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思い出 〜クレームがきた話〜

私は自宅教室で英語を教えています。

年度末に「評価表」として生徒さん一人一人の成長を書き記したものをお渡ししています。簡素な通知票のようなものです。厚手の用紙を二つ折りにしたもので、左側は習熟度のグラフ。

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右側は、生徒さんの大半が小中学生なので、保護者様あてのメッセージを書きます。
普段の様子、感心なこと、もう少しがんばってほしいところ、エピソード、などなど書くことがたくさんあります。

某年3月。評価表をお渡しして数日後、ある保護者からメールをいただきました。要約すると、「すごく頑張ったのに評価が低い。不満である。」ということで、お母様とその息子さんの、家庭学習のがんばり具合が長々と書かれてありました。

想定内です。長くこの仕事をしていますと、それはそれはいろいろな方と出会います。一々驚いたり悲しんだりしていられません。

この方をBさんとしましょう。以前「B男(お子さん)が『先生がほめてくれない』って言うんです」とか「クラスの〇〇くんが先生の話を聞かないらしいので、〇〇くんにクラスを変わってもらうことはできませんか」などと言ってきたこともありました。

【話す】 のこと

Bさんの言い分:テキストブック通りに言えている。よって【話す】の評価は満点なはず。

私の見解:確かにテキストブック通りに上手に言えています。「暗唱」としては高評価でしょう。ただ、本を閉じて、自分達の話題として会話する時に無言になることが多く、特にモデル文以外の言葉や応用になると分からなくなる様子です。暗記はしているから、知っているセリフには応えられる。残念ながら理解して話していない。AIのような感じでしょうか。

【書く】 のこと

Bさんの言い分:字は汚いかもしれないが、書く宿題もきちんとやっているし、間違いも殆どない。

私の見解:模写は出来ています。このクラスで【書く】力として求めるものは、英語の音を文字化できるかということ。簡単な作文ができること。ローマ字読みで書いてしまったり、一つの単語を一文字ずつ見ながら書いたりというのは【書く】力があるとは言いがたい。でも覚えてきちんと書けている語もあるのでそこは評価しています。間違いがないのは、間違えたら私が教えるからです。

【使える言葉の量】のこと

Bさんの言い分:暗記しているはずなのに満点じゃない。

私の見解:フラッシュカードなどで確認をすると、単語はよく覚えていると推測できます。自分の言葉としてアウトプットできたら更に良い。

【文法】のこと

Bさんの言い分:他の子はどうなのか?

私の見解:クラスメイトは一通りの理解はしている模様。
B男くんは、話す→クラスで確認→練習 の時に、先走って勝手に書き込んで間違えたり、クラスメイトの会話を聞いていないせいでわからなくなっていることが多い。

【コミュニケーション】 のこと

Bさんの言い分:先生(私)が言うように“アドリブが苦手”なことは分かりますが、もっと高評価でもいいのでは?

「うちの子はもっとできるはず」ということのようです。
私の見解:(グラフは10のうち4くらいでした。Bさんには言いませんでしたがこれでもおまけしました。)

人の話を聞いたり、自分の言いたいことを伝えることが大切です。例えば “What’s your favorite subject?”(好きな教科は?)と聞かれたらBくんは”My favorite subject is math .”と答えようとして”My...”と詰まってしまうか、彼の思う正解の文を言いたいがために無言になるのです。出だしはI だっけ?Myだっけ?と考えていることが残念です。

会話としては“I like math.”でもちろんいいし、なんなら“Math.”(算数)とだけ言えばいいだけの話で、レッスン中もよくこのアドバイスをしています。分からない時、困った時にどう言うかも何度も何度も練習していて、みんなそういうのを使いながらコミュニケーションをとるわけです。『えーその質問は難しいなあ』『もう一回言ってくれる?』『分からないな。君はどう思う?』『〜って英語で何て言うの?』『どう書くの?』『〜教えてくれる?』『〜していい?』

クラスメイトとの会話の時にも、常に私の顔を覗って正解かどうか気にしているので『あなたが今話している相手はクラスメイトですよ』と伝えていました。

私はメールの返信のなかに、余計なお世話とは思いましたが「結果や評価がすぐに出て、話す必要もない学習塾さんが合っているのではないでしょうか。」と書きました。
返信はいただきましたが、内容は忘れました。

Bさんはレッスンでのことについて「うちの子、間違えたくないみたいで。」と微笑んでらっしゃいましたが、間違えていい、むしろ間違えろ!という環境がないのが気の毒でした。

やめるのかな、と思いましたが、その後確か1年は通ってくれたと思います。

Bさんへのメッセージ

記憶を手繰り寄せるとこんな感じ。

「英検〇級合格おめでとうございました。小さい頃から親しんだためか、特にリスニングが優れています。長いお話もよく理解出来ています。
単語もたくさん覚えていて素晴らしいですね。会話では言葉を繋いでイントネーションをつけるようにすることと、言葉の並び方を覚えるともっと言い易くなるので、練習中です。
B男くんは自分のことを言いたがりませんが、このクラスでは話さなくても、いつか必要な時に自分の意思を伝えたり、相手の気持ちを聞けたりして、B男くんの世界が広がったらいいなと思います。」

-おわり-

長くなりましたが、読んでくださりありがとうございました。特にまとめはありません。

習い事は選べるので、「合う」ところに行かれるのが良いでしょう。




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