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【LTRインタビュー:渡邊一毅(わたなべ・かづき)】音楽を通して、人生をより豊かにする手助けができたら

(初投稿2024/8/23、最終改稿2024/8/23)

クラリネットは管楽器のなかでも音域が4オクターブ弱と最も広く、温かみのある低音から華やかな高音まで多彩な音色が特色だ。そのクラリネット五重奏団として活動するのが、Penta-clam<ペンタ=クラム>。2023年春に行われた大阪公演に際し、リーダーの渡邊一毅さんにクラリネット演奏の楽しさ、コンサートを通して聴衆に伝えたいことなどを聞いた。

 クラリネットはクラシックだけでなくジャズやポップスでも使われ、どのジャンルでもぜんぜん違った魅力を出せる楽器です。僕たちはクラリネットだけのアンサンブルだけど、五重奏は意外と少なくて、いちばん多いのが四重奏。だったら4人でいいのでは? とよく言われますが、1人加わっただけで表現の幅がぐんと広がるんです。たとえば、今日やる予定の「パリのアメリカ人」(G.ガーシュウィン)は5人いないと音が足りず、たぶん無理。そういうふうに演奏できる曲が増えることから、僕は五重奏というスタイルをもっと普及させられないかと思っていました。
 Penta-clamを結成したのは2022年。コロナ禍で仕事を失った音楽家がたくさんいました。僕自身もどう活動していくかを模索する日々を経て、インターネットを使って配信するとか、多くの方に音楽を聴いていただくための方法が以前より増えていることに気づいたんです。と同時に、演奏の場がないなら自分たちでなんとかつくる必要がある、いまがその時期だと考えたのがこのタイミングだった。コンサートが軒並み中止になって時間はあるし、周りも同じような状況でしたから、じゃあ集まって何かやろうということが可能になったんですね。

メンバーの出身地はバラバラで、一人ひとりのカラーも異なる。とはいえ、〝言い出しっぺ〟の渡邊さんが一緒にやりたいと思って声をかけ、それに応えて集まった人ばかり。全員がソリストとして、あるいは別のオーケストラや吹奏楽団の一員としてもキャリアを積んでおり、互いに刺激を与え合う関係といえそうだ。

 僕が最年長でリーダーという立場ではあるんですが、いい意味でおとなしく僕に従う4人じゃない(笑)。だけど、それぞれがPenta-clamとして活動することを楽しんで、この顔ぶれのなかで自分に何ができるかということを考えながら吹いてくれているのは、練習していても感じます。時間がたつにつれ、すごくいい五重奏になっているなという思いが深まってきました。
 コンサートでは自分たちが表現したいものを第一にプログラムを組みます。クラシックにこだわらず、この5人で合わせたらおもしろそうな曲、とくに同時代の作品はつねに発信するつもり。メンバーのMicinaはオリジナル曲を書いて、渋谷圭祐と僕はアレンジ(編曲)を手がけるので、それを軸にレパートリーを充実させていこうと意欲を燃やしています。
 まずは、こういう少し毛色の違う活動に取り組んでいるクラリネットアンサンブルがあることを知ってもらうことが大事。それと、今回はもうひとつの挑戦としてギタリスト、アニメーターとしても大活躍している作曲家・大柴拓さんに新作の委嘱をさせていただきました。今宵、みなさまにお聴きいただくことによって完成します。お楽しみに(笑)。

先述したように、音楽家の多くが生きるために職種を変えざるを得ないという厳しい現実を目の当たりにして、渡邊さんは表現することの意味やそれを伝える手法を問い直し、あえてクラリネット五重奏という未知の世界に足を踏み出した。未曾有の災厄の前で音楽は無力かもしれないが、それでも人々になんらかの働きかけをすることは可能なはずだと、言葉に力がこもる。

 現代に限らずどんな時代でも、音楽は生きていくうえで必要かというと、人によってはどうしても必要ではありません。一方で、音楽がなかったら生きていけない人もいる。そして、なくてもいいという人もそれに接することによって何かが変わるのが音楽だと思うんです。本人もよくわからないところで影響をおよぼすことができるというか……。であるなら、どういう曲をどういうふうに演奏するか? というのはけっこう大事なことだという気がします。
 僕たちのコンサートに足を運んでくれるのは、たぶんクラリネットをやっている人が最も多いはず。中学生とか高校生が演奏を聴いて自分もああいうふうに吹いてみたいと一念発起し、結果として音楽の道に進む子も出てくるかもしれません。でも、たとえクラリネットに触れたことがなくても、音楽と出合う機会さえあれば、どういう仕事をしていたって日常が彩りにあふれたものになるんじゃないでしょうか。その手助けでもないけど、こういう楽しみ方がありますよ、どうですか? と提案するのが僕たちの役目だろう、と。いっときホールでいい響きに包まれてお過ごしください。生演奏は1回たりとも同じではないので、そうした特別な時間を共有していただきたいです。自分たちも含めて、音楽を通して人生をより豊かにするための力になれたらいいなぁと願っているんです。

  (インタビュー&文:閑)

*この取材は2023年5月26日、大阪市の阿倍野区民センター小ホールでのPenta-clam 2nd Concert Tour「五色月ニ想フ夜」の折に行われた。当日のダイジェスト動画をLTRのYouTubeで公開中。
*今回のTourでは、アメリカ在住の正式メンバーMicinaの来日がかなわず、米倉森さんに急遽、賛助出演をお願いしている。


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