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#28 モガディシュの月

 まだ年端も行かない少年だ。目の隈は深く、その碧の眼はくすんだ灰色を含んでいる。浅黒い肌には若さに似合わぬ古い、えぐれた傷跡が残っている。暴力的にほそい手足は、どこか寂しく、けれども弱さは感じさせない。彼の弱さは彼の抱える銃にあった。AK47式機関銃。泥にまみれたそれは、未だ重い感慨をもって彼のふたつの腕が支えている。替えのマガジンはない。弾が出るのかも、彼はまだ知らない。それは少年が生きていく、或いは生きていられることを保証する物体だった。

 彼の碧の双眸が彼方に脅威を見据えるとき、彼は撃つ。けれども彼の悲しくもか細き身体はそれを許すだろうか。彼が他人を殺すというとき、彼のふたつの眼はしっかりと開かれ、きっぱりとした碧の球から血の涙が噴き出る。銃は落ちる。血煙は高く、灰色の戦地に上がる。少年兵は歩く。そして夜が訪れ、モガディシュの月は、もはや誰も生きていない刺々しい地面をどこまでも赤黒く、映写機のノイズのように、浮かび上がらせるのだ。