短編小説『あさ』②
「あれ、ない。」
財布がないのだ。 そういえば、家を出る時鍵とタバコとライターの感覚だけがポケットに残っていたことを思いだす。
「会計、いくらだ?」
アルコールのまわった頭でぼんやりと何杯飲んだか考える。
今までビールばかり飲んでいたが、少しばかり膨らんできた下腹を気にして、ダイミヤのソーダ割りとミックスナッツしか頼んでない。そんなに高くはないだろうなんてことを考えていると、新しくバイトで入ったまりちゃんがおかわりはいるかと聞いてくる。
そこで、財布を家に置いてきて一銭も持ち合わせていないことをおずおずと彼女に伝えた。
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