で作るならあまりお金かからない(タダとは言ってない)んだよ!
4. 次はどうする
今作、一応完結はしている・・・といえばしているつもりだが、想定よりは小さく、そしてある意味長くなった。
もう少しストーリーを盛り込みたかったのだが、これ、この段階でプレイ時間が30分くらいあるのだ・・・30分って大したボリュームじゃないと思う人もいるかもしれないが、フリーゲームって短いのが多くて、特にノベコレ作品は短編人気な傾向が。
お金を払うならある程度長く楽しめるものがいいと思う。ただ、たくさんゲームがある世界で、手軽に遊べるのがフリーゲームの良さでもある。自分自身もノベコレのお気に入りページで未プレイゲームが増えていくし、すごく面白そうな長編ゲームがあっても、短編ゲームを先に遊んでしまうのではないかとも思う。
『ツカレサマ・ヤンデル』の現バージョンではタイトル画面の開幕ボタン押した後はスクリーン1という選択肢が出るようになっている。色々と改善や追加をしてもいいのだが、ひとつのゲームにすると重く長くなるし、アプデにも気づかない人も多いかもしれないので、何かしら追加するとしたら強化版的な別作品になるかもしれない。
とりあえず、次回3作目は別のもので、その次か、もしくはそれ以降になるとしても、ブラッシュアップしたツカレサマ達を作りたいなと思ってる。
――しかし、こんなに手の内を赤裸々に明かして大丈夫なのか。
プレイしてくれた方と、ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。