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フジロックに仕事で行った話

春先のことだ。

自宅でPC作業をしていた私のもとに友人のケンタから着信が入った。

「オースオス……あのー、今年のフジロックに出ようと思う」

「……はぁ????」


ケンタは古い付き合いのバリスタで、私はコーヒー好きのフォトグラファーである。

世界がこんなになる前にヨーロッパ中を旅していた頃、名店と呼ばれるコーヒーショップをかなり回った。

やれ何々のコンペで世界一を取っただ、やれ北欧一のバリスタだ、それらの店の味は美味かった、最高に美味かった、しかしそれでも私は日本のケンタが淹れるコーヒーが世界一に思えた。

それなので、私は特別な事情などない限りは出来る限りケンタが焙煎した豆を手に入れ、日がなコーヒータイムを楽しんでいる。

そんな友人が持つコーヒーショップ "ACID COFFEE" をフジロックに出店させようと言うのだ。
折り入っての電話にてっきりその撮影依頼かと思ったが、話を聞くとどうやらそれもあるがそれだけではないらしい。

機材をたっぷり運搬するのででかい車を手配したいが運転手がいないというのだ。

「ハイエースぐらいなら運転は容易い」
「なんなら免許取得以降20年以上無事故だ」
そう答えると、とんとん拍子に話は決まってしまった。

・ACID COFFEEの機材を運搬する
・写真は好きなだけ撮っていいしギャラも出る
・ついでに少し手伝う

このような条件である。

この話が来るまでは7月下旬は中国地方を巡る長旅に出ようと考えていたのだが、予定をキャンセルして、私個人としては2003年に一度だけ行ったことのあるフジロックに急遽参戦が決定してしまったのであった……


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現地には開催2日前に到着した


冒頭の電話から2か月。

ハイエース2台、それから乗用車1台に分乗した我々総勢13名は新潟県の苗場スキー場、フジロックフェスティバルの舞台に到着した。

この13名のうち、私ともう1人部外者がいた。
高円寺で酒場 "BAR私" を営む森本氏がその人である。
話を聞くと、まあ簡単に言えば「他ならぬ友人の誘いだしなんか面白そう」という私と同じような動機で参加した人だ。

BAR私 森本氏


残りの11名はACID COFFEEのスタッフ(厳密にはそうじゃない人もいるがややこしいのでそういうことに)。

物見遊山で東京からやって来たこの13名がこのあと地獄の忙しさにいざなわれることになるのだが……

今回の日記は営業ルポではないので細かいところは割愛しよう。
フジロック開幕である。

こちらが友人のケンタ
全日程で11万5千人が来場したとのこと

「なんか写真撮りつつ、音楽聴いてゆっくりローチェアに身を預けてチルッチルな時間を過ごそう、すげー忙しそうだったらちょっと手伝おう」
……なんて思っていた私は一番最初の前夜祭の惨状を目にして心を改めた。


人人人。
人人人人の人人人。


私の目の前でACID COFFEEのスタッフたちが目に見えて疲弊していく。

ピークタイムには長蛇の列が


例えるならばゲリラ豪雨、
例えるならばスラムダンクの山王戦。
後半開始直後、山王高校のゾーンプレスを喰らい訳も分からぬまま絶望的大差をつけられた湘北高校を観ているようだった。

何とか助けたいが何もできない。
うーーんこりゃまずいな。
何とかせねばまずいですよ。

前夜祭を終え、迎えた初日。
私の姿はACID COFFEEのブース最前にあった。

ACID COFFEEはコーヒーだけでなく酒も出す。酒ならば自分にも手伝える。

なぜかって?何を隠そう私は写真業の傍ら新宿のBARに立っているのさ。
それも、10年もだ。

BAR一人旅inフジロック。
さあ来いフジロッカー。

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十数年前、私は物売りの仕事をしていた。
随分と長く続けるうちに店長までやらせてもらって、若い時代の良い思い出だ。
今回はそれ以来の「チームでの」仕事だった。

助け合い、共有、視野を広く持って周りを見ることなどなど……
本当に久しぶりで懐かしい。


ピークタイムの極限に、一切の無駄がなくなり全神経が研ぎ澄まされるあの覚醒感。
楽しくて仕方がなかった。


例の疫病による人数制限やアルコール制限、あらゆる制約から4年ぶりに解き放たれた "全開のフジロック" は四半世紀の歴史上稀に見る全日程快晴。
照りつける太陽による肉体的消耗は日除けが無いぶん都会より厳しく、
乾燥しきったフィールドには終日砂埃が舞い、
夜には羽虫の大量発生という悪条件。

いや辛かった。今まで経験したどの野外活動と比べてもダントツで。
日々本当に辛かった。
それなのに、最終日にはもっと続けばいいのにとさえ思った。


個人で仕事をしてもう長い。
べつにそれほど老けてもいないのに老成してしまった感のある私の仕事観に新鮮な風が吹いた。

それは昔私自身も身を置いていた、チームというものがもたらしてくれた気づきだ。
チームはいい。そこには刺激が山とある。

人だ。人を介在して起きる"できごと"だ。
それでもって人はまた変化できる。

結果的にACID COFFEEは大繁盛、トータル5,000杯弱のコーヒー(と酒)を売ったらしい。

素晴らしい結果だ。

ほとんど全員初めて会うメンバーだったのに、終わる頃には皆可愛くて。

歳が離れてるせいもあるかな。

皆本当によく頑張った。えらい。すごい。
君たちがこの先バリスタとして進んでいくのだとしても、そうでないとしても、この経験は必ず活きるでしょう。


同世代でバーテンダーとしても先輩の森本氏の仕事にはたくさん勉強させていただいた。
まだ行けていないが、高円寺の氏の店にも近々足を運ばねばならない。


そうそう、そんなに数は多くないながらもSNSを見てACID COFFEEのブースまでわざわざ会いに来てくれた友人たち。
嬉しかったですありがとう。

そしてケンタ。
軽い気持ちで参加したけれども、終わってみればとても楽しかった。
写真撮ってるだけより良かったよ。手伝えて良かった。
感謝している。

おまえのことだ、こうなったらフジロックだけには止まらないんだろう?
また呼んでくれ。


みんなに。
スペシャルな夏休みをありがとう。
またやろう!!

5, aug. 2023
石本一人旅

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