「はるかカーテンコールまで」デジタル栞文-第5回-

「遠泳」同人の笠木拓の第一歌集刊行記念note、今回の担当は佐伯紺です。

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しょっぱなからうろ覚えの記憶で恐縮なのですが、落雁の頑固さに憧れる、という書き出しではじまる笠木さんのエッセイがあった気がして(うろ覚えすぎて原典にあたれなかったので間違っていたり存在しないエッセイだったらごめんなさい)、パラフィン紙につつまれた歌集を手に取ったとき、その書き出しを思い出した。落雁。

地下街を出たなら日照雨 もう誰を助けられなくたっていいから
/木馬と水鳥
(※ルビ:日照雨=そばえ)
長く伸びた影を見送り最果てを思うのだろう回転木馬
/木馬と水鳥
(永遠は無いよね)(無いね)吊革をはんぶんこする花火の帰り
/もう痛くない、まだ帰れない

歌の中にいくつかの/いくつもの時間があって、歌にすることで複数の時間が同時に存在できることや、

かえりたい未来はなくてさっきまで襟足だったところがさむい/もう痛くない、まだ帰れない
たまねぎを火は甘くする 晩年の兆す速度を僕は知らない/フェイクファー

「ない」時間のことを存在させることができる魔法みたいなもののこと。
でも実際に経過する時間もたしかにあって、

霧雨に濡れて歩いた愛された記憶は傘を差したがるけど
/もう痛くない、まだ帰れない
何度でも泣き止んでくれますように背中に雪の降り遠ざかる
/starry telling

いま経過する時間と、じぶんが思い返す/思い浮かべるときに在る時間の交わりのことを考える。

水差しが日に透けていて白黒の写真の白いところは光
/フェイクファー
食卓は光ある淵 水差しにレモンの輪切りゆゆと浮かべり
/論より小鳥
あかねさすティーカップには日が溢れ会いましょうまた忘れるために
/論より小鳥

歌の中で光があてられて、そこに現れる景をきれいだと思う。

光や時間やきらきらがぎゅっとまとまった一冊をこれから何度も読めることがうれしいです。刊行おめでとうございます。

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