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母さんの夢 8

「紅茶淹れて」
 さっき、飲む? と訊いたときは、いらないと言ったのに。
 しかし、私は夫の言葉に従った。
「ホット? アイス?」
「ホット」
 九月の下旬は、飲み物に関して中途半端な季節だ。でも秋であることを示すように、間窓枠から侵入する雲は、空の高いところで流れている。
 リビングの食器棚を見た。
 美しい。いつ見ても、何度見ても美しい。そして華やかだ。美術の才能皆無の私の作品。ティーセット専用の食器棚。

 ロイヤル・クラウン・ダービー、ウェッジウッド、ヘレンド、ノリタケなど、八種類のティーセットを並べている。ワンセットは、ポットとクリーマー、そしてティーカップとサーソーが二客。私が勝手にそう決めた。
 何という我儘ぶり。なぜなら、皿は百円ショップ。
 何という我儘ぶり。たかが夫と二人きりのティータイムに、高級洋食器を使うのが腹正しい。
 何という我儘ぶり。でも、使いたい。
 ウエッジウッドのワイルドストロベリーのセットを取り出し、百円ショップのトレイにのせた。ウエッジウッドに対する冒涜甚だしい。
 キッチンに入り、ティーセットを軽く洗った。そして、ケトルに多めの湯を沸かす。

 窓を開け、換気扇を回した。ここは七階建てマンションの六階だ。
購入は二十八年前だが、ローンは完済。義母の説得により、義父が多額の頭金を出してくれたからだ。
 そんなことを思い出すと、思い出さなくてもいいことまで思い出してしまう。
 若き日の夫は、私の父に全く信用がなかった。
 夫を紹介したとき、父は言った。
 二つ年下? 芸大を出て油絵を描いている? 絵画教室のアルバイト講師だと? そんな男に娘をやれるかっ。だめだーっ。
 

   続きます

それでも好きやて言うねやったら、しゃーないやん。
でも親の立場からしたら、娘の結婚相手は、定職に就いていてほしいわなぁ。

美術の才能皆無の翔子さんの過去も、徐々に暴露されていきます。
そんな翔子さんですが、食器棚の美しさだけには自信を持っているようです。何といっても、高級洋食器ですから。

写真は、どこかの花です。
名前も知らないけど、美しいわぁ。

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Yu-to

私にサポーターが現れるとは思えません。 え? してくださった? おおきにどすえ。

いいことあるよ♡
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主に小説とエッセイを書いています。 別の媒体で出版した物語を加筆訂正しました。 続けて読んでいただければ嬉しいです。