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「ゼロからの社会主義」

斎藤幸平著『ゼロからの資本論』読了。資本主義を否定し、新時代の「コミュニズム」を提唱する視点からカール・マルクスの古典的名作『資本論』を基礎から解説した入門書。

「次世代のマルクス主義」を標榜する著者だけあって、資本主義への評価は厳しく、しかも冷たい。マルキシズムの立場から資本論、社会主義について丁寧に読み解き、労働と資産の関係についてかみ砕いて解説している点は非常にわかりやすいのだが、読み終わっても「だから何なのさ」という思いしか残らない。

「資本を排除したコミューンは現代でも再建できる」と著者は豪語するが、果たしてそうだろうか。ひたすら性善説と自給自足に頼り、発展と進歩から目を背けた社会は牧歌的かもしれないが、暮らしやすいとは思えない。そこには不幸になる権利も、分不相応の希望を抱く自由もないからだ。

資本主義とは「そこにはいない誰かを幸福にするための唯一の手段」であると、私は考えている。今、私がとりあえずのところ幸せ(少なくとも不幸ではない)のは、過去数百年にわたり先人たちがコツコツと積み上げてきた「富」という名のストックがあるからだ。

「そこにはいない誰か」は遠い海の向こうのひとりかもしれないし、数千年後の子孫かもしれない。搾取という問題をはらむ資本主義だが、時代と空間を超えて富を分配できるシステムとしては比較的完成されているのではないか。

私はただ、資本主義の亡霊に取りつかれているだけなのだろうか。

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