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股旅CENTRAL_day10_帰路

昨晩の旅日記更新後の22時過ぎ。

強風のためテント内で休んでいると外から何者かが照明でテントを照らしているのに気づく。

何事かと身構えたが、なんと現れたのは友人であった。

以前何度もこの場所に共に来たことがあるキャンプ仲間なのだが22時過ぎの漆黒の闇の中の訪問者に心底驚いた。

風が強く気温も下がってきたので早々に寝てしまおうかと考えていたのだが、友人が酒とつまみを携え来てしまっては酒盛りをするほかない。
焚き火もない中ではあるが、周囲に誰もいない浜は貸切状態だったので深夜まで盛り上がった。


午前7時、テント内の蒸し暑さで目が覚めた。
まだ酒の残る身体に鞭打ち外に這い出す。

昨日とは打って変わって雲ひとつない快晴だった。
あれだけ吹いていた強風もぱたっと止み波も凪いでいる。

一夜明けてこの浜にようやく出迎えを受けた気分だ。


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10日間の旅を終えて帰宅した自宅で、私は抜け殻のようになっている。

たった10日しかなかったのか。
もっともっと長く感じた。
体感としては1か月ほどにも思える旅路だった。

パンデミックによる抑圧からの解放であった「NORTH」(2021)、
親父の墓を探すという明確な目標があった「SOUTH」(2022)。

今回の「CENTRAL」は撮影依頼も少なく、先の旅と比べてしまうとその道のりは辛く厳しいものだった。長く感じたのはそのせいに違いない。

実は途中で気づいていたのだが、
そういえば写真集やアパレルなどの通販の発送で北陸の住所を書いた記憶がほとんどない。

撮影依頼をこなしている間は最高に楽しかったし、やり甲斐のある依頼ばかりだったし、それについては感謝しかないが、需要の無さを突きつけられたことはやはり悔しいの一言に尽きる。


おかげで目標が新たにひとつできた。
そういう土地にも認知されるよう、より一層頑張らねばならないと。


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太陽が真上に昇るまで、私は友人とスロウなひと時を過ごした。

特別なことは何もなかった。
他愛もない話をして、笑って、それだけだった。


それだけだが、楽しかったなあ。

"住む家があって友達がいて恋人がいる。
親もまだ片方生きてて行きつけの飲み屋があって自分の写真にお金を出してくれる人がいる。
充分幸せじゃないか。"

昨日私はこのように書いた。

この日常が、当たり前が何より大切なことなのにすぐ忘れてしまう。
わざわざそこから離れて、孤独になって、ああそうだったと思い出す。

面倒臭い人間だ。
早く消えちまえばいいとけっこう本気で思うのだが……運命はまだ私を生かしておくつもりらしい。

生きている限りは写真を撮ろう。旅をするよ。


秘密の海での滞在はほぼ24時間。

昨日一人で通り抜けた道を友人とともに戻る。


重いザックを背負い人里へ辿り着いた頃には、我々はびっしょり汗をかいていた。

旅の終わりに飲んだ瓶コーラはキンキンに冷えていてまるで真夏のようだ。
短い春の終わりが近いことを知る。

ただいま、愛しい日常。
その愛しさを忘れた頃、私はまた旅に出る。


thank you for reading.

2023年4月
石本一人旅

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