作って喰う

お休みが取れたので、恋人の家に泊まり、仕事に行く恋人のために朝ごはんを用意した。といって、夕飯に買ってきたデパ地下の惣菜の残りを適当に皿に盛っただけである。味噌汁も夕飯の残り、白米も夕飯の残りで、さすがにかわいそうに思えたので、卵焼きを作った。
4個1パックの卵を、少し前に買ってきていたのだが、1つ割れてしまっていて、時間も経っていたので謝りながら捨てて、3つ分を使って卵焼きを焼く。

私の母の卵焼きは、甘い。だから、私の作る卵焼きもまた、甘い。砂糖が大さじ1と1/2ぐらい入っていて、塩一つまみ程度。白身が滑らかになるまでかきまぜたら、フライパンにサラダ油を熱して、一層また一層と卵を重ねていく。3つも使うと、なかなかボリュームのある卵焼きになった。細長い皿がないため、丸皿に移して、3センチ幅に切った。ほかほかと、心地よい黄色から甘い湯気が立っていた。

「できたよ、ご飯」
「うん」

まだベッドで眠っていた恋人を引きずるようにして起こして、机の前に座らせる。私は朝ごはんを食べると体調が悪くなる体質のため、隣で恋人がご飯を食べるのをただじっと見ていた。もともと細い目が、眠気のためか糸のように細い彼は、いただきます、と殊勝に手を合わせ、小さな口で味噌汁をすすった。

「あ、目が覚める」

彼は少しだけ、ほんの少しだけ目を開けてふっと笑った。そうして湯気の立つ卵焼きに箸を伸ばす。

「甘い、うまい」
「うちの卵焼き、甘いの」
「優しい。うまい。目が覚めた。甘い。うまい」

箸の進む速さが増し、恋人はもくもくと朝ごはんを食べつくした。
私は洗濯物をし、食器を洗い、気付けば恋人は身支度を終えてお茶をすすっている。

「えっちゃんにもちゃんと朝ご飯食べてほしいなあ」
「私は食べるように育ってないから」
「でもさ、やっぱり、作ったもの喰うっていいよ。俺、作れないけどさ。一緒に、食べようよ」
「私が作るのに?」
「うん、作って、喰うの、いいよ」

恋人はまた、薄く笑って、寝起きでぼさぼさの私の髪の毛をなでた。
自分のために何かを作って食べるのは億劫だなといつも思うのだが、恋人のために作ったものを、二人で食べるのは、いいかもしれないと、なんとなく思うのだった。