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好きなアルバムその6 『初恋に捧ぐ』

 今回選んだのは、初恋の嵐の2002年のアルバム『初恋に捧ぐ』。

 新品のスピッツのアルバムを少しずつ集めていた高校時代の僕が、最後に買った一枚が『おるたな』というスペシャルアルバムで、そこにこの初恋の嵐の「初恋に捧ぐ」のカバーが入っていた。それがこのバンドとの出会い。例に漏れず、彼らの曲のすばらしさに感動し、そしてアルバムが出る前にボーカルが急逝した事実に胸を痛めた…。

 楽曲そのものが良いのは当然なんだけれど、如何せん僕は物語が好きな生き物なので、そのバンドのストーリーと、楽曲の持つ感傷を、どうしても切り離すことができない。ボーカル西山達郎の甘い歌唱と美しいメロディーに浸ると、今この世界に不在の彼が見ていた景色、抱えていたものに思いを馳せざるを得ないのだ。あまりよい聴き方じゃないのはわかっているんだけれど。

 今年の夏は本当に沢山このアルバムを聴いた。大学最後の夏。この眩い音楽を、真の意味で味わえるのは今が最後かもしれない。もう九月も終わりだけれど、滑り込みセーフ、夏の気持ちで曲の感想を書く。


M1. 初恋に捧ぐ ★★★★☆

 上で書いた通り、初恋の嵐との出会いの曲。多分この後何回も書くことになると思うけど、本当に曲がキャッチーなんです。メロディーが良すぎる。この瑞々しさはまさに"初恋"そのものだし、そこに数%含まれる切なさ成分もまた"初恋"だ。スピッツのカバーと比べると、より若さの漲っている感じが出ていて、今はまだこの原曲の青臭さの方が好きだ。


M2. 真夏の夜の事 ★★★★★

 大々々々々名曲。間違いなく。草野マサムネが、カバーするのも烏滸がましい、って言ってたのも納得。夢/嘘/幻と現実の間で君の不在を想う、悲しくて含みのある歌詞に、美しいストリングスが合わさって、それはもうえげつない腕力で涙腺を刺激してくる。孤独な夜のお供です。


M3. NO POWER! ★★★★☆

 しみったれたムードを一気に吹き飛ばす軽快なロック。こういう風変わりなメロディーを、キャッチーかつ爽やかに変身させる歌声とアレンジが凄いと思う。歌詞のひねくれ方も一級品で、"君が差し出したやさしさは僕を全然引き付けない"なんてひどいこと、そう簡単に書けないよなあ。


M4. touch ★★★☆☆

 ここからカッコいい曲が続く。この曲は間奏が好きだな。Aメロと一緒のギターフレーズもいいけど、キーボードの音色とかエコーもベストオブベスト。Youtubeにあるこの曲のライブ動画では、ちょっとプログレ感もある、色気抜群のギターソロを魅せに魅せていて、そちらはそちらで最高。


M5. 罪の意識 ★★★★☆

 この曲もカッコいい系。演奏面だけでいえば一番好き。途中で曲のムードを一変させる、あのギターの音が好きでたまらない。そして、こういうカッコいい曲でもちゃんと至福のメロディラインを施す西山達郎天才…。


M6. 涙の旅路(SLTS.Ver) ★★★★☆

 メロディが良すぎるね…。"刻まれることを夢見てた"なんて物騒な歌い出しなのに、まったく気にならない極上のメロディ。ギターの音も天国にいる気分になるような優しい音で、ピアノの音もきれいで、アウトロは一生聴けるような心地よさがある。


M7. nothin' ★★★★★

 イントロだけで泣いちゃいそうだ。しっかりAメロBメロサビCメロのある、八分以上の長い曲なんだけど、ずっと演奏もメロディーも完璧だ。ドラえもんの映画の主題歌になってもいいくらい良い曲。でも歌詞は恋愛における複雑な心情、関係性のことが歌われている。西山達郎の書く歌詞は余白が多くて解釈が難しいんだけど、絶妙に感情にタッチするような表現しているから、部分部分で共感してしまう。特にCメロの"もつれていく"という言葉のチョイスが、切迫したような歌唱も相まって、胸をえぐってくる。このどうしようもなくなって、精神的に追い込まれてしまったような歌詞に自分は惹かれるな。


M8. good-bye ★★★★☆

 終盤が怒涛過ぎる。アルバムを通しで聴いて、この曲になると、あまりの良い曲の応酬に、なんでこんないい曲ばかり書けるのか、こんないい曲を遺していなくなってしまったのか、とか、そんなどうしようもないことばかり考えてしまうな、それぐらいこれもいい曲。


M9. 星空のバラード ★★★★★

 アルバムラストを飾るこの曲はライブヴァージョン。この演出ははっきり言ってずるいよ。実話を基にした映画でエンドロールに本人の写真がでてくるアレやん。映画『ボヘミアン・ラプソディ』で、本物のフレディが「Don't Stop Me Now」歌うMVを最後に流すアレやん。フィクション・作品の人物と現実世界・現在に生きる自分がつながったような気分になるあの尊い瞬間を演出されたら、そりゃあコンディション次第で泣いちゃうって。
 西山達郎によるMC、曲名言い間違えそうになる感じ、ありがとうを言い忘れる感じに、なんとなくこんな人だったんだろうな~と想像していると、曲が始まり、目の前に一瞬で星空が現れる。もう堪らない。ライブの日付が2001年8月29日ということで、僕が生まれた一か月後だなあ、会いたかったなあ、と思いながらいつもアルバムが終わるこの感じ。寂しいけど包まれるようなこの感じ。この感覚はこのアルバムでしか味わえない。特別なアルバムだ。

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