
「北海道にはすべてがあります」-ティムさん
今回の「けっぱれ道産子!」は特別編。イギリスで活躍するシェフ兼フードライター、ティム・アンダーソンさんの最新レシピ本「HOKKAIDO」出版を記念して、同じくイギリスで活躍する道産子料理研究家 横山明美さんとのスペシャル対談をお送りします。
-まずはティムさんご自身のことについてお伺いします。料理に興味をもったきっかけをおしえてください
ティムさん:10代の頃、料理番組をたくさん見るようになった時でした。当時、アメリカに「Food Network」というチャンネルがあって、そこで日本の番組「料理の鉄人(Iron Chef)」をみて、特に日本料理、和食に興味を持つようになりました。私が住んでいたウィスコンシン州には当時ほとんどジャパニーズレストランがなかったので、近くのミルウォーキーやシカゴに行って、少しだけ日本料理を試したり学んだりしました。その後、ロサンゼルスの大学に進学し、日本学を専攻しました。ロサンゼルスには数えきれないほどの日本人が住んでいて、日本料理店もたくさんありました。初めてお好み焼きやラーメンを食べたのもロサンゼルスでした。特に好きな日本食はラーメンで、毎週のように食べていましたね(笑)。
-ラーメンがお気に入りだったのですね
ティムさん:ええ、そうですね。でも、最初に本当に好きになったのは、もっとシンプルな料理でした。どう言えばいいかわかりませんが、西洋人にとって理解しやすい料理、たとえば焼き鳥、焼き飯、焼きそばのようなものです。不思議と全部「焼き」がついているんですが(笑)。ただ、私はもともと麺類が大好きで、そばやうどんもすごく好きでした。でも、ラーメンについては、初めてとんこつラーメンを食べて、すぐに虜になりました。それはたぶん、私が育ってきた食べ物と少し似ている感じがしたからです。ロサンゼルスでいろいろなラーメン屋を試して、常連になったお店のとんこつラーメンが特に好きで、もっとラーメンのことを知りたいと思い、日本に行きたい、特に福岡に住みたいと思うようになりました。
-今回「HOKKAIDO」というレシピ本を出版されましたが、どのような経緯で出版となったのでしょうか?
ティムさん:それは私が学生だった頃に遡ります。2005年に研究のために来日し、東京、札幌、横浜、長野、京都などをまわり、その後2007年にはホリデーで北海道を訪れました。どちらの訪問の時だったか覚えていませんが、北海道が私の出身地ウィスコンシンに似ていると感じました。北海道には、ウィスコンシンと共通する食べ物がたくさんあって、ビールがその代表例ですね。他にはチーズや牛乳、ジャガイモ、スイートコーン、ラム肉、豚のソーセージ、鹿肉などもウィスコンシンでよく食べられていて、それが大きな共通点の一つでした。そういう意味で本当に興味深く、懐かしい気持ちさえ抱きました。北海道出身ではないのですが(笑)。それで長い間また行きたいと思っていたのですが、なかなかチャンスがありませんでした。
そんな中、世界的にパンデミックとなったのですが、外に出ることが不自由になったため、いわゆる「料理本」の販売数が増えていきました。そこで私にも、レシピ本出版の話がきたのです。私はすでに「東京ストーリーズ」という東京に関する本を出版していて、それが結構売れていたから、出版社は他の地域についてもカバーできるのではないかと考えたようです。それで私は北海道を提案しました。私自身興味があったので提案したのですが、正直承諾してもらえるとは思っていませんでした(笑)。
牛乳、パン、ウニ、サッポロビールや札幌ラーメンなどの影響で、今は北海道の知名度が徐々に上がっています。ただ、それでもまだ多くの人が北海道についてあまり知らないのが現状です。この本の企画時(2020年)には、北海道には欧米の人々が理解しやすい料理がたくさんあるとアピールしました。ラーメンやザンギ(鶏のから揚げ)、ジンギスカン、カレーライスなどです。これらは完全に洋食というわけではありませんが、西洋人にとって魅力的な料理だと思います。また、パン作りに関連するもの、たとえば角食パン(牛乳をふんだんに使用したHokkaido Milk Breadと呼ばれる角食パンが英国で人気)やペストリー、そしてクッキー類、例えば「白い恋人」のようなものも含めて、西洋人が「これなら作れる・理解できる」と思える内容を提示しました。
シーフードについても触れました。ここイギリスの人々はシーフードに対して少し慎重な面がありますが、北海道料理にはサーモンやホタテが多く使われており、これらはイギリスでも人気があります。例えば「ちゃんちゃん焼き」のような料理は、サーモン、野菜、味噌、バターを使っていると説明すると、みんな「美味しそう」と言ってくれます。ただ、もちろん北海道のすべての料理がこちらの食文化に似ているわけではありません。それでも、本を手に取った人がページをめくりながら「これ、美味しそうだから作ってみたい」と思える料理が十分にあると考えました。

人気があり、新鮮なラムが手に入ります。 photo by Laura Edwards
横山さん:多くのレシピ本は一般的に、歴史や個人的な経験などよりも、レシピそのものについて書く傾向がありますよね。でも、ティムさんの「HOKKAIDO」の本では、その点を本当に深く掘り下げています。特に、アイヌについての話は、日本の一部では、いまだに少し議論を呼ぶテーマです。私たちはアイヌについて話すことに抵抗はないし、むしろ喜んで話しますが、歴史を振り返ると少し抵抗があるというか・・・。でも、あなたはそのテーマを本の冒頭で大胆に取り上げています。
ティムさん:はい、アイヌの話についてですが、アメリカ人がネイティブアメリカンの歴史を理解する際の感覚と似ていると思います。我々が抱く罪悪感や議論、そして敏感なテーマとしての捉え方ですね。同じではないですが、その視点からアイヌについても敏感なテーマだと思いました。だから、書く際には非常に慎重になる必要があると感じました。最終的に、レシピについては今博明(アイヌ食文化研究家)さんにお願いした理由もそのためです。私自身、アイヌ料理について十分に理解しているとは言えず、自分で書く自信がありませんでした。どのくらいアイヌについて書くべきかも分かりませんでした。というのも、北海道に行ったり住んだりしても、アイヌ料理を実際に体験する機会はほとんどないからです。現在の北海道の食文化の中で、アイヌ料理が大きな部分を占めているわけではありません。しかし、北海道や北海道の食を語る上で、それを抜きにして話すことはできないと感じました。
興味深いのは、もしアメリカについての本を書いたとしたら、自分がアメリカ人であるために、こうした視点を持たないかもしれないという点です。自分の経験に基づいて書くので、限られた範囲の話や食べ物について書くことになるでしょう。でも、北海道の外部の視点から書く以上、すべてを調べて、できる限り正確に伝える責任があると感じました。だからアイヌの食文化を含めたいと思いましたし、それ自体が非常に興味深いテーマでもありました。
横山さん:もう一つ感心したのは、いくつかのレシピでイギリスでは手に入りにくい食材を使っている点です。これは意図的なものだったんですか?
ティムさん:はい。食材について一部の料理では、その料理が特定の食材に完全に依存している場合、それを本に載せるのは難しいと感じました。例えばウニ丼です。これはレシピ本に載せるのがとても難しい料理の一つです。
横山さん:豚肉のスライスに置き換えればいいですよね(笑)
ティムさん:まさに!(笑)。ウニ丼は良質なウニに大きく依存しています。例えば、今さんのレシピの一つには、「シケレペ」という食材があります。これはコルクの木から採れる苦いベリーです。本の執筆が終盤に近づいた頃に気付いたのですが、私は、もし北海道に行けない人や、北海道出身だけどなかなか帰れない人がいたとしても、その人たちができる限り本格的にこれらの料理を作れるようなレシピを作りたいと思ったんです。チートや代用なしで、本物のまま。多くの日本料理のレシピでは代用を許容していますが、それは日本料理が場所によって異なる食材を取り入れるという特徴を持っているからです。でも今回は、現在の北海道や伝統的な北海道料理の作り方を記録したかったんです。それはある意味、私自身のためでもありました。例えば函館の塩ラーメンを食べたいと思った時、本場の函館塩ラーメンと同じ味がするレシピが欲しいという感じですね。なので、バランスを取るのは難しいですが、もちろん本から料理を作ってほしい一方で、北海道の料理を正確に表現したいとも思いました。難しいかったですが、全力を尽くしました。
横山さん:シケレペは酸味のある感じと同時に、少しフルーティーで、苦味もありますよね。
ティムさん:そうですね、ジュニパーベリーを少し思い出させます。もう一つ例を挙げると、行者ニンニクです。行者ニンニクと全く同じものはイギリスにはありませんが、ワイルドガーリックやワイルドリーキがあります。それらはかなり似ています。でも、例えば豚肉とウニを代用するみたいな、簡単には代用できないものもあります。
横山さん:私がこの本で一番好きなのはサーモン、まるごとのサーモンの紹介です。サーモンのすべての部分を使って、さまざまな料理に活用するということを人々に教えるのは、とてもエコロジカルなことだと思います。サーモンが好きな人は多いかもしれませんが、そういった発想を持つ人は多くないかもしれませんね。
ティムさん:印象的だったのは、頭の軟骨、鼻の部分を使った料理で、日本語で何て言うのか覚えていないんですが、それを石狩にある「金大亭」というレストランで食べたんです。基本的に、なますのようなピクルスにしていました。そして、もう一つは「メフン」ですね。
横山さん:鮭の腎臓から作るものですよね。
ティムさん:味がとても濃厚です。
横山さん:私の父の大好物です。私の両親、とくに父は昔から釣りが大好きで、趣味がそのまま人生になりました。基本的に毎週、いや毎週2回、船に乗って海で釣りをしていました。
ティムさん:すごいですね!
横山さん:毎週大量の魚を釣ってきていたので、魚の眼球や血が周りにあるのは日常的な光景でした(笑)。正直、子供の頃はそれがすごく嫌いでしたが、そんな環境で育ったので、そういったものにはとても馴染みがあります。両親が本当に楽しんでいたことでしたから。

ここでは乾燥ローズヒップを使っています。photo by Laura Edwards
-アイヌ料理といえば、横山さんもロンドンのジャパンハウスのイベントでアイヌ料理を作りましたが、食材はどのように調達したのですか?
横山さん:私は平取町のアイヌ文化保存会の方々と一緒に仕事をさせていただきました。平取を訪ねて彼らのキッチンで調理方法を教えていただいたんです。でも、英国におけるアイヌ料理の食材調達は一筋縄ではありません。イベントでオハウ(アイヌ料理の代表的格スープ)を作ることは決まっていたのですが、行者ニンニクのような重要な材料が手に入らなくて。そこでロンドンで入手しやすい代替品を検討し、ワイルドガーリックを使いました。シーズン外だったので乾燥したワイルドガーリック。あとはごぼうです。アイヌの方々もゴボウを使いますが、ゴボウってロンドンの一般的なスーパーマーケットで見かける野菜ではないですよね。それで乾燥ゴボウ、実際にはゴボウ茶として売られているものを使いました。それでも十分な風味が出ました。また、オハウを作るのにとても重要な食材「プクサキナ(ニリンソウ)」も保存会の方々にサンプルをいただいたのですが、英国で一般の方がレシピを再現しやすいよう、地元の食材を使いながら、アイヌの方たちが食べても美味しいと感じるオハウを作ろうと試行錯誤しました。

横山さん:スナックやスイーツのセクションについて触れてもいいですか?あるページを私の友人たち、特に北海道出身の友人たちに見せた時、みんな本当に大笑いしたのですが、わかりますか?そのページを見るたびに、みんな笑顔になるんです。「ライスホットドッグ」のページです。
ティムさん:ジュンドッグですね(笑)。本当にただご飯とソーセージなんですが、美味しいんですよ。
横山さん:北海道土産としても有名なロイズのポテトチップチョコレート、それにルタオのチーズケーキとかもカバーされています。
ティムさん:本当はもっとやりたかったんです。「白い恋人」や「あんバタサン」なども。でも問題がありました。私はあまりお菓子作りが得意ではないんです(笑)。「白い恋人」なんかは、実際にはそんなに難しいレシピではないのですが、専用のシリコン型が必要で、バターを挟んでから焼くためのものです。レシピブックで「シリコン型を買ってください」とは言えませんでしたし、焼きムラが出ない高性能なオーブンも必要なんです。そうでないと一部は焦げてしまったり、一部はちゃんと焼けなかったりします。それがとても大変でした。でも、ポテトチップチョコレートのように簡単に作れるものや、ルタオのダブルフロマージュのチーズケーキのように、実はシンプルなレシピのものもあると気づきました。北海道のお菓子には素晴らしいものがたくさんあって、選ぶのは楽しいセクションでしたね。
横山さん:お土産を選ぶのはいつも難しいですね。どれを選ぶべきか。
ティムさん:別のスーツケースが必要になるくらいですね(笑)。

レストラン「ラッキーピエロ」
-実際に北海道の食文化を調べるために道内各地をまわったわけですが、この本を書くにあたって、一番難しかったことや、挑戦的だったことは何ですか?
ティムさん:一番大変だったのは、何を本に含めるかを決めることでした。ご存知の通り、北海道はとても広く、取り上げるべき内容がたくさんありますから。最初に書いた原稿は7万語だったんですが、それを5万5千語まで削らなければなりませんでした。ですので、本に入らなかった内容がたくさんあります。
旅の計画を立てる段階でも、訪れる場所を決めるのが大変でした。行きたかったけど行けなかった場所もありました。主に食を追いかける形で旅をしたんですが、今でも本を見返すたびに「あのレシピを入れたかったな」「これも載せたかった」と思うことがあります。例えばラーメン。私がどれだけラーメン好きか知っているでしょう(笑)。本には6種類のラーメンレシピが載っていますが、もっと載せることもできました。弟子屈ラーメンのレシピや、旭川ラーメンの山頭火スタイルのレシピも考えていましたし、他にもたくさんあります。それにスイーツやアイヌ料理ももっと取り上げたかった。北海道について語れることは本当にたくさんあって、それを削るのが大変でした。
-旅に出る前には、「この料理は絶対に取り上げなければ」といった具体的な計画を立てていたんですか?それとも、特に計画を立てずに、旅をしながら何かを見つける感じでしたか?
ティムさん:かなり具体的な計画を立てていました。ただ、具体的な計画を持っていながらも、現地での提案には柔軟に対応しました。たとえば稚内が良い例ですね。実際、稚内についてはあまり知らなかったんです。ただ、どうしても稚内に行きたくて、北海道の最北端に行きたいと思っていました。それと利尻にも行きたかった。昆布やウニについて学びたかったんです。ただ、稚内の地元料理についてはほとんど何も知らずに行きました。現地に行って、すべての調査をしながら学んだ感じです。
稚内の料理も、イギリスの人々向けのレシピ本に載せるのが難しいものが多いんです。例えば有名な料理の一つに「たこしゃぶ」があります。巨大なタコを薄切りにしてしゃぶしゃぶする料理です。でも、イギリスではそんな大きなタコを手に入れて、あのように薄切りにすることはできません。タコの卵を使った料理もありました。他にも興味深い漬物があります。「はさみ漬け」がその一つです。こういったものは、現地で紹介されて初めて知ったものです。でも、こういった料理が本に載ることもあれば、実用的でない場合は載らないこともありますね。
-もしよければ、この本には載せられなかったレシピや料理を何かひとつ教えてもらえますか?
ティムさん:ええ、もちろんです。私が本当に気に入っていて、正直なところ、スペースの都合で削らざるを得なかった料理があります。写真にもあまり満足していなかったんですが、それは「スイートポテト」という料理です。帯広の「クランベリー」という洋菓子店で作られているもので、さつまいもを丸ごと焼いて、中身をくり抜き、底にカスタードを詰めます。その後、さつまいもの中身に少し砂糖を混ぜて上に戻し、さらにその上に卵と砂糖を塗って焼くんです。見た目はまるでクレームブリュレみたいなんですが、さつまいもの皮の中に入っている感じです。これが本当に美味しいんですよ。帯広には素晴らしい洋菓子店さんがたくさんありますが、この料理はおすすめです。ただし、1切れずつではなく、丸ごと買う必要があるので、誰かと一緒に食べた方がいいですね。
-さつまいもは、イギリスでは手に入りにくいですよね。
ティムさん:日本のさつまいもに似たものをカリブ系やインド系のスーパーで買えるんです。ちょっと違うかもしれませんが、似ています。ただ、少し筋っぽいことがあります。大きく育てられているので、少し硬いことがありますが、味はかなり似ています。
-そうなんですね!ありがとうございます。では、ちょっと難しい質問になるかもしれませんが、北海道に行く外国人に向けて、「これはぜひ試してほしい!」という一品かレシピを挙げていただけますか?
ティムさん:とても難しいですね質問ですね(笑)。そうですね、二つ挙げてもいいですか?一つは「アイヌ定食」ですね。阿寒湖のレストランやウポポイ(北海道白老郡白老町にある「民族共生象徴空間」の愛称)のレストランで食べられます。アイヌのご飯料理は絶妙な味付けがされていて、ハマナスやハスカップ、行者ニンニクが入っていることがあります。炊き込みご飯というわけではないのですが、具材がいろいろ入っていて食感や味が豊かです。それに「オハウ」というスープ、具は鹿肉や鮭が有名だと思います。こうした料理を試していただければ、アイヌ料理の基本を理解してもらえると思いますし、私自身も大好きです。もう一つ、北海道での一番の楽しい経験の一つだったのがジンギスカンですね。いろいろな場所で美味しいジンギスカンを食べられますが、私にとって最高の場所はサッポロビール園です。
横山さん:同感です。
ティムさん:歴史があって、ビールがとても新鮮です。私のおすすめはアイヌのご飯とスープ、そしてジンギスカンです。
-横山さんからも、北海道に来たい外国人に向けて、何かおすすめをおしえてください。
横山さん:私もサッポロビール園をおすすめします。正直言うと、とても観光地っぽい場所なので、行くのを考えないかもしれませんが、それでも素晴らしい場所です。私もジンギスカンが大好きです。他にもジンギスカンを食べられるところはたくさんありますが、ビール園は雰囲気全体が素晴らしいです。新鮮なビールもありますし、場所も広くて、ポテトも美味しいです。歴史的にも象徴的な場所です。ぜひ訪れるべき場所です。
もう一つ、もし言わせていただけるなら、釧路の魚市場ですね。ティムさん、行ったことはありますか?
ティムさん:はい、あります。和商市場ですよね。本当に素晴らしいです。
横山さん:魚市場の真ん中に小さな中庭のようなスペースがあります。そこで市場の中で買った魚や刺身を、ご飯や味噌汁と一緒に食べられるんです。
ティムさん:値段も最高です。このクオリティでこの価格はすごいと思いました。

-最後に「これからの北海道」について伺います。その土地ならではの文化や歴史を絡めた「食」を楽しむ旅、「ガストロノミーツーリズム」が世界的なトレンドになっています。北海道は日本でも魅力的な地域の一つであり、ガストロノミーツーリズムは北海道の地域活性化や観光客の誘致に重要な役割を果たすと思います。この点について、北海道の観光の未来に関するアドバイスや提案はありますか?
ティムさん:私にとっては少し難しい質問ですね。というのも、旅行に行くときは主に食べ物が目的だからです。美味しい食べ物があれば、そこに行きます。例えば、私は「ガタタン」を食べるために芦別に行きました。芦別は観光地として行く人はあまりいませんが、食べ物をきっかけとして観光客を引き寄せ、さらに観光地としての魅力を体験してもらうことができると思います。例えば芦別には温泉もありますが、温泉といえば他に有名な場所がたくさんあるため、あまり訪れる人はいません。食べ物を使って人を引き付けるのは良い方法だと思いますが、滞在してもらうための別の要素も必要です。芦別のもう一つの問題は、富良野や美瑛の近くにあることです。みんな富良野に花を見に行ったり、旭川でナイトアウトや食事を楽しんだりします。例えば、十勝清水では「牛玉ステーキ丼」を考案して人を呼ぼうとしましたが、あまり成功しませんでした。同様に北見ではホタテ入り焼きそばを作り、それも美味しいのですが、それだけでは十分ではありません。食べ物は間違いなく観光の重要な要素の一部ですが、それだけでなく他の要素も必要だと思います。
-横山さん:最大の課題は距離だと思います。北海道は東京や大阪などの主要都市からはかなり遠いです。新幹線が東京から札幌まで開通すれば解決するのでしょうか?まだ分かりませんが、それでも遠いです。ただ、東南アジアからの観光客は多いです。北海道の夏は涼しく快適で、冬はスキーが楽しめるので人気があります。多くの観光客を受け入れているのですが、ヨーロッパからの観光客をもっと増やすことが課題だと思います。ヨーロッパの観光客は滞在期間が長く、より多くのお金を使う傾向があります。その観点から、ティムさんにお聞きしたいのですが、ヨーロッパの観光客を北海道に引き付けるためには何が必要だと思いますか?
ティムさん:私にとっては、そんなに遠く感じませんね。例えば、イギリスから東京まで飛行機で行くのはすでに長いフライトなので、そこからさらに遠い場所に行くのをためらう人もいるかもしれません。でも、北海道にはたくさんの地方空港があり、東京から稚内までのフライトはたったの2時間ですし、札幌、函館、旭川、網走だったら、どれも1時間半ほどです。それは関西に行くのと同じくらいか、それより短いくらいです。初めて日本に行く人はほぼ全員「ゴールデンルート」をたどりますよね。東京、箱根、京都、大阪、奈良など。でも、(ゴールデンルートの)反対方向に行くように伝えるのもいいかもしれませんね。京都のことはみんな知っていて、清水寺や金閣寺の写真を見て「行きたい」と思うことでしょう。でも、私にとってはなぜ北海道に行きたいのかは明白です。北海道にはすべてがあります。美しい景色、美味しい食べ物、そして歴史があります。ただ、ヨーロッパの人は、アジア人が思っているほどの北海道についてのイメージがないように感じます。それが難しいところですが、食べ物は確実に北海道を訪れる理由の一部になれると思います。特に海産物は重要だと思います。みんな日本で寿司を食べたいと思っていますから。寿司だけでなく、刺身や海鮮丼なども。北海道は滞在コストも東京や京都に比べると安いです。こうしたものをもっとプロモーションすれば、人々が惹かれるかもしれません。
-ティムさん、最後に読者へメッセージをお願いします。
ティムさん:お伝えしたいことは、ほぼお話ししたので付け加えるなら、北海道は私にとって特別な場所であり、多くの人にとっても特別な場所だということです。日本を訪れるときに、自分にとって特別な場所がどこかを考えてみてほしいと思います。日本には本当にたくさんの場所があるので、何に興味があるのか、何を見たいのか、何を学びたいのか、何を食べたいのかを考えて、その場所に行ってください。私にとっては北海道がその場所であり、多くの人にとっても、よく考えてみれば北海道がその場所になるのではないかと思います。
「HOKKAIDO」は、これから北海道を旅する人、住む人への良い入門書になると思います。すべてを詰め込むのは無理なので、「北海道のベスト」をこの本で紹介して、あとは本を読んでくれた人が自分で調べたり、探索したりしてくれたらと思っています。
-ありがとうございます!横山さんからもメッセージをお願いします。
横山さん:ティム・アンダーソンの「HOKKAIDO」をぜひ買ってください(笑)!



編集後記:
編者は北海道札幌市生まれ&育ちですが、この「HOKKAIDO」には、私が知らない”北海道”がたくさん掲載されていました。馴染みのメニューがあったり、全く知らなかったご当地メニューもあったり、読み進めるうちにティムさんと一緒に北海道グルメ周遊をしているような気分になりました!歴史的にも知らなかったことが多く、改めて我が故郷「北海道」は奥が深いと思いました!
また、この本を通じて、「そこにしかないもの」の良さを改めて実感しました。その料理が提供されるまでには、さまざまな背景、理由などがあり、そこで食べるからこその味わいがあるのだと思いました。編者自身、訪れたことがない北海道の各所があります。2025年は、この本を持って、訪れてみたいです。
ティムさん、横山さん、お忙しい中インタビューにお時間いただき、ありがとうございました!ティムさん、「HOKKAIDO」第二弾をぜひ!!