Surround me music, Feel Good#7-TAMTAM『We Are the Sun! 』全曲レビュー -

昨年から、「今話題の音楽」や「新譜」といったトレンドに拘ることなく、単純に自分が良いと思った音楽を気分に従ってレビューしていくシリーズ【Surround me music, Feel Good】を書いてます。

今回は番外編的な位置付けで、好きなバンドTAMTAMの新譜『We Are the Sun』を全曲レビューしてみます。

http://smarturl.it/tamtam_wearethesun

まず、ディスクレビューとして全体的な感想を。

率直な印象としてはバンド史上最も明るく意思の強い作品。反面、穏やかさも備えており、一つの集大成として位置づけられる内容だと思います。

強いて似た作品を挙げるなら、『EASY TRAVELERS MIX TAPE』に通じるリラクシンなムードも全体的に感じますが、『EASY~』が一般的な感覚ではインスト寄りな内容であったことや、もともとはコンセプチュアルもなのとして出発したEP的なプロット(結果的にはひとつのオリジナルアルバム)であったこと、BGMとしての側面もむしろ推奨されていることも含め、ボリューム感や「歌」の力、音楽的な祝祭感(明快に各トラック自体にキャラクターがあり、それぞれだけでも完結した作品である点。)では大きく違います。むしろリラクシンなムードは、アルバム全体に採用された432Hz(通常440Hz)の作用が大きいかもしれません。

そして集大成という位置づけについては下記の点から評しました。

P-VINE RECORDSから作品をリリースをするようになった『NEWPOESY』以降の流れを意識すると、特に「ポップ」「ロック」「DUB/レゲエ」といった一定の音楽形式のみをベースにしていない音楽、それ自体が個性として確立されていると言える点。メンバーの担当する各パートにいずれもキャラクターが宿りつつも、密度感だけが高まった「だま」のように塊の音づくりでなく、各パートを独立したラインとしても、有機的に関係を持ったアンサンブルとしても聴くことのできる多層(多声)の魅力であること(伴って、TAMTAMはいわゆるポピュラーミュージックのバンドとしては、音源にせよライヴにせよ、音量の最小値から最大値までにかなり幅のあるバンドだと思います。)。

さらに、最後の「Summer Ghost」では、久々にDUB/レゲエのリズムを基調にしている点で、むしろ最初期からメジャーデビュー頃にまで遡る、ひとつ、お得意の様式感を垣間見ることもできると言えます。

当然、時系列的な意味で最もモードが近いであろうと考えられるのは前作『MODERNLUV』です(実際に各曲のレビューでは収録曲のいくつかを参照しました。)。しかしその作品と比べても、その後、バンドメンバー/ゲストメンバーの違い、2度目のFUJI ROCK FESTIVAL出演、カナダ遠征、メンバーのソロプロジェクト開始、メンバーそれぞれが他バンドへの(ゲスト)参加など、バンド単位/メンバー個別単位で多くのキャリアが築かれています。『We Are the Sun!』(「私達が太陽だ!」)という主語から始まり、明快な自意識/自我が込められたアルバムタイトル、そして明らかに音楽にも反映された展望の広がりは、前作とも既に異なるものへと前進しており、充実した内容となっています。

※上記のように、TAMTAMとその音楽性は、一言で「こういうバンドだ」と評価するのが難しい一面もあり(そのへん、詳しくは自分なりにまとめてみています。)、もし興味がある方は記事を読んでみて下さい。


ここからは、収録曲それぞれのレビューです。

01.Worksong! Feat.鎮座DOPENESS
MVと共に先行公開されたリードトラック。前作『MODERNLUV』では、リードトラックとして「ESP feat. GOODMOODGOK」だったことを振り返ると、ゲストを迎えてラップがフィーチャーされてる点では類似ですが、比較すると前作が静的で大人のムードだったことに対して、リラックスした穏やかさを伴いながらも、前進や運動/活動への欲求を感じます。特に鎮座DOPENESSは、かなり世俗的な語彙でリリックを編んでおり、好対象なゲストミュージシャン/楽曲となっています。また、世界的な感染対策下の反動をMVヴィジュアルや曲のメンタリティにアクチュアルに反映していて、バンドの音楽が肌感覚を伴って世の中と接続されています。そして、それらの文脈を無視しようとも、広く労働(者)讃歌。推進力とスタイリッシュが兼ね備えられた、現代的なしなやかさがあります。

※世界的なライヴ不可/自粛/ステイホームの状況下において、この曲の【Home Eddition】も公開されています。こちらは動画によるスプリッドスクリーンにメンバーが遠隔で「合わせ」演奏をしている様子が映し出されており印象的です。Kuroはソロヴォーカル体制、Affeeはドラムパートをサンプリングで代替していて水を張ったコップの音などを用いており、アルバム収録とはまた別のアレンジ。


02.Neo Utopian
「Morse」に近しい速い疾走感。四つ打ち主張でもなく、ギターロックでもなく、でもロックベースが推進力。クラップ音や鍵盤の方が裏メロとしてギターよりも目立つところなど、近未来的な背景のアンサンブル。サビでは特に都会的な鍵盤と管楽器が煌めきます。

03.Aroma(Joy Of Life)
亜種R&B。まさに香るようなシンセとヴォーカルトラック。重なり合うコーラスパートが発展していく様が美しいです。パーカッシヴなリズムパートも魅力的。

04.Sun Child
愉快なイントロ始まり。ギターがアルペジオからエフェクトの効いたコードへ発展という背景が曲の抑揚とリンクしてます。気がつけばイントロのちょっとコミカルな感じから、コーラスも加わり、緊張感のあるカッコいい装いに変わってる。中間を美しいフォームで泳ぎつつリードもこなすYuthkeのギタープレイに対して、積極的に前へ出ているYuta Fukaiのゲストギター、さらに新メンバー石垣陽菜の豊かな語彙力のベースも加わっているので、無敵の17弦。一旦ベースソロで音数が極端に減ってからのオケ的な立体感で再現するエンディングはThis Is the TAMTAM!

05.Flammingos
リラクシンなムード/曲というのは、ある時からTAMTAMにとって重要な要素になっていると思います。全体的に軽やかに演奏されていて穏やかな陽射しを感じます。トランペットの音色も他の曲より暖かく/柔らかに感じる。

06.Dahlia Feat. Yuima Enya
「Dead Island」でもゲストとして迎えたYuima Enyaと再び。(ライヴでのゲストヴォーカルとしてもお馴染み。)ウィスパー風のミステリアスなムードから幕開けて、抑制の効いたアンサンブルで進行していきます。木琴を思わせるような音や、弦楽器風のシンセも含め儀式的/微かに東洋的な趣もあって新境地です。

07.Beautiful Bad Dream
オープニングの印象的なパーカッションの響き、ピチカート風のギターフレーズ、緊張感とクールな光彩を放つ鍵盤等が重なり、ミニマルなアンサンブル要素が積み上がりながら発展を見せます。様式感がリアルタイムに溶けていくライヴ感、密度の変化がもたらす高揚感の強いトラック。アーバン、サイケ、シューゲイザー、間奏のピアノに象徴されるようなJAZZ感もありながら、DUB的なエフェクトなど、様々な世界線がリアルタイムに交錯する様は鮮やかで、「Sun Child」同様、生きたアンサンブル、そして21世紀を奏でるバンドだということをよく示しています。アルバムの輝くハイライト。ライヴで、ゲストも加えて派手にやって欲しいですね。

※2020/5/17(Sat) 配信型フェスCROSSING CURNIVAL(以下、【CC】)にて先行解禁されたバージョンではディスコ/ファンクな内容で、まるでミラーボールもチラつくかのようなアレンジ。そちらも期間限定なのが惜しい、愛すべき仕上がりでした。

※2アルバム配信日にYouTubeに追加で解禁されたMV。こちらも【Home Eddition】という位置づけ。当初は【CC】とその後のアーカイブス終了後までの期間限定でしたが、嬉しいことにアップされたので、是非聴き比べてみて下さい。すべてのパートが豊かに鳴ってます。



08.Tatoo
ベースソロ始まり。低めの音域で歌うKuroのヴォーカルに寄り添うコーラス、シンセ、指パッチン、トロンボーン、鍵盤、パーカッション(小道具類)など。一貫して控えめな音量でまとめられた約140secの小品ですが、耳を澄ますと様々な音色で豊かに彩られています。アルバム全体の中では07.後のクールダウン、あるいはエンディングへのインタルード的な位置づけともとれます。

09.Lovers
「Tatoo」で一旦控えられた通常のバンドアンサンブルが戻ってきますが、共通して一定の落ち着きがキープされています。筆者のイメージとしてはこの曲でエンディング。(次の「Summer Ghost」がBonus Trackみたいな…。)編曲としてはオーソドックスなまとめ方がなされていますが、なんか映画でエンドクレジットが流れてるような映像が浮かぶし、さらにその後「次回予告!」とか表示されそうなイメージです。終わりへ向かう上でのある種の「チルさ」を伴いつつ、また次の何かへの胎動/予感もありますね。

10.Summer Ghost
DUB/レゲエ亜種。とはいえ、ルーツDUB/レゲエを引用していた初期~『Polaris』、日本的なポップス/ロックにそのリズム形式を導入しつつ発展させた『Strange Tomorrow』までと違い、新たな印象を与える仕上がり。むしろ「夏のしらべ」「Fineview」に見出だされるような追憶と祝福の方が本質的かも。イントロと一部で挿入される鍵盤も夢想的で美しい。(もしかして、この鍵盤がともみんだったり……?)

※【CC】では、Yuthke(Gt)&Yuta Fukai(Gt)によるDUB/レゲエアレンジバージョンが披露されましたが、そちらの方がよりクセと直接的にDUB/レゲエ感のあるアレンジでした。

回帰/郷愁の念もわずかに抱かせつつ、彼らはやはり先へ歩むのだと思います。


以上、一つのアルバム作品に対したレビューとしては、それなりのボリュームある内容となりました。気分主義で取り組んでいる【Surround me music, Feel Good】の番外編として書き上げてみた[TAMTAM『We Are the Sun!』全曲レビュー]いかがでしたか?

音楽をより楽しむきっかけや参考になれば幸いです。そして、早くライヴでも聴きたいですね…!

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