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【短編小説】Tokyo

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私と東京についての物語
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黒歴史の始まり⑨

黒歴史の始まり⑨

人目も憚らず、泣きながら歩いた。
家で布団にくるまり、思う存分泣きじゃくりたい。
けれど、今は電車に乗れる状態じゃないほど涙がとめどなく溢れてくる。
私は、歩き続けるしかなかった。
人生初めて就職した職場の最終日を、いまだにふとした瞬間思い出す。

私は数週間であっけなくクビになった。

出社初日「ヤバそうな職場だなぁ、、、」
なんて思ったが、突然訪れた最終日はそれを上回る結末が用意されていた。

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事実は小説より、ドラマがある④【完】

事実は小説より、ドラマがある④【完】

異常な暑さが続く今年の夏。

土曜日の朝10時というのに、平日週5で使い慣れた渋谷の改札を通った。

(体力落ちたなぁ…)

ヨレヨレしながら、スマホ片手にお目当ての初めて訪れる美容室を目指す。

幼い頃、雑誌の切り抜きを美容師さんに見せて、同じ髪型にしてほしいとお願いしたことあったよなぁ。
今やインスタで検索すりゃ、膨大な髪型データとアーティストみたいな美容師さん達の動画が溢れ出てくる。
コンビ

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事実は小説より、ドラマがある③

事実は小説より、ドラマがある③

店内はお祭り騒ぎの様な賑やかさと慌ただしさに包まれていた。

そして、本企画に当選した自分を含める地味なOL風女子達は、ミルミルと満面の笑みに変わっていた。

『可愛い〜!!』

あちらこちらで、歓声が聞こえてくる。
そして、最後は撮影スペースでカメラマンによる撮影だ。

私もあれよあれよと、Tさんによるカットは完成された。
正直、大学生の私でさえも、地元でのカットとは格が違う事を感じた。  

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事実は小説より、ドラマがある②

事実は小説より、ドラマがある②

何かに突き動かされる様な感覚って、
最近ありますか。

私は10代20代前半までは、
何かに突き動かされる感覚=直感だけが生きていく道標だった。

リスクとか、結果とか、失う物とか、そんな小難しい事、わざわざ考えなかった。

ただ、会いたいから会う
ただ、行きたいから行く 
ただ、やりたいからやる
ただ、なんか楽しそう!それだけだった。

必要な持ち物は、未知への『勇気』だけだった。

表参道には

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事実は小説より、ドラマがある①

事実は小説より、ドラマがある①

『東京に行ってみたい』
黙ってNHKを観る父にそう話しかけた
『東京は住むところじゃない』
そんな事を言われ会話は終わった。

大学時代、遠く離れた東京に憧れていた。
東京には、
素敵なカフェや今をトキメクアーティスト達がいる。
間違えではないが、それが全てだと、当時の私は純粋に思っていた。

謎に心の中には熱い希望はあるものの、何のキッカケも掴めないまま、時は過ぎていた。

そんな大学生活も残す

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社会人生活1日目⑧

社会人生活1日目⑧

不安と疑いにまみれたブラック出版社の仕事は始まった。

大柄で温厚そうなスーツ姿の男性が10時ちょうどに出社してきた。
40代くらいだろうか。
見るからに営業の仕事をしている事は、社会経験がない私にも察する事ができる。
ここ、若者向けストリートスナップ雑誌の出版社では、彼の風貌は明らかに浮いているように見えた。
私は、まだスーツ姿の男性を目の前にする事に慣れていない。失礼のないように、そして、なる

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社会人生活1日目⑦

社会人生活1日目⑦

梅雨の湿った夜風が頬に触れると、いつも思い出す。
打ち上げ前に訪れたショットバーで、憧れの男性DJが放った言葉を。

『東京に興味あるの?興味あるなら東京に来る事を強くお勧めするよ!!
東京とここ(地方)は、情報スピードが3年違うからね。
最近、インターネットが急激に普及して情報スピードは前より早くなったけど。』

あの夜、彼の表情や放たれる言葉は、あまりにも明るく軽やか過ぎた。
しかし、20歳の

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音楽と大学生活⑥

音楽と大学生活⑥

『東京へ行きたい・・・』
あの日以来、気付けばいつもこんなことばかりを考えていた。





私が入学した音楽大学は、地方の小さな大学ではあるものの、
周りの学生は幼少期から一流講師のもと戦ってきた音楽エリートばかりだった。

母『親の金をなんだと思ってんの?音楽はもう大学までにしてちょうだいよ!ウチにはこれ以上アンタに払い続けれる金なんかないから!!怒』

いつの日か、木村拓哉と山口智子の

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答えのない答え合わせ⑤

答えのない答え合わせ⑤

姐さんとバンドマンHに挟まれ手を繋ぎ、ホストクラブから居酒屋へ戻る頃、私は、ライブと打ち上げに巻き沿いとなった友人へ、謎の優越感を感じていた。
しかし、友人へ目を向けると、
もともと大人の社交場に慣れていたのか、
それとも、私がホストクラブでカラオケ苦戦中に、ここでのコミュニケーションスキルを掴んでしまったのか、
私が見た事ない振る舞いを披露しながら、アーティスト達と仲良く会話している。

つづけ

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初めての…④

初めての…④

酒焼けした声で歓迎するベテランホスト
煙草の匂いがキツイ姐さん
そして、芋っぽい学生の私

姐さんに手を引かれ到着した場所は、午前3時のホストクラブだった。

姐さん『たまにさ、1人で飲みたい時ここに来るのよ。こーゆーのも良いでしょ?』
姐さんは私に向かって言った。

私『そうですねぇ!』
咄嗟に言ったが、私の中にはこれ以上の言葉を持ち合わせていない。
言葉に合わせて、私はとにかく良い子を演じた。

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ユートピア③

ユートピア③

打ち上げは、小さな地元料理の居酒屋を貸し切って始まった。
アーティストや業界人たちは、満足そうに乾杯し今後の展望を語っていた。

目の前には、憧れのDJ、そして、TVや雑誌で活躍しているアーティスト達がいる。
開始早々、約束通り私と友人は贅沢にもDJの彼から丁寧な紹介をしてもらった。

今、全員の視線が私に向いている……
《 ワタシ、夢デモ見テイルノカ… 》

しかし、所詮は学生だ。
周りからの質

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突然の巡り会わせ②

突然の巡り会わせ②

出会いって不思議なもの。

神様のはからいで、人と人は巡り会うの…?
それとも、神様の暇つぶし…?

憧れの男性DJへファンレターを送ってから、半年は過ぎた。
もちろん彼からの返事はなかった。
彼の元にちゃんと手紙が届いたか心配だった。
しかし、私はかなりの熱量で書きあげ、勢いのままポスト投函したので、赤面モノの思い出として心の鍵付き秘密部屋へすべてをしまい込む事にした。

いつものように退屈な学

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キオク・・・①

キオク・・・①

小さな頃、家の中が私の世界そのものだった。
少し成長すると、近所の公園や学校が私の世界になった。
思春期になると、30分先にあるショッピングセンターやバスで1時間ほど離れたところにあるPARCO、
これがこの街に生まれ育った私にとっての、大きな世界だった。

学校を卒業したら、PARCOの近くに住んで、
お洒落な人達と毎晩お洒落な音楽が流れるカフェバーで、誰かの歌詞に出てきたカルアミルクという甘い

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