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「物語の中のことば」ハジメテヒラク

生活と文化の研究誌『報徳』に連載している「物語の中のことば」。
ふだん児童文学にかかわりのない読者層の月刊誌ですが、大人が読んでも子どもが読んでも面白い児童文学を紹介し、ご自身だけでなく、お子さんやお孫さんに手渡してもらえたら……。
そんな願いを込めてお届けします。

2024(令和6)年8月号
「物語の中のことば」

 一本一本の枝をよく観察して、その枝の良さを引き出そうとする生け花。
 一人一人を観察して、その人の魅力を伝えようとする実況。
 ほら、ちがいは枝か人かってこと。目指すところは似ているのかも。

『ハジメテヒラク』より

 この物語の主人公あみは、小六のとき、不用意な発言からクラスの女の子の輪から外れてしまい、友だちづきあいに自信が持てません。「同じ過ちは繰り返さないぞ」と考え、中学に入り、思ったことをまず心の中で実況中継することをはじめます。
「窓の外では、校門の前に生活指導部の郷本先生が仁王立ち。その姿、地獄の閻魔大王のようです」、まさに脳内実況。自由に言葉が使える喜びを感じます。
 そんなあみが「生け花部」に入部し、タイプの違う先輩や同級生の花に向き合う姿勢を脳内実況しているうち、それぞれの良さに気づいていきます。そして、冒頭の言葉を脳内中継するのです。
 言葉は人を救うこともできるし、人を傷つける刃物にもなる。私も、思ったことがうまく話せなくて、あるいは誤解されてしまって、失敗したことが何度もあります。でも文章を書くことなら、時間をかけて、徹夜をしてでも、じっくりまとめ上げることができる。だからあみの気持ちは痛いほどわかりました。あみは、実況中継を通じて表現する喜びを知ったのだと思います。そしてそれは生け花の真髄とも通じるものだと、気づくのです。
 その後のあみの伸びやかな活躍を、ぜひ本で読んで頂ければと思います。

小川雅子(児童文学作家)

【紹介した本】
『ハジメテヒラク』こまつあやこ著(講談社・2020年刊)

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