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個展"SOUTH"を終えて

7月24日から31日までの8日間、浅草813Galleryにて個展をやらせて頂いた。

長旅から帰ってくると写真をまとめて個展を開く、そんなスタイルで活動してもう何年になるだろうか。

これまでと違う点は、旅の最中毎日つけていた日記の文章を展示空間に組み込んだことだ。

順序立ったストーリーはブックレットにまとめたので、会場には日記から印象的な一文を引用しランダムに掲示することにした。

もう一点これまでと違うことといえば、額を加工したこと。
まずオレンジ、黄緑、赤といった原色の額を入手し、ブラウンに塗装する。
乾燥後に額を削ることで元々の原色がチラリと顔を出す。


私はこれをON THE ROAD finishedと名付けた。なかなかナイスネーミングだと思う。
削るというのは何か道具を使ってやるわけではない。ON THE ROADの名の通り、路上に擦り付けて削るのだ。

「旅路」、または私の撮影スタイルにも掛けているお気に入りのワードである。今回の個展に合わせて制作したグッズにもその文字が入っている。

話を個展そのものに戻そう。

展示してある写真やワードは時系列に並んでおらず、会場に順路を作らなかった。

ある程度私を知ってくれている人でなければ、散らかったそれらを見ても訳が分からないかもしれない。

だが、そういう人でも最終的にブックレットを読んでもらえればその全てを理解してもらえるし、説明しすぎないことで人それぞれ自由に何か感じてもらえるかなと思った次第だ。
説明することが良いことだとは限らない。

会場の813Galleryは本来土日祝のみの営業なのだが、今回は無理を言って鍵を預かり、平日も開けさせていただくことができた。

(大変不本意ながら1日寝坊した日があったが…
3時間遅れでオープンさせたあの日、誰にも迷惑を掛けなかったと信じたい)


真夏なので仕方ないことだが連日容赦のない猛暑で、夕方までは会場を訪れる人もまばらであった。

そのためギャラリースタッフのいない平日、オープンから夕方までのおよそ3〜4時間、私はギャラリー前の椅子に座りぼーっとすることが多かったのだが、これがまた意外と良かったのだ。

左手からは花やしきの喧騒。
右手の大きな木からは蝉時雨。
ギャラリー内のスピーカーから流れるのは今回の個展のために用意した夏のプレイリスト。
座っているだけでもTシャツの中をだらりと流れる汗。
ぬるくなり水浸しになるビール瓶。

「ああ、夏休みだなあ」
そう感じながら過ごしていた。

日が暮れて見上げる花やしきの風景もまた良い。

私は自分のイベントに自分が居ないのが許せないので、今までもそうだったが今回も全日程在廊した。

全員とまではいかなかったが、ほぼ全ての来場者とお話することができて満足している。

のだが、時期がちょっと悪かったかなと感じてもいる。
この酷暑である。会場に到着した皆さんがやはり相当キツそうだったのだ。
申し訳ありませんでした。暑い中ありがとうございました。

皆さんから頂いた感想で特に多かったのが、「文字があって良かった」というものだった。

それは壁に貼られた言葉の断片のことなのか、ブックレットに収録した長いストーリーのことなのかまでははっきりしないが、
言うなれば他人の超私的な旅の過程を写真だけ見せられても理解しづらいことは想像に難くないので、解釈や想像の補助として文字は必要なのかなと感じた。

そうそう、ブックレットといえば、これが完売するとは正直思っていなかった。
上にも書いたが、こんな超私的な内容で、ページ数も多く分厚いものが、これまで販売してきた人物写真の多いフォトブックよりも値が張るものが、まさかこんなに売れるとは。

そのおかげも大いにあり、グッズのおかげももちろんあり、1年前の個展「NORTH」のおよそ2倍という驚異的売上を叩き出しまして、正直言って驚いているし嬉しく思っています。
今後の活動に必ずや役立てます。感謝感激。

ちゃんとやればちゃんと結果として跳ね返ってくるんだ……と子供みたいな感想しか出てこない、数字的にはそんな感じでありました。


さて、嬉しかったことを他にもいくつか書いていこう。

まずはこの個展で購入したグッズを、早速遠いところへ連れて行ってくれた人が何人かいたこと。

ある人は沖縄旅行へ、またある人はフジロックへ。
自分が作ったものを生活のハイライトで使ってくれてるのをSNSで確認してアタシゃ飛び上がるほど嬉しかった。

それから、個展の題材となった沖縄・九州の旅で出会った人たちが来てくれたこと。

生涯忘れ得ぬ旅となったあの時間を共有した人。
旅を続けるための路銀をくれた人。
およそ4ヶ月ぶりの再会だった。

本人達も喜んでくれていたし、私自身も感激の極み。本当に嬉しかった。

あとは、私と同じく複雑な家庭の事情、育ってきた環境から"因縁の地"が存在する人たち。
たくさんの人と会話をしながら、意外とこういう人は多く居るのだなと感じた。

彼ら彼女らは、私の旅を通して自らもそこへ行く決意をした。
そのうちひとりは個展からの帰り道にその地へ行くスケジュールを早速組んだという。
誰かの背中を押せたのだと思うと感慨深い。

つらつらと書き続けてしまったがまとめに入ろうと思う。

遠く長崎で死んだ親父の墓を探しに行ったあの旅は、それを探し当て、東京に帰ってきた4月時点ではなく、個展という発表会をもって、7月31日に完結したのだと思っている。

旅とはそのさなかのみにあらず。
旅路で湧き出た膨大なインスピレーションの泡々を、ああこういうことだったのかと、理解するには時間がかかる。

炎天下の浅草で、ギャラリー前の椅子で、誰か来るのを待ちながら何時間も座っていた、それを何日も続けた。

青すぎる空を見上げながら聞こえてきた花やしきの喧騒と蝉時雨、あれは紛れもなく親父の島の目前で聞こえた潮騒と鳥の声と重なった。

ああ、終わっていない。つながっている。
もしかして、全てのことが、未だそうなのかもしれない。

旅に出たいと、多くの人が口にした。
私自身あの旅から帰ってきて初めて思えた。
旅に出たいと。

みんな旅をして、そのあとまた会おう。
また会いましょう。

1,aug 2022
石本一人旅

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