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戸田真琴×飯田エリカが始める新しいグラビアのかたち。あなたをあるがままに愛したい

グラビア写真という枠組みのなかで、これまでいらないものとされてきた感情や、切って捨てられた人の美しさをていねいにすくいあげ表現する「I'm a Lover, not a Fighter.」。プロジェクトを新しく立ち上げた戸田真琴と飯田エリカは、それぞれAV女優、少女写真家として、共に写真表現に関わってきました。

さまざまな場面で怒り、悲しみ、喜びを共有し合い、創作へと昇華させてきた、盟友とも言えるふたりが生み出したこのプロジェクトは、「私は平和主義者」という意味も持つ題を冠しています。そこにはふたりがその身で受けてきた確かな痛みや戸惑い、それでも諦めきれない「もっと人を愛せるはず」という希望が息づくものでした。対話を重ね、互いを信頼し、同じ危機感を共有するからこそ前に進むふたりに、始まりにあたってお話を伺いました。

「面倒だからいいや」と目を背けた先に、美しさがあるかもしれない

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ー今回のプロジェクト「I'm a Lover, not a Fighter.」を始めるにあたってのきっかけを教えてください。

飯田:私はフォトグラファーとして、これまでもグラビア撮影をする機会がたまにあったのですが、「女性ならではの視点」を求められたり「エモっぽく、友達っぽく撮ってほしい」と言われたりすることが多かったんです。そのリクエストに応じて自分なりに撮らせていただいていたのですが、どうしても男性編集者さんの「グラビアなので肌の露出が多いほうがいい」というディレクションは入ってしまう。そこに、ずっと違和感があって…。結局、読者の期待する「グラビア写真」に寄せていかなくてはならない。でも、それってそもそも自分が撮りたかった写真なのかな? というモヤモヤを抱えていたんです。

あと、グラビアに限らずですが、男性の目線を意識して女の子を撮ること自体、女性の「消費」につながってしまうのではないかという思いもありました。肌を露出していても「消費」だとは感じない写真もあるなかで、最近のグラビアを見ていると全然違うものになっている気がして、もっと美しく、女性の肌を撮ることに重点を置いていた時代があったのではないかと思ったんです。

ー以前飯田さんと戸田さんが出演されていたトークイベントでも、同じような危機感をお話しされていたのを覚えています。

戸田:そうなんです。もともと飯田さんとは、そういった女性の扱われ方についてずっと話をしていたので、今回の取り組みもぱっと思いついて始めたわけじゃないんですよね。

飯田:ずっと危機感や違和感が燻っていたんですけど、どんなに新しくグラビア誌ができたとしても、そこに載る女の子たちはかならず笑顔で、水着で…というのを見て「いい加減やらんとあかん!」と思ったんです。もちろん今のグラビアを完全に否定したいわけじゃないけれど、「人を撮る」ってもっと違うんじゃない? というのを、投げかけたくなったんですよね。水着の女の子が笑顔で写っているだけがグラビア表現じゃないはずだし、私ならもっと違う方向でできる、やらなくちゃ! って。

戸田:そのときの荒ぶる飯田さんの姿、すごく覚えてます(笑)。思っているだけじゃなくて動かなくちゃって話したよね。

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ーさきほど「肌を露出しても『消費』にならない写真がある」とおっしゃっていましたが、たとえばどんなものが当てはまりますか?

飯田:たとえば、篠山紀信さんが撮り続けてた女性のヌードやポートレートは、女性に対する愛情があって「消費」だとは思わなかったです。ただただリスペクトがあって美しいと思いましたし、ヌードを撮ってほしいと思う女の子がいるのもわかるなって。

ー受け手側の意図と、それをつくり手がどう汲み取っているかも関わってきそうですよね。それだけではないと思いますが、グラビア誌の読み手の多くである男性の、性的興奮を目的にしているかどうか、とか。

戸田:正直、商売である以上は読者からの需要や希望を全部無視できないと思うんです。でも、そこに味をしめてしまうと、どんどん女性を消費するというサイクルが速くなっちゃうんですよね。私がいるAV業界はもっとも顕著で、私もその超高速サイクルのなかで生きている。より若くて可愛い女の子が、飽きないうちに代わる代わる新しく出てきて。

「男性の性的興奮をそそる」というのは本当に繊細で、正直、業界に5年いてもわからないんですけど、ちょっとの面倒臭さ、ちょっとの飽きで「性的対象として見れません」となっちゃう。たとえば、被写体の女の子が内面をTwitterに吐露しただけでそうなってしまったり。

ー「性的に見れない」となってしまうと、その穴を埋めるために別の女性が必要になって…という、どんどん入れ替わるサイクルが激化されていくということですね。

戸田:性欲を軸に経済的な消費をする人がたくさんいるのは事実なので、経済の上では大事な欲求なのかもしれないけど、性欲を神様のように扱ってしまうと、そこにたどり着くための創作物が単純化されてしまうし、一人ひとりが生きて感じていることではなく、男性の描く理想の姿を追い求めてしまう。生身の人間なのにも関わらず、その人がどういう人なのかを無視してしまうんですよね。

もちろんプロとしてある程度はやるべきとも思うんですけど、あまりにもそこに一辺倒になってしまうと、人が生きていて、自分の選択で肌を見せるという決意をしてくれて、目の前で肌を見せてくれることが、あまりにも簡単なことになってしまうというか。

飯田:脱ぐことがシステマチックになってしまうよね。

戸田:個人の判断だから、責任もその人にあるのかもしれないけれど、そうせざるをえない状況もあったかもしれない。売れるために、自分のなかでふんばって決意していることもあるかもしれない。もしかしたら今の自分の美しさを、写真に残してくれるかもしれないという写真表現としての希望を抱いて脱いでくれたのかもしれない。なのに、雑誌になってしまうとそういう想いも葛藤も全部、急に見えなくなっちゃうんです。

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ーそれは、つくり手が読者である男性の理想を描くことに注力してしまうからなのでしょうか。

戸田:つくり手側が女の子一人ひとりのストーリーや、その人がどれくらい見せたくて、こういう状況なら脱いでみたいけどこういうのは撮られるのも嫌だ、という感情を見ることができていないのだと感じています。

飯田:もちろん、毎週、毎月発売の雑誌となったら、編集さんが一人ひとりに向き合うことができないのもわかるんです。事務所に確認とって、スタイリストさんとカメラマンさんを手配して、ある程度さくさく進めていかないと間に合わないペースだと思います。

でも、メディアを雑誌にこだわらなくてもいい時代になったと思うし、グラビアも、もっとちゃんと丁寧に、人の心に触れながら撮ってもいいと思います。モデルの気持ちが無視されやすい状況が当たり前になってしまっているから、私も戸田さんも、お互いにそういう現場を経験したなかで感じたことは出していきたいんです。

ーもっと一人ひとりに向き合って、心を汲み取っていきたい思いがあるんですね。

戸田:人間としての肉体、つまり容姿を単純化されたイメージだけで消費するんじゃなくて、その過程でこぼれ落ちていくものを写真に残すほうがずっと価値があるんじゃないかと思うんです。丁寧にカウンセリングして、ちゃんとその人の表現したいグラビア作品をつくっていける場所がほしいんですよね。

飯田さんとはこれまでたくさんの作品を一緒につくってきているけど、女の子の魂を写し撮ろうとしていて、逆にその欲望以外はすごく透明な人なんですよね。「目の前の女の子の、一瞬の美しさと魂を撮りたい」という強い気持ちだけがある人だとずっと思ってたし、そういう写真を撮る飯田さんとなら、女の子が脱ぎたいと思った気持ちに寄り添って、もっと丁寧に撮っていけるんじゃないかと思いました。

ーグラビアは、経済的な側面では否定できるものではないし、誰が悪いというわけではなく、仕組みの部分から現状のかたちになってしまっているのかもしれない。否定して変えていくのではなく、新しい安心できる場所をつくろうという試みなんですね。

戸田:本当は、女の子が肌を見せてくれることって、ものすごく尊いことなんですよ。本当は見れないものなんだってわかった上で大事にしたいし、若くてきれいな女の子が笑顔で脱いでくれることが当たり前になっちゃうのって、絶対によくないことで。

私は、AV女優をやっていて「肌を見せることは当たり前」って思ったことは一度もないんです。でもそれは、私だけじゃなくみんなそうだと思うんですよ。慣れてしまう人もいると思うし、見せたくて見せている人もいるし、誰かが喜ぶならいいと思ってやっている人もいるから、理由や深度は人それぞれだけど、当たり前じゃないということだけは当たり前なので。

そして、見ている側にとって不都合な部分を持たない生き物はいないんです。ただ明るくて可愛くて、ちょうどいいかわいさを持って、自分のことをまったく不愉快にさせない女の子なんて現実にはいい意味でいないんですよ。

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戸田:「これは面倒だから見なくていいや」と目を背けることを選択した先に、美しいものがあるってしらしめたい欲求がずっとずっとあって。もっと面白くて、もっと美しいものが見れるはずなんです。あなたが選ばなかったほうに、本当は見たかったんじゃないかなと思う魂があるかもしれない。それを見る、という体験をしてほしい。

写真に撮られている女の子をもっと深く見る、深く愛するきっかけや、本当の意味で人を見るための動線を引きたい。もう一度、見てくれる人を信じたい。そういう気持ちから、写真やnoteのメディアを通して、これからこのプロジェクトに携わってくれる人の考えを見せたいんです。


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「I'm a Lover, not a Fighter.」メインビジュアル

消費サイクルの速さに呑まれない場所をつくらなくちゃいけない

ーさきほど戸田さんは「肌を見せることを当たり前だと思ったことはない」とおっしゃっていました。自分をさらけ出すことへの違和感のようなものは、ずっと昔からあった気持ちなのでしょうか。

戸田:昔から、人から性的に見られることに対してものすごく過敏で。学校のクラスメイトから受ける好意も、そのなかになにが混ざっているのか、どういう感情があって「好き」と言う表現になるのかをずっと考えてしまう人間でした。だから、人から向けられる性的な目線に対しては、素直に喜んでいいのかな、という違和感があったんです。

そういう目線を向けられるAV業界に入ったのは、あまりにもわからなかったからなんですよね。否定ではなく、実感としてわからなかった。人によってまちまちだと思うんですけど、性的欲求は男性にとってどれほど存在の大きなものなのか。そこに対して私は、女の身体を持って、どう振る舞うべきなのかが。私はわからないことがあるのが嫌なので、わかりたくて業界に入ったんです。

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戸田:最終的には肯定できればと思って活動してきたけど、よかったこともある反面、結局わからなかったな、という気持ちもやっぱり大きくて…。そういうなかでも、性的な感情が愛に接続しているものについては素敵だなと思えるようになりました。ただ、愛からまったく切り離された単純な性的消費を目的としたも感情もあって。それも本能的なものかもしれないので、悪いと言い切れるわけじゃないけど、そういう欲求が占める割合が社会において大きくなりすぎたら、バランスがよくないんじゃないかと思うんです。

ーバランスがよくない、というのは、性的消費を中心に世の中が回ることによって、具体的にどんなバランスの悪さが起こるんでしょうか?

飯田:グラビアって、本当にアンバランスになってきていて。昔は撮られること自体がもっと厳選されていて、グラビア誌や芸能誌に載ること自体、特別なメリットがあったと思うんです。でも、SNSが生まれてからは自分を表現する場所がSNSになって、ちょっとカメラの上手な人にとってもらった写真を自分で載せることができる。それがバズってうまくいけば、プロの人にも撮ってもらえる。

今のグラビアも、SNSのフォロワーが多い女の子が出ていたり、女の子側も「話題になるなら脱いじゃおうかな」という人もいなくはないだろうし。雑誌側としては売り上げが伸びるほうがいいからか、「また出演できるように雑誌宛に葉書を書いてもらって」と、女の子に煽ってもらうことが当たり前になってます。雑誌はそれで得しているように見えます。だから、ばたばたと雑誌が休刊していくなかでもグラビア誌は比較的なくなりにくいのではないでしょうか。

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飯田:写真を撮られることのハードルが下がることで、特別感もなくなっていったけど、その危うさも絶対にあると思います。女の子たち自身は文字通り身を呈して写っているのに、それで売れるということが約束されてないし、芸能界デビューして活躍できるとも保証されていない。なのに、雑誌のスタンスは変わらない。

戸田:それで売れなかったらまた次の子、となって、ただただ消費されていくというのが、すっごいアンバランスですよね。対価と釣り合ってないし、変な言い方だけど「脱ぎ損」みたいなことにもなっちゃう。しかも、一度脱いだら最後、服を纏っている姿に対する需要がなくなるんですよ。需要上、脱いだらもう着ることが許されなくなるんです。それっておかしくないですか? 

飯田:消費サイクルの沼だよね。1回グラビアをやって、脱ぐのが当たり前になると、性的消費サイクルから抜け出せなくなっちゃうんです。「女性」を出さないでいると「あれ、どうした? なに頭いいフリしてんの?」って言われたり。

ー本当は「女性」の前に「人」であるのに、それが無視されてしまうんですね。

戸田:そこから先、たとえば手に職みたいにずっとやっていけるならまだしも、年齢を重ねると女性としての魅力がなくなるっていう先入観に満ちた世界で、肌を見せ続ける道に進むことってどれだけの博打なんだろうって。もちろん自ら納得して進む人もいるけど、望んでやっているからといって苦しくないわけじゃないし、女性が年齢を重ねることに不寛容な世の中で、八方塞がりになっちゃうときもあると思うんです。

AV業界という、消費サイクルの速い場所で稼がせてもらって、ご飯を食べさせてもらっている私が言うことじゃないのかもしれません。それでも、責任みたいなものを感じていて。その速度を遅くすることは私はできないかもしれないけれど、そうじゃない喜びを感じられるとか、自分を見せられる場所はつくらなきゃいけないんじゃないかと思ったんですよね。

それでも「I’ m a lover」と言いたいんです

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ー「I'm a Lover, not a Fighter.」というタイトルはどのようにして付けたのでしょうか。思いなどがあれば教えてください。

飯田:私がタイトルを考えるときは、写真のビジュアル言語をヒントにしているんです。たとえば、パスタとフォークが写っている写真があったとしたら、それを全く違う言語を使う人…日本人が見ても、アメリカ人が見ても、それぞれ日本語と英語で認識できますよね。

そういう、写っているもののワードを最初に思い浮かべることが多いんですが、思いついた言葉を組み合わせて考えてたときに、「Lover」を閃いて。すごく使いたいなと思ったんです。そこからさらに調べていたら、「I'm a Lover, not a Fighter.」にたどり着きました。

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飯田:フェミニズム感の強い活動をしていると、どうしてもなにかと対立したり、闘っている感じになってしまうことがあって。でも、闘いたいわけじゃないって強く言いたいし、それも含めてこのプロジェクトに合うと思ったんですよね。私たちもいろいろ言っちゃいましたけど、決して現状のグラビアを否定したり闘って勝ちたいというわけではないので。

女性の立場を尊重したいだけなのに、ちょっとやり方を間違えるとすぐ分断につながってしまうんです。男と女は理解し合えないとか、男性を拒否することにもなってしまう。そうじゃなくて、ただただ愛したいというのを伝えたいというか。グラビアにおいては女性が消費されやすいから、今はそこを守るために女性を撮っていきたいけど、この企画が進んだら男性も撮りたいと思います。

戸田:撮るべきだなって思う。「女の子」と言うと限定的になっちゃうけど、最終的には「人の」だと思うんですよ。今この世界で、より表面上で消費されてしまいがちな人に女の子が多いので、まずはそこを撮らないといけないな、という。

実際はもっと、男性社会におけるコミュニケーション力や忍耐力、財力の序列のような、いわゆる「男性的な強さ」に乗り切れず生きづらさを抱えてしまう繊細な男性だとか、家族内や社会において立場の弱い人だとか、いろんな人が誰かに都合よく消費されて、踏みつけられながら生きていると思うんです。そういう現実は、決して誰からも遠くはない。誰にも見つけてもらえない部分があるあなたのことだし、そういうものを愛する方法を一緒に探していきたい気持ちでいます。

飯田:ジェンダーはさまざまで、性別で決めつけたい気持ちはありません。差別するつもりももちろんないんですけど、まずは今、私たちが愛していきたいのが女性だというだけです。

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戸田:私は生意気にも世界を少しでもいいほうに変えたいという欲求も持っていて。それは闘いの精神でもあるので、私はずっと闘ってきたんです。もちろん、飯田さんも闘ってきたと思う。だからちょっと皮肉っぽいなと思ったんですよね。今までバチバチに戦ってきたのに「not a fighter」って言うんだ! と思って(笑)。

でも、敵と闘って倒したいんじゃなくて誰かや自分を助けたい、守りたい、愛したいだけで。要は、それって愛じゃないですか。だから、その行為に対して愛と名付けて、愛ってことにしたいんですよね。

飯田:たしかにそうだよね。めちゃめちゃ闘ってきたなあ(笑)。

ー大事なものがあるからこそ闘ってしまうこともあるけど、それを紐解いていけば、誰かをなにかを守りたいだけの「愛」かもしれませんね。

戸田:あくまで愛のために闘うことはあるけれど、それが他人の愛を侵食するものだったり、なにかを過剰に否定してしまうものになったりすると、一旦立ち止まったほうがいいのかもしれません。最優先事項がちゃんと愛じゃないといけないな、ということは思いますね。誰かを言い負かしたり、自分が優越するために愛を蔑ろにしてはいけないと。

世の中を見ていると、女性がフェミニズム運動に触れると「自分はいままで虐げられてきたんだ」と気づいたショックで、急に攻撃的になってしまうこともあると思います。逆に男性側も、ずっと普通に生きてきたはずなのに、突然男性だからと一括りにされて、加害者になってしまうショックで、反発や攻撃をしてしまう人もいるんですよね。

そういうときは、どうしても自分のなかの攻撃性によって大事なものを見失ってしまうこともあると思うんです。それは、決して悪いことじゃない。仕方のないことかもしれません。でも、私は踏ん張ってでも愛を最優先にしたい。むかつくこととか耐えられないなと思うこともあるけど、それでも「I’m a lover」と言っていたいなと思います。

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インタビュー・テキスト・編集:石澤萌 / 撮影:大田萌佳

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