深海の底

体が鉛のように重い。頭痛がひどい。肩がギシギシと痛む。私は死体のように、はたまた胎児のように、小さくなってベッドに横たわっている。日中とは打って変わって冷たい風が、寝巻きのショートパンツからむき出しの足を撫でていく。長い丈のものを履いた方がいいのはわかっているが、せめて足だけは冷静に、冷えていなければいけないように思えてしまって、風が撫でるのに任せている。
今までのことが走馬灯のように駆け巡っていって、死ぬ訳では無いのに、臨終のような気にもなってしまう。私の何が死ぬのだろう。今まで生きてきたことはどんな意味があったのだろう。意味もなくとりとめもなく、そんなことが脳裏をかすめていく。

いつもどこかしこりを抱えていくのは、慣れているはずなのに、しこりはいつもどこか重さや形を変えて私の真ん中を陣取っている。
今回のしこりは大きくて、固くて、どうにもできない。一生懸命向かい合っていたはずなのに、根負けしてしまった。動かそうとした手が傷だらけだ。そんなふうに見える。本当は無傷なのかもしれない。でも、私の手は痺れてしまったのだと思う。そして、私の目は潰れてしまったのだと思う。何をも正確に見ることができなくなった。そもそも、なにも正確に見ることが出来なかったから、潰れたのかもしれない。失われてしまったものに嘆いても意味は無いのはわかっていても、そこに留まることでしか、私はいま、立つことが出来ない。

体が鉛のように重い。思考が地面を這っている。人が笑うことや真面目な顔をしていることや面倒臭そうなことや、そういうのを見るのも考えるのも自分がそうしていることもひどく億劫だ。

私は今ひとり、深海の底にいる。暗く静かな、水圧の高い海底に転がっている。ただ、そうでありたい。誰かの声も誰かの気持ちも届かない場所で、ひとり静かに眠りたい。