報われない夜に

報われない、と、漠然となってしまう夜がある。
何がどう報われないのか、でも、私には説明ができない。なぜなら報われるような努力はしていない。していないけれど、報われたいと思うことはいろいろある。
人との関係、仕事での立ち居振る舞い、日々の生活。少し、私も、報われたなと思うことがあってもいいじゃないか、と。努力はしていない。努力することはないのかもしれない。そんなことで努力することはばかげている。だってみんな、努力しなくたって報われている。というよりも、報われているとかいう被害妄想的な考え方に至らないのだ。私が狂っているのかもしれない。

仕事がつらい。内容が、ではない。いまだに空気にもなじめないし存在している意味がよくわからない。毎朝出勤して、タイムカードを打刻して、そうして頭はすぐに真っ白になる。みんなが、私以外と仕事の話をしている気がする。何をしても、頭に内容が入らない。どうにかついていきたいのだけど、まず、何をどう進めていいのかわからなくて、だれかに尋ねると、時が来ればわかるといわれる。でもきっと、私はその時が来たことにも気づかない気がする。私以外が忙しそうだ。
家事がつらい。どれだけ洗濯機の中をからにしても、一日が終われば一日分の洗濯物がたまっている。タオルも、肌着も、部屋干しすると生乾きになるからといって外に干さないといけない。雨で干せなかったらコインランドリー。先日、ランジェリーを入れたネットをコインランドリーに忘れて、数日後に取りに行ったらだれかに盗られていた。捨てられたかもしれない。夕飯を毎日考えて、ごはんを作るために急いで帰ってきて、掃除機をかけても毎日落ちている髪の毛にため息をついて、夕飯が完成しても、夫は帰ってこない。コインランドリーに下着を置き忘れたのを忘れていてまだ取りに行っていない旨を言ったら、まだ取りに行っていなかったのかとひどく冷たく言い放たれた。私も遊びまわって忘れていたわけじゃない。悔しくて、何も言えなかった。
人との関係がつらい。毎日がつらい、ということをだれに言えばいいのか言わないほうがいいのか、そんな判断もつかないで、だれかが話しているのを見るのがもう億劫になる。話しかけられるのもだめだ。なんと返していいかわからない。
夫とのやりとりもつらい。仕事に行けないと朝うずくまる私を見て、彼は小さくため息だけをついて黙って出勤していった。それから口をきいていない。私が彼の体調に気遣っても、返事はない。約束は守ってもらえない。ただ、私が一人いっぱいいっぱいになっているのが悪いのだろうか、と、彼に尋ねると、そういう風に自分で全部背負っているように言うのはやめろ、と言われる。でも、やっぱりそれって私が全部ひとりで思い込んでいるのが悪いって言っているのではないのか、と、思うが、それを言うと永遠に不毛な堂々巡りになってしまって、彼はもう口をきいてくれない。

仕事にも居場所がないような気がして、かといって家にも居場所は特にないのだと思う。ごはんを作って掃除をして洗濯をしてもそれは私の生活なのであって報われるとかどうとかでもない。仕事はお金をもらっているからある意味で等価交換だから、報われているのかもしれない。でも、本当はそういうことじゃないのだ。私が報われたいと思うのは、そういうことじゃないのだ。

つらいつらいと泣いていたら、つらいねと返してくれるだれかに温かく包んでほしい、たぶんそれだけ。甘やかしてくれるだれかがいてほしかっただけだ。今は、夫にも友人にもそんなことは望めない。たぶん、だれにも望めない。でも、だれも悪くない。でも、本当は、でも、本当は、逆説ばかりをつなぎ合わせて本当は、悪者を作りたい。簡単に攻撃して、報われる気になれる相手。同僚だったり友人だったり夫だったり、だれでもいい。私以外のだれかを悪者にして、その人を責め立てれば報われるようなこと。

こんなバカげたことを言いながら、わかっている。そんなことはできない。私が愚かだとわかっているから。だから私は、ずっと報われない夜を抱いていくのだ。愚かもの。