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空中滑走

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眠っていた散文ほか、ふと浮かんだ短文など
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『群衆』…心象散文

『群衆』…心象散文

1.
街を歩いている。何かの群れが流れてゆく。顔のようなものがついているようだが、なんだかよくわからない。
彼らは両手に四角い箱を抱えていて、その中の一人がわたしを見つけると、カクカクした微妙な笑みを浮かべながら、進行方向から逸れて、こちらへとやってくる。

 『サァ、アナタ、アナタモコノ箱ヲオ持チナサイ。コノ箱サエアレバ安心デス。素晴ラシイコトダ…。アァ、イイデスヨ、コレハ…。サァ、アナタモ早ク

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『ろうけつ』…心象散文

『ろうけつ』…心象散文

薄暗くかさばる狭い雲間から橙色が閃光のように突き抜けようと潜んでいるところに、その瞬間とてつもなく黒い闇が焦げ付くだろう縁に、じっと息を詰めて目を凝らしていた。

もし、生涯こうしてここに座り、意識の裏のほうで何かを考え続け、自分にとっての僥倖に巡りあうことに腐心するとしたら。

“楽しみ”“喜び”“幸せ”とされていること、ゆえにそれをすればそうであると判断されること、そして自分にくっつければそう

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『その三角』…心象散文

『その三角』…心象散文

清々しい朝。
カーテンの端から、白い光が薄暗いラグの上を細い直線になってどこまでも走っている。

しかしその輪郭が微妙にぼやけたコントラストを開ききらない目で見た時、何か……気がおかしくなりそうな感じがした。異変が自分を圧迫している。思えば、覚醒の少し前から嫌な予感はしていたのだ。

来た……!また来た……!!!

チリチリする全身をぎくしゃくと動かし、仰向けで寝ていた姿勢から両腕を立てて、そぅっ

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『青い花瓶』…心象散文

『青い花瓶』…心象散文

青い花瓶
瑠璃色の薄いガラス
隠遁者のようにひっそりと
ほっそりした背筋を無機質に正して

朝の光のなか
夜の帷のなか

昔たわむれに琥珀色のコニャックをそそいだら
ぐう
という音を出して
具合を悪くし
ひしゃげてしまった

それ以来なにも入れない

具合がよくなり元どおり
ただの青い花瓶

楽しみにしていることといえばシリウスを眺めること
全天で最も明るく輝く天狼星の白いたてがみ
美しい白い炎

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『自由』…心象散文

『自由』…心象散文

漆黒の天が逆巻いている
そこから放たれる矢のような突風が一陣
また一陣とわきを吹き抜ける
何かが呼んでいる
無音の泉がうず高く湧き上がり天に届くと
爆音の滝となって降り注いでくる

その飛沫
透き通った弾丸は無数の飛沫
金属を叩くような硬い銀の音色が闇に映えて
受けて立つ
ダンスを!

当たると火花が散ってオレンジの炎が芽吹く
そして風を孕み、膨れ
極彩色の極楽鳥が生まれた
金の冠、紫の羽、赤い尾

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