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お涙は頂戴するものである

私はインコとともに暮らしている。

種類はコザクラインコ。実にかわいい。そして、私がインコを飼う前にイメージしていた「インコ」というものよりかなり賢い。

まず、誰がどういう役目かきちんとわかっている。

私は、インコのマッサージ担当。

長女は、芸するときのパートナー。

次女は、おもちゃをつかって長時間遊んでくれる人。

夫は、止まり木。

それぞれの役目をふまえて、自分の望み通りの人のところへ飛んでいき、自分の望み通りの時間を過ごす。


そしてルーティンというものにこだわる。

我が家は朝夕二回「放鳥」(鳥を鳥かごから出して、部屋内で遊ぶこと)を行う。

だいたい決まった時間に行うが、たまにその時間が遅れるとひたすらに鳥かごを叩きまくる。鳥なりの抗議である。

鳥かごから出ると、ドアを開けてくれた人の指でくつろいだのち、自由に飛び出す。

自分なりのルーティンは守りたい。私よりも、よっぽど規則正しく生きようとしている。


それだけではなく、常にありのままである。


甘えたいときは甘えたい顔をしている。

眠い時は羽毛をふかふかにふくらませて、細い目で遠くを見ている。

常に羽毛を清潔に保つべく、器用に毛づくろいをしている。

怒ると、目がつりあがってガチ噛みしてくる。

その全てが、文句のつけようもないほど美しい。飾らないのに、美しい。


というわけで、家族全員が愛鳥「ピーちゃん」にメロメロなのである。


メロメロなのだが、私の家族は妙に冷静な人の集団であって、彼が鳥という種族であることを重々承知している。つまり、人間のルールは通用しないということを、子どもですらわかっている。


鳥は、信頼している人の手にしか乗らない。そしてその信頼は、彼(もしくは彼女)に対して長い時間嫌なことをしなかった、もしくは楽しいことをしてくれたり美味しいものをくれたりした、という記憶の積み重ねによって獲得される。

鳥とのコミュニケーションの取り方、バードトレーニングについての本を家族全員で熟読し、そのロジックを理解した上で鳥と接し、その結果としてピーちゃんは家族全員の手にのってくれるようになった。


でもこれは、人が思う「愛」なのか?ピーちゃんは私たち家族のことを「愛」しているのか?


もちろん人間サイドからしてみたら、みんなピーちゃんを愛している。

溺愛である。毎日チューしまくり、ほめまくり、眺めまくりである。


しかしピーちゃんサイドからの私たちへの気持ちは?

それについて「愛」と言い切るほど、私たち家族はスイートではないのである。


でも、人間以外と暮らしていると、人間の思惑を超える瞬間がたまに訪れる。注意深く「人間のルール」を鳥に押し付けないように暮らしていても、それでも思わず気が緩んでしまうようなことが時たま起こる。


以前、私が次女を猛烈に怒った時。次女は泣いて泣いて、夕方のピーちゃんんの放鳥時間まで泣き続けていた。

前述のようにケージから出たピーちゃんは、いつもはだいだいケージから出してくれた人の手にとまってから好きなところへいく。だがその日は、ケージが開いた瞬間に次女のところに飛んでいった。


実は、ケージの中にいるときも泣き続ける次女と声を合わせるようにずっと大きく呼び泣きをしていた。呼び泣きとは、特定の人にそばに来てほしい時にあげる大きな鳴き声のことである。ピーちゃんなりに、いつもと様子が違うことは察しているんだな、とは思っていた。


次女の肩にとまったピーちゃんは、今度は髪の毛をつたって次女の目の横まできた。そして不思議そうに頬のキラキラした涙を眺めている。


「これは次女の目玉をつくかもしれない」と思った私がピーちゃんを次女から離そう、と思ったとき、、突然ピーちゃんが頬につたった涙をなめはじめた。甘えるときにだす「ピヨ」という優しい声を出しながら。


その「ピヨ」は、ピーちゃんがヒナだった時以来久しく聞いてないものだった。そんな優し気な声で、涙をずっとペロペロなめている。次女はびっくりして泣くのをやめて、私もびっくりしてふふふと笑い出し、最後はみんなでニコニコしながらピーちゃんを眺めていた。


もちろん、涙は塩分と水分である。インコにとっては美味しいのである。人の涙はインコにとっては美味しくて珍しいものなので、ごくごく飲むのは当然である。

そんなことはわかっている。でも、ルーティンにこだわるピーちゃんがそれを破って、なおかつヒナの時以来聞いたことのない優しい声で、おもちゃの催促もせず次女のそばにいる。

もしかしたら、そこには「愛」みたいなものがある、と言ってかもしれない。そんな風に思ってしまった。


いやぁ、私もまだまだ、甘いな。

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